傲慢判決②
腰に付けたポーチから小型の爆弾を二つ取り出して横の壁に投げつける。
ドンッ、という大きな音と共に壁が吹き飛び穴が開いた。できた穴の中に逃げるように入り、できた穴を大きめの盾でふさぐ。
「はぁはぁはぁ」
ライアは見るからに疲れていた。当たり前だ、いくら歴戦の英雄と言えども、吸血鬼との三連戦、約二十分にも及ぶ血の枝の回避、それによって傷ついた体、疲れないわけがない。
攻撃が一時的に止まる。
ふぅとひとつ息を吐く。
「Recovery operation」
体に治癒の魔法をかけながら戦術を組み立てなおす。
奴の手札はいたってシンプルだ。一つ一つ整理しよう、まずは奴の吸血鬼としての力だがこれは未知数だ。仕方ない、奴本体がまるで動こうとしないのだからわかるわけがない。だが、吸血鬼としての基本能力は使えるはずだ、影移動、圧倒的身体能力、その他もろもろ。
そして一番厄介なのが、
「!?」
危険を察知して後ろに飛びのく。すると次の瞬間、無数の血の枝が壁と盾を貫通してライアに迫ってきた。
「壁も貫けるのか」
そう、厄介なのがこの血の枝だ。こいつは変幻自在に追ってきて無数に分裂する、尚且つ数はたぶん無限に増え続けるし、新しいものを生成することも出来る。
「満たせ。女神の愛盾」
光の壁、いや光の盾を出現させて血の枝を止める。
この血の枝、壁を貫くほどの鋭さと俺に斬られてもびくともしない強度を持っている。
「ふむ」
ならば、これほど強力ならば相当の魔力を食うはずだ。だのに、奴は魔力切れの気配すら見えない、なんならここからでも奴の魔力の圧を感じるくらいだ。
そしてこれだけの能力なら扱い話難しいはずだ。その証拠に、あの血の枝の速度はどれも一定で、おそらく強度も。
一通りの整理が終わった。
もちろん長期戦は不利である。
「ならば、溢れろ。猛烈な暴風」
猛烈な暴風、女神の愛盾が受けたダメージをそのまま魔力に変換し、その魔力で特大の風を起こす模倣品―——使用者の魔力を込めることも可能。
巻き起こる暴風。それは目の前の血の枝をぐちゃぐちゃに吹き飛ばし、粉々に打ち砕いた。
それを確認するとライアは入ってきた穴から飛び出した。そして目の前にドー・キュラーを見据える位置に立つ。
「まさか、あれを砕くか」
ドー・キュラーは驚いている様子だ。
好機。
弓矢を顕現させ、即座に数発撃ち込む。だが、どうやら自動で防御する能力に仕上がっているらしく、矢は王の目の前で止められた。
「———ええい」
ドー・キュラーはまっすっぐ血の枝を放ってくる。だが、さっき自慢の盾は使ってしまった。あれをもう一度使うには少し時間を置く必要がある。
だが、
「もってけ偽・女神の堕盾」
血を吐きながら英雄は叫んだ。使えないはずの盾を使用した。光の盾、それは黄金に輝いているはずだが、今は紫に鈍く光っている。
鈍く光る盾は見事に血の枝を止めた。どうやら機能はそのままのようだ。
「止めるか、だがもう決めさせてもらうぞ。戯れはしまいよ」
ライアからは見えないが、ドー・キュラーは何か特大の技の準備をしているらしい。
「あんたの敗因は初めから全力で俺を殺そうとしなかったことだ」
「何」
ライアは矢を番えて魔力をできる限り叩き込む。
「俺をもてあそんでいたようだが、俺があの吸血鬼たちの仇だからか。だが、お前はそれで俺に攻略の時間を与えてしまった」
「何を言うか。お前は井の中の蛙だ、もう逃げられはしない、死ぬだけだ。万一にも我に触れることすらできない」
魔力が高まる。
「おわりだよ、英雄」
枝をかき分けるように、その中からまるでドリルのような血の塊が回転しながら向かってくる。
衝突。光の盾にひびが入る。
ビキビキと音が鳴る。
「まさか」
その血の塊は偽・女神の堕盾を貫通してその奥の王の間の空間を削り取った。
「ふ、ふは、ふはは。はははは。あっけないな、」
能力を解除した。巨大なドリルのような血の塊が消える。そして、王の間の入り口が姿を現しそこには英雄がいた。
「なっ」
矢が放たれる。
神速の一撃。だが、どれだけ速度が速くても、ドー・キュラーの術はあらゆる攻撃を自動で防ぐ。あの血の枝で。強度の変わらない血の枝で。
特大の魔力を込められて放たれた矢は血の枝のバリアーを突破し、ドー・キュラーの体を頭だけを残して吹き飛ばした。残った頭が無様に転がる。
ライアはそれに静かに歩み寄った。




