傲慢判決①
ライアは瞬時に投擲用ナイフを六本、両方の手の指の間に挟むようにして顕現させ瞬時にドー・キュラーに投げた。
投擲されたナイフは亜音速で進む。魔力が大量に込められているであろうそれは、いくら投擲ナイフだと言えどもあたれば致命傷となる。
しかし、ドー・キュラーは動かない。椅子に座ったままでピクリとも動かない。
これにはさすがにライアも驚いた。吸血鬼がいくら体を再生できるとはいえ、それには多少の時間がかかるしその間に攻撃されたら元も子もない、さらにそのナイフが吸血鬼に対して絶大な効果を持っていた場合、やられる可能性だって出てくるのだ。だから今までの吸血鬼たちだって可能な限りの攻撃を避けるか捌くかしていた。
なのに、ドー・キュラーは一向に動こうとしない。ナイフは目の前に迫っている、その勢いのままナイフはドー・キュラーを捕らえ、
「!?」
二度目の驚愕。
ナイフが吸血鬼のそばまで血数いた瞬間、細い血の糸のようなもの―——糸というには太すぎるが―——が六本のナイフをすべて寸前で受け止めた。
「ぬるいな。相手は化け物だぞ、英雄。一つ一つの攻撃すべてが殺すためのモノでなければ、最強の攻撃でなければ我を殺すことなどできない」
なんという奴だ。亜音速のスピードを持ち、致命傷を与えるほどの威力の攻撃を軽々と受け止め、それを弱いというのか。
「こないのか。怖気ついたか。ふむ、アシェリ―とアンデを殺したキュリアの英雄、どれほどのものかと思ったが。いや、もういい。お前は仇だ、我らの同胞の仇。お前は贄だ、我らの野望を果たすための」
王の体から魔力が放出される。あまりの濃度と量に気圧され、無意識のうちに数歩後退していた。
「じっくりと味わえ、恐怖と絶望を」
これから戦争が始まるらしい。
戦争という単語で頭を振る。そして吸血鬼を見据える。
「もう十分だよ、あれだけで」
英雄は使い慣れた二振りの短剣を顕現させると、吸血鬼目掛けて一直線に突進した。
「血操術」
吸血鬼の周りに先ほどの血の糸が大量に出現した。それらの先端は鋭くとがっており、人体くらいならたやすく貫けるだろう。
「血枝千針」
ドー・キュラーが腕を前に突き出す。その動きに呼応するように血の糸はライアに向かって伸びる。そして、血の糸は太さはそのままで無数に枝分かれして二本三本とだんだんと数を増やした。それはもはや、血の糸ではなく血の枝であり無数の針のようである。
「くっ」
ライアは、目の前の血の枝をよけるために上に飛んだ。すると、ライアを追うようにそれらは上に枝分かれして向かってくる。
「英雄、こっちもだ」
ドー・キュラーは宙に浮く英雄に向かって第二波目を撃つ。
前と下からくる針の群れ。足元に盾を顕現させて蹴ることで方向を変える、そうすることでライアはギリギリのところでそれを回避した。
その後も何度も何度も攻撃を仕掛けたが、すべてあの枝に阻まれそもそもライアは全く近づくことができず、その圧倒的な物量に押されて苦戦を強いられていた。
向かっては阻まれ、向かっては阻まれを繰り返している。血の枝が邪魔ならばと切ってみたがそれもかなわない、できるのはせいぜい少し軌道を逸らすことくらいだった。
万事休す。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。




