君が僕は⑥
ライアはドー・キュラーのいる宮殿に向かって一直線に走っていた。後ろでは、老人の吸血鬼と乱入者シェイの闘いの音が聞こえてくる。
「あいつ‥‥‥」
ついてくるなと言ったが、好都合だ。今は利用させてもらう。‥‥‥しかし、あいつも律儀な奴だ。まだあの戦争のことを引きずってやがる。いや、それは俺もだ、だから戦争の傷を負うのは俺だけでいいんだ。あいつまで傷つくことはないはずだ。
「‥‥‥アーシャ、君はどう思う」
君はシェイが戦うことを許せるのかい。
——————昔の女をまだ引きずっているようだな、アーシャに聞いたって返事はないぞ。もう死んでいる、帰ってくるのは俺の声だけだ。
「また、お前か。出ていけ、邪魔をするな」
——————お前の心の闇がなくならない限り、俺はお前の中に居続けるさ。それに、俺が何の邪魔になるというのだ、敵陣の中で考え事をしているお前の目を覚ましてやったというのに。
「ふん、死なれちゃ困るからだろう。俺の体を手に入れるために」
——————ふふ、だからお前に死なれては困るのだ。ドー・キュラーとやらには勝ってもらわなければ困るのだ。だから、余計な思考はやめて集中するのだな。
「わかっている。貴様に言われるまでもない」
余計な思考を吹き飛ばす。宮殿はもう目の前だ。
足に力を入れる。魔力を込める。たったのこれだけ、これだけの動作を入れることで爆発的なエネルギーを生む。そう、高さ五十にもなる壁を飛び越えられるくらいには。
跳ぶ。目指すは宮殿の最上階、王の間。王の間の入り口前は筒抜けの通路になっていて外からの侵入は容易だった。
そして、視線の先には偉そうに座る吸血鬼の長ドー・キュラーがいた。
「よくぞ来たな、キュリアの英雄よ。我が国王ドーキュラーである」
「わかってるさ。お前がまた戦争を引き起こそうとしてる化け物だってこともな」




