君が僕は④
「シェリダン」
老人は死んだ吸血鬼の名前をつぶやくことしかできない。
「さすがに死ぬかと思ったよ」
男は笑っている。
足元に転がる死体は灰となって消えていく。
「なぜだ、なぜ」
ようやく頭が冷えてきたのか、思考が巡り始める。シェリダンの体はなぜ再生しない。吸血鬼である我々は、体をすべて吹き飛ばされない限りどんな傷でも再生できるはずだ。それに、なぜ奴は生きている。
「なぜ生きてるかって?」
「!?」
思考が読まれた。
驚きの表情を、男は満足そうに眺めると突然ふふと笑った。
「あんたの術のせいで地面が溶けて柔らかくなってただろう。だからこれを使って掘ったんだ」
いつのまにか左手にはつるはしが握られていた。
「これには特別な力があって一振りでかなりの深さまで掘れるんだが、それでも俺が潜れるほどの深さをあの短時間で掘ることはできない。だが、さっきも言った通り地面が柔らかくなってた、簡単だったよ、地面に潜って隠れるのは」
「ならば、なぜシェリダンは死んだ」
「なぜ死んだのか。これだよこれ」
男は手に持ったソレを左右に振る。
それは剣の形をしているようだが、県に当たる部分に刃はなく先端も角ばっている。もはや、剣というよりはただの箱である。
「今俺はあまり気分が良くないんでな、憂さ晴らしに話に付き合ってやる。‥‥‥さて、この剣なんだがな、これは対魔の剣ってやつで普通の人間に使おうとしても斬ることはできない。しかしな、これを人ならざる化け物に使うと見事に剣としての役割を担ってくれる」
言いながら男は剣らしきものをくるくると回す。
「だが、残念なことに切れ味がそんなに良く無くてな、化け物に対して普通の剣として使うと折れちまう」
話し込んでいる今がチャンスだ。
ブラムはそう判断し、術式を構築し始める。
「だが、ああ、これの名前を言ってなかったな。対魔の剣:首切り。名前の通り、化け物の首を斬るためだけに作られた剣だ」
「launcher!!」
老人の手から最速の弾丸が放たれる。
だが、男はそれをよけ一瞬のうちにブラムの目の前に迫った。
「首を斬られた化け物は、どんな能力を持っていようと死ぬ」
放たれる斬撃。
ブラムは反射的に首を守った。そして、それが間違いであることに気が付いた。
刹那の判断。全身の力で後ろに飛ぶ。
「はぁはぁ」
間一髪だった。胸部を見ると横一文字に浅く切り傷が付いていた。
「やはり、ブラフか」
「よく気が付いたな、老人。そうさ、ブラフさ。本当は人以外の化け物ならこの剣は何でも切れる、だがわかったからなんだ、首を斬られたら死ぬのは変わりない」
それだけじゃないな。今斬られた個所からして首だけではなく、心臓を斬られても私は死ぬはずだ。
「遊びで終わりだ英雄、本気で殺して差し上げよう」




