傲慢判決③
「危なかったよ。あんたが間抜けじゃなかったら死んでた」
「なぜだ、なぜ。殺したはずだ、我の攻撃で確実に空間ごと」
喚く。見苦しい。頭だけのこいつはやはり化け物だ。
ライアはドー・キュラーの額に自身の血で十字架を刻むと語りだした。
「まぁ、冥土の土産だ。簡単なことだ、初めに一枚あの光の盾を張った、だがお前はあれを貫通するほどの術を使ってくると分かっていた。だから、後ろに下がってこの部屋の入口にもう一枚盾を張った。単純だろう、二枚の盾でお前の攻撃を受けとめる。そしてお前は一枚目の盾の後ろに俺がいると勘違いして油断して術を解く、そこに最大威力のあの矢を撃ったんだ」
「そんな単純なことに、我が、われが」
ドー・キュラーは動揺を隠しきれずにいた。そんな様子をライアは愉快な気分で見つめる。そうして見つめるのも飽きたころに術の詠唱を始めた。
「Drive away the darkness of the present.これでお前の夢も、一族も潰えるわけだ。せいぜい、くだらない夢を持った自分を呪え。Amen」
白い光が吸血鬼を包みこむ。
「この、だが、まだ」
崩れていく体。だんだんと灰に代わっていく。そうして、すべてが灰になったころライアは苦しそうに王の間を後にした。
その後の彼は実に機械的だった。宮殿に残っている吸血鬼を一匹残らず駆逐しつくした。その顔に喜びも悲しみも絶望もなく。心には達成感も幸福感も何もない。
血まみれになりながら、すべてを殺しつくし彼は宮殿の外に出た。日が昇りかけていた。城壁から少し日光が刺している。
「そうだ」
ふと思い出して、あの老人の吸血鬼とあの乱入者シェイの魔力を探ってみる。
「あの老人の魔力が消えている。そもそも戦闘の音もしない」
シェイが勝ったのだと理解する。ならば、この国に残る必要はもうない。急いでここを離れ―——。
「あー。ライアいた」
シェイの声だ。目の前にシェイがいる。向かってくる。
「よかったよかった。終わったんだね、無事に。こっちもしっかり倒しといたから、次の国に行こう、きっと僕たちであんな、」
「シェイ!!」
ライアは怒鳴りつけるようにその名前を呼んだ。急に大きな声を出すものだからシェイは驚いて少し体がビクリと揺れた。
「なぜついてくる。なぜ戦う。お前は何もしなくていい、あいつにも言われたはずだお前に戦いなんて似合わん」
「なんだよ、急に。確かに言われたよ、でも僕だってあんなのはもう御免なんだ、親しい人が傷つくのは嫌なんだ。だから、君が戦うから」
「ふざけるなっ!!」
シェイを押し退けて背を向ける。
「それは俺も同じだ。それが嫌だから戦うんだ、傷つくのは俺だけでいい。矛盾を抱えるのも、傷を負うのも、苦しむのも全部俺だけでいい。お前は、‥‥‥お前はもう」
二人は黙り込んでしまった。
少したってライアは歩き出した。次の国に向かおうというのだ。シェイはまだその場にたたずんでいる、きっとどうしたらいいのかわからないのだ。だが、それは初めからそうなのだ。彼は自分が傷つくことでシェイを、世界を守ろうとしている。でも、シェイはそれが嫌なのだ彼が傷つくのは耐えられない、だから彼のために戦う。
二人の思いはおんなじだ。だから理解しあえないし、お互い苦しむことになる。それが嫌だから戦っているのに、苦しんでいる。戦う理由がわからなくなる。
シェイは‥‥‥
「グフッ、があ」
突然腹部に強い衝撃が、
「ああ、あ」
何かが刺さってる。貫かれている。血が流れてる。
「!?シェイ」
異変を感じ取り振り返る。視線の先では赤い、どこまでも赤い色をした人間がこれもまた赤い剣のようなものでシェイの腹部を貫いていた。
「貴様っ」
赤い人間は笑うと、シェイを刺した剣のような物ごと投げ飛ばした。
「英雄よ。油断したな、私を殺したと錯覚したな」
「その声は、ドー・キュラー」
驚愕。殺したはずだ、あいつは死んだはずだ。
「我は体の一部分が残っていればどんな状態でも再生できるんだ。万が一のために、指を数本隠しておいたのだよ、だがさすがに大量の魔力を消費したよ、術の行使もままならなくなるなんて」
話を聞きながらシェイの状態を目視で確認する。
息はある、まだ助かるはずだ。
「ん。ああそこの人間が気になるか。ふふ、あの人間もってあと数十分といったところか、なかなかの生命力だな。我を倒してすぐに治療すれば間に合うかもしれんぞ」
「そのつもりだ。すぐに殺してやる、術の使えないお前など恐れるに足りん。ましてや日光も出てる。お前の負けは確定している」
「完璧に日が昇るまで十分か。十分だ、ここからは我も本気でいかせてもらうからね」
魔力が膨れ上がる。
尋常じゃない。先ほどよりも、さらに。
「真・化」
体———赤いのはどうやら血であるらしい―——を変化させていく。バキバキととてつもない音、一通りの変化が終わると、まるで西洋の甲冑のような形になっていたがやはり異質だ。甲冑はやはり化け物のような姿で恐怖すら感じる。まるでバーサーカーのよう。
「始めよう英雄」
理性を保っているのか。あの騎士の真似事をしていた吸血鬼よりも格の高い力だということか。
「くっ」
いつもの二振りの短剣を顕現させる。
バーサーカーは血で作った、やはり西洋風の両手剣を構えた。




