地球の温度 -1-
エネルギー保存の話です、、
§1. はじめに
物質は温度で決まる光のスペクトルを発します。地球の室温では、赤外線が主な発光域になるので人の目では見えません(体温が室温に近い人の動きは赤外線カメラが検知します)。黒体輻射スペクトルといいます。
溶鉱炉は2000℃くらいで赤く光ります。太陽の表面は6000Kで白くなります(地上では青が散乱されるので、やや黄色がかります)。更に温度が上がり10000Kくらいでは青白くなります。星の色から星の表面の温度がわかります。
ちなみに、宇宙の、できるだけ星のない方向に精密な電波や遠赤外線スペクトル測定をすると、宇宙の温度は2.7Kくらいと見積もられます。
宇宙から地球に入ってくるエネルギーのほとんどが太陽光です(宇宙線もありますが太陽光のエネルギーよりずっと小さい)。そのままだと地球はエネルギーをもらい続けて暖まります。もらった分を宇宙に吐き出さないと温度が上がり続けます。しかし、地球の表面からも輻射されます。この稿では地球にやってくる輻射と出ていく輻射のエネルギーが釣り合うと仮定して、地球表面の温度を決めます。
§2. 具体的な計算
太陽から地球に降り注ぐ光の輻射エネルギーと地球から宇宙空間に放出される輻射エネルギーが等しい(平衡である)と仮定します。星の表面温度と色が対応するのと同じく、放出される(輻射)エネルギーも温度で決まることを利用します。数式が並びます。面倒な方は、ここは飛ばして、計算結果式(15)に飛んでください。
スペクトルにはいろんな波長の光子が含まれます。波長によって光子のエネルギーは異なります。では、ある温度において、スペクトルに含まれる全ての光子のエネルギーの合算はどうなるでしょう。計算は省略して、結果を述べます。
U=σ・T^4 (1)
Uは、毎秒単位面積当たり放出される光のエネルギーで、単位は、[J/s/m^2]=[W/m^2](J/s=W,ワット)です。Uは何かの頭文字ではありません。ステファン-ボルツマンの法則と呼びます。光の色は区別せずに、光のエネルギーを合算したものです。単位に出てくるワットは、家庭用電力契約や検針に使われる、あのワットです。通常は、仕事率や電力などと呼びます。この稿では、家庭用電力との比較をイメージしやすいように、ワットの語をつかいます(通常、ワットは単位を表します。この稿でのみ物理量として使います。単位時間あたりのエネルギーです)。Tは絶対温度[K]、UはTの4乗に比例します。σは比例定数で、ステファン-ボルツマン定数と呼びます。
σ=5.67 x 10^(-8) [W/m^2/K^4] (2)
さて、ここに、太陽表面の温度T=6000Kを代入します。
Us= 5.67 x 10^(-8)×6000^4
=8.515×10^7 [W/m^2] (3)
たったの1平方メートルから、8.515×10^7[W]も放出されています。このエネルギーが太陽の半径の表面から放出されています。添字sは太陽(sun)です。
太陽の半径は、6.960 × 10^8 [m]です。半径rの球の表面積S [m^2]は以下です。
S=4π・r^2 (4)
半径rの「円の」面積の4倍です。式(4)のrに太陽の半径rsを代入すると、太陽の表面積が求まります。太陽の表面積を式(3)にかけると太陽からのトータルのワット Qs [W] を算出できます。
Qs=Us×4π・rs^2 3
=8.515×10^7×4×3.14×(6.960 × 10^8)^2
= 6.087×10^25 [W] (5a)
Us=Qs/4π/rs^2
= 8.515×10^7 (5b)
式(5a)(5b)は同じものですが、(5a)は密度Uを総量Qに変換する式であり、(5b)は総量Qを密度Uに変換する式です。
では、太陽の半径よりも離れた場所でのUを計算します。太陽からの光は太陽の中心から外に向かって、球対称に放射します。半径が遠ざかっても、太陽からのトータルのワットQsはそのまま放射します。太陽の半径よりも大きなrになると、その球の表面積は式(4)より、rの2乗で増加します。よって、単位面積あたりのワットUは、減少します。
U=Qs/4π・r^2 ただし、r>rs (6)
太陽表面からでたワットの総量Qsは一定です。太陽から遠ざかった球面では、面積あたりのワットは、半径の2乗に反比例して減衰します。
太陽から地球までの距離は、rse=1.496×10^11[m]です。添字seは太陽(Sun)と地球(Earth)です。式(3)は太陽表面から放出される「面積あたり」のワットです。地球まで届いたときには、太陽の半径の2乗/太陽から地球までの距離の2乗まで減衰します。
rs^2/rse^2=2.164×10^(-5) (7)
つまり、面積あたりのワットは、2.164×10^(-5) 倍に減衰します。太陽から離れているおかげで私たちは焦げたり溶けたりせずにすみます。式(3)を太陽から地球に注ぐ面積あたりのワット、Ueとします。
Ue=2.164×10^(-5) ×Us
=2.164×10^(-5) ×8.515×10^7
=1.842×10^3 [W/m^2] (8)
このワットを地球の断面積で受け止めます。半径rを地球の半径re=6.378×10^6 [m]とした断面積σeは以下です。
σe=π・re^2
=3.14×(6.378×10^6)^2
=1.278×10^14 [m^2] (9)
式(9)の地球の断面積を太陽からの面積あたりのワットである式(8)にかければ、地球が太陽から受け取るトータルのワットQseがわかります。
Qse=Ue×σe
=1.842×10^3×1.278×10^14
=2.353×10^17 [W] (10)
これだのワットが地球にそそぎます。やってきたワットのうち、30%は反射されます。つまり、宇宙から地球をみて青くみえるのは太陽光が海に反射されたもです。従って、残りの70%が正味地球に吸収されるワットQeです。
Qe=2.353^17×0.7
=1.647×10^17 [W] (11)
式(11)のワットを地球表面から輻射します。今度は地球全面にです。地表の表面積は以下です。
Se=4π・re^2
=4×3.14×(6.378×10^6)^2
=5.112×10^14 [m^2] (12)
従って、地球から放出される単位面積あたりのワットUeは以下です。
Ue=Qe/Se
=1.647×10^17/(5.112×10^14)
=322.2 [W/m^2] (13)
地球の表面温度をTeとする。
Ue=σ・Te^4 (14)
Te=(Ue/σ)^(1/4)
=(322.2/5.67 x 10^(-8))^(1/4)
=274 [K] (15)
絶対温度274Kは、1℃と見積もられます。
この単純な近似で、1000Kでもなく、10Kでもなく、室温300Kよりもやや小さな、私たちに馴染みの値を得たことは、なかなかの精度だと思います。
注1: 計算方法
ステファン-ボルツマン定数は、太陽も地球も同じ値なので、実はこの計算には不要です。輻射のワットが温度の4乗に比例すること、太陽、地球の半径、太陽と地球の距離だけでシンプルに計算できます。上の計算は有効数字3から4桁で変換しましたが、少し桁落ちしていると思います。
注2: 仕事率ワットについて
上では、単位のW、ワットを物理量として呼びました。実際には仕事率か電力量です。ワットで呼んだのは、発電所と比較するためです。以下をご参考にしてください。
火力、原子力発電1機の出力は0.1〜1×10^9 [W]です。式(10)の2.353×10^17 [W] が地球が太陽から受け取り、宇宙へ放出している分です。かなり太陽光は多いです。しかし、これは地球全面をソーラーパネルにした場合です。1平方メートルあたりでは、式(11)より、322.2 [W/m^2] です。ソーラーパネルの電気への変換効率は20%程度なので、64.44 [W/m^2]です。家庭の電気の契約が60Aであれば、家庭で使える最大電力は、これに電圧100Vをかけて、6000Wです。家庭用のソーラーパネルの面積30m^2(5m×6mの屋根)では、64.44×30×2=3864Wで(×2は、エネルギーを昼夜平均しているので、昼だけにエネルギーが集中しているためです)、昼間の電力を賄えます。6000Wは最大の契約量なので、晴れた日には、家庭のかなりの電力を賄えます。日中不在であれば売ることもできる訳です。
太陽の直近では、Us=8.515×10^7 [W/m^2]で、畳一畳(江戸間1.55m^2)から、1.55× 8.515×10^7=1.320×10^8Wと、発電所0.1機、10畳で1機分を放出しています。式(5a)より、太陽の総面積では、Qs=6.087×10^25 [W]で、発電所10^16機!になります。