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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

街で噂のお肉屋さん

 商店街の並びのひとつ、小じんまりしたお肉屋さん。

 入って直ぐのショーケースには、牛、豚、鶏の色んな部位のお肉。それと、コロッケやメンチ、唐揚げやトンカツなどのお惣菜が陳列されている。

 軒先には値段の書かれた短冊がのれんのように張り付けられ、奥の様子は伺い知れない。

「すいませーん、コロッケ二つくださーい」

 そう声をかけると、割烹着を着た大柄な男性が、ケースからトングでコロッケを摘まみ、茶色い紙袋に入れて差し出す。

「コロッケ二つで、200円になります。はい、丁度いただきます。ありがとうございました」

 値段表に遮られて、その表情は最後まで見えなかった。

 お肉屋さんから離れ、わたしは自分の分のコロッケを取り、もうひとつを隣の友達に。

「いただきまーす」

 そのままコロッケにかぶり付く。

 揚げてから時間が経っているだろうコロッケは、それでも衣はサクサクで、しっかり味付けされたミンチは噛むと肉の旨味がじゅわっ、とあふれ、それをホクホク感を残したじゃがいもが受け止める。

「んまっ」

 そしてわたしがぺろりとコロッケを平らげると、友達はなにかイタズラっぽい顔をして、

「ねぇ、知ってる? あのお肉屋さんの噂」

「噂?」

 食べかけのコロッケ。その断面をこちらに向けて、

「毎月29日は、肉の日でお肉の特売日。それでお肉が売れて在庫が無くなると、その夜に、必ず誰かが行方不明になるの。そして次の日のお肉屋さんには、在庫がなくなった筈なのに、ショーケース一杯にお肉が並ぶのよ……」

 なんだか、どこかで聞いたような話だ。古いホラー映画かなにかだったか。

「そして行方不明になるのは、みんなあのお肉屋さんのコロッケを食べた人なのよ!」

 ばぁー! と脅かすような友達を無視して、わたしは自分に向けられたコロッケにパクッ、とかじり付く。

「あーっ!?」

「アンタが行方不明にならないように、わたしが全部食べてあげるわよ」

 そんな風にふざけ合いながら、わたし達は帰路に着いた。


 なんだか寝苦しい夜だった。

 胸の奥になにか突っかえているような圧迫感。ふぅ、とタメ息を吐いてもそれは晴れず、わたしはベッドから身を起こし、肩に上着を引っかけて外に出る。

 夜気にはまだ昼間の暑さの名残があるが、それでも外の空気を吸ったお陰か、胸の圧迫感が少し薄れた気がした。

 真夜中の住宅街を、取り合えず近所のコンビニを目指して歩いていると、

 ジャアァァァァッ! と、響く甲高い音。それは楽器のようでいて、しかし芸術性のある音階は無く。無機質なくせに、肌をざわつかせる不快な意思を感じさせる音。

 ジャアァァァァッ! と、金属を引っ掻き合うようなその音は、直ぐ後ろから聞こえた。

 振り返ると、直ぐ近くの街灯の下、白い割烹着の大柄な男性。うつ向いた顔を真上から街灯が照らすせいで、その表情は伺えない。

 ジャアァァァァッ! と、その手に握られたヤスリと肉切り包丁が、闇の中で白く輝いている。

「うぷっ」

 急に胸の奥が込み上げて、わたしはそのままそこに戻してしまう。

 びたびたとアスファルトにこぼれ落ちるその中、小さな肉片が街灯に照らされ、

 それが、小さく細い、人間の小指だと気付くと、

 ぞりっ、と骨に添うように、肉切り包丁が刺し込まれた。


「コロッケ三つ」

「コロッケ三つで、300円になります。はい、丁度いただきます。ありがとうございました」

 肉屋で買ったコロッケを連れと分け合い、それをかじりながら商店街を歩く。

 コロッケはごろっ、と食べ応えのあるミンチと甘味のあるじゃがいものバランスが絶妙で、ソース無しでもそのままサクサク食べられた。

 と、軟骨だろうか。口の中に残る、少し固い肉の塊。それをごりっ、と噛み締めるとーー

「そう言や、知ってるか? あの肉屋の噂」

 こちらに振り返る連れに、俺は、いつどこで誰に聞いたのか、まったく覚えが無いのに、忘れられないその噂話を話し始めた。

 二階が床屋で一階が肉屋。二階でお客さんを髭剃り中にスパッ、とやって、そのまま一階の精肉所に落とす、みたいな映画が、たぶんあったと思うんです。

 ホラーだったか実際あった猟奇事件だったか、うろ覚えなんですが、なんかお肉屋さんて、ちょっと怖くないですか?

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