化け物④
何も反応できなかった。
気が付けば体がバラバラで、気が付けば自分は男を見上げていた。
「は」
ありかそんなの。英雄様が少し本気出しただけでこれか、俺はこんなもっと、
「もっと、なんなんだ」
目の前の男は、嘲るような目で見下してくる。
なんなんだこいつは、さっきから、そうださっきから戦ってる最中も俺の考えてることを、
「そうか、お前心眼を持ってるのか」
だが、それならおかしいだって、
「確かに心眼を俺は持ってる。だが、そんなことはいい。お前さっき思っただろう、俺はもっとなんなんだ」
「俺は」
俺は、もっと、戦いを楽しみてぇ。閣下のために、俺のために、あの日そう決めた。
だから、
「俺はまだ戦える!!」
バラバラになったからだが繋がっていく、次に見えた姿は継ぎ接ぎ、だが吸血鬼には十分すぎる。動ければ、戦えれば、剣を振れればそれだけで十分だ。
大剣をおよそ隙だらけで構える。
閣下。俺はこの一瞬のために使わせてもらいますよ。
「真・化」
彼は生きることをやめた。
継ぎ接ぎだった体はみるみるうちに回復し、その体を異形のものへと変えた。その姿はまるで獣のようで、人のような。人のようで、獣のような二つが合わさった姿をしている。
そう、これこそ吸血種としての真化を遂げた、彼だけがたどり着く境地だ。
「ガルァ」
真化を遂げた吸血鬼は唸った。
まるで最高の気分だ。今この一瞬、一瞬だけは俺が最強だ。
だが、力を得る代わりに彼は生きることを放棄した。
真・化。
それは、種としての限界を超え、種の境地へと至る技。
ただ、その命と引き換えに。
使えば最後、動けるのはせいぜい十分かそこらだろう。しかし、使えば絶大な力が手に入る、もはや命一つでは足りな程の力が、最強の力が。
「命を捨てるか」
覚悟を決めたらしい、厄介だな。
「はは、ははは。最高の気分だ。今ならお前殺せるかな」
全身の毛が際立つような感覚、体が、脳が目の前の吸血鬼は危険だと警告する。
「———わかってる」
頭の中で何かが変わった、同時に魔力を開放する。
———魔力全開放。
二人の魔力が研ぎ澄まされる。
「‥‥‥」
言葉はない。
ここから先かわすことはない。
だから、問題ない。
「うおおおおおおおおおお」
駆け出した。
もう迷いはない。




