平和の監獄①
世界の端にアルド王国という国があった。
いまや枯れた世界の中にあるその国は、奇妙なほどに栄え、緑を取り戻し人々が豊かに暮らしている。
さらに、街には活気が溢れ、まるで戦前の世のような輝かしさがある。
なぜ?
今の世、まともな暮らしをするだけでも困難だというのに、いかにしてこのような活気を取り戻したのか。
結論から言えば、現国王がすごかったとしか言えない。
戦争終結後、現国王ドー・キュラーがその圧倒的な手腕によって、この疲弊しきった世界の中で国を立て直し、着々と復興への道を歩んでいた。
ただ、国民がドー・キュラーの行った政策の理解はできても、なぜ自分たちが豊かに生活をできているのか、枯れた土地になぜ緑が蘇ったのかはわからなかった。
それほどまでに、ドー・キュラーの行った政策は素晴らしく、難解で、摩訶不思議で、奇跡のようであった。
だから国民は、わけもわからずドー・キュラーに従った。はじめは胡散臭いと思っていた国民たちも、やがて皆が、国王のことを慕い、尊敬するようになった。
そんな人気爆発中の国王の下で、国はだんだん豊かになっていったのである。
だが、もちろんそれを良しとせず、アルド王国をよく思わない人たちもいる。それは、生きることも困難になったアルド王国の外にいる人々だ。
彼らは平和に暮らすアルドの人々を憎んだ。
それも当然だろう。しつこいようだが、ここは荒廃し、疲弊し、人々が暮らすのが困難な世界である。
アルド王国から一歩でもでれば、そこには荒れた台地と生きることを失った人であふれかえっているのだ。
生きることを失った彼らは、普・通・の平和を手にした国民を憎み今にも争いでも起こしそうな勢いである。
反対に、国民はそんな現実から目を逸らし目の前の幸福を抱えてドー・キュラーのイエスマンになり果てた。
そうして、争いが起きるのは当然だった。
戦争は苛烈を極めた。
アルド王国がもともと所持していた軍隊によってなんとか鎮圧したが、国民は外の人々に恐怖し、畏怖の感情を向けた。
ドー・キュラーと国民はそんな外の人間が再び攻めてくることを恐れ国の周りに、厚さ四メートル、高さ六メートルにもなる城砦を築き、永遠の平和を維持するために軍を再整備し警備を強化し、外の人を、世界を拒絶し、閉ざされた平和の監獄となった。
そうして、長く、永い夢を見続けていた。
それがこの国の終わりであり、始まりだった。