君が僕は②
老人の姿をした吸血鬼は、炎を宿した両手で空間を作った。その空間の中で炎を球体に変化させ、循環、加速、膨張を繰り返す。
暑い。かなりの距離離れているはずだが、ここまで熱気が伝わるなんて。灼熱の世界はあらゆるものを溶かすようだった。
「!!」
なるほど。そんなこと、
「させるかよ」
老人に向かって一直線に走る。その速さはまるで風のようで、常人には目でとらえることもできない。止められるものはいないはずだ。
「ははっ。こっちのセリフだ、させるかよ。行け、土鬼人形」
掛け声とともに少女の生み出した吸血鬼達が一斉にライアを襲う。
「ちぃ」
行く手を阻まれ仕方なく一匹ずつ対処していく。
「Concentration」
そんなことをしている間に老人が術を唱える。すると炎はさらに膨らみ、リンゴ並みの大きさだった炎も老人の体を覆う程に大きくなっていった。
そして老人はそのまま翼を生やし、真っ黒な空に吸い込まれるように飛んだ。
空気が冷え切っている。どうやらさっきの術は周囲の熱を奪い収集するものだったらしい。熱を奪われた世界はあらゆるものを凍てつかせるようだった。
「この程度で死んでもらったら困りますが‥‥‥ふん、覚悟なさい」
まるで太陽のような火の玉を、はるか上空から叩きつけるように投げた。
野郎、やはりこの町ごと俺を焼き払うつもりか。
それは地上に近づくにつれ、確実に熱を伝えてくる。周りの家はドロドロと溶け出し、あの様子だと中に住んでいた住民も同じように‥‥‥。
しかし、そんな中で吸血鬼達とライアは平然とそこにいた。何も気にすることなく戦いを続けていた。お互いに我々の尺度では測れないほど強靭さを持ち合わせているようだ。
こいつら、この吸血鬼達。まさか逃げもしないのか逃げなきゃ死ぬんだぞ。
少女の生み出した吸血鬼達は、まるで機械のように無機質にライアと戦っている。
やはり、こいつら使い捨ての駒にすぎんのか。あの女の血でいくらでも作れるってのか。
いよいよ火の玉が間近に近づいてきた。もはや周りの建物は溶けてなくなり、地面はドロドロになってうまくたつことも困難な状態だ。さすがの彼らも、体を魔力で守っていなければ周りの建物と同じようになっていただろう。
どうする、どう止める。
さっきの戦いで女神の愛盾は使ってしまった。あと十分はインターバルがある。どうする、どうする、どうする。
「おや、がっかりですね」
すさまじい音と共に火の玉が地面に衝突した。その刹那、一層激しい音と共に大爆発を起こし周囲一帯を更地に変えた。
「もはや、これでは」
生存は絶望的、勝敗は決しただろう。




