半導体の電子と正孔の粒子性
前回までに、進行方向が同じ波でも、重ね合わせた波(波束)は、逆向きに動くことを説明しました。電子たちの重ね合わせの場合、個々の波の進行方向と波束の方向が等しいと、集団として、電子(の準粒子)と呼びました。波束の向きが逆の場合集団として、正孔(の準粒子)と呼びました。正孔はあたかも、電子と反対の電荷を持っている、つまり、プラス電荷を持った電子のようで、通常の電子と反対向きに動きます。このことは、ホール効果という実験で検証されています。
では、電子や正孔は、どういう場合に発生するかを具体的な材料を対象に、電子の粒子性から説明します。粒子性と小難しくいいましたが、ただ電子の数を数えるだけです。
材料は、シリコンSiです。Sは周期表で、IV属の元素です。4つの価電子という化学結合に関与する電子があります。化学結合は隣り合う原子を互いに一つずつ差し出して、安定になります。共有結合といいます。ある一つのSiを中心として四面体となるように他の4つのSiが囲みます。真ん中のSiは周りの4つのSiと共有結合できます。幸いなことに、この四面体の囲む側のSiも他の4つのSiの四面体に囲まれることが許されます。全てのSiは、価電子4つを全て共有結合に寄与して、安定となります。ちなみに、炭素CもIV属でダイアモンドは、Siと同じ構造です。むしろ、この構造はダイアモンド構造と呼ばれます。
さて、共有結合している安定な電子は、電流に寄与しません。しかし、本来Si原子がいるべき場所に窒素Nが10,000個に1個の割合で置き換わったらどうなるでしょう。少量のNを含むSiです。NはVI属で価電子が5つあります。4つは周りのSiと共有結合をつくります。残りの一つは共有結合には関与しないで、固体Siのなかを自由に伝搬します。これが電子(の準粒子)です。
反対に、Si原子がいるべき場所に、ホウ素Bがいたらどうでしょう。BはIII属なので価電子は3つです。周りの4つ全てのSiと共有結合を組めません。1つだけ相手のいない電子、つまり、本来いて欲しいがいない電子ができます。相手のいない電子は隣の共有結合電子を預かります。そして、預け合いが連鎖して、電流になります。移動するのは電子ですが、いるはずでいない電子が動いているように見えます。動く方向は電子と反対です。プラスの電荷を持っていて、かつ、本来いるべき電子がいない孔なので、正孔と呼びます。
窒素を添加したシリコンとホウ素を添加したシリコンを直列に接続します。前者は電子が、後者は正孔が流れます。電圧に対して互いに反対向きに流れます。電子と正孔が衝突する向きの電圧を印加すると電流がよく流れます。逆の電圧を印加すると電子と正孔は遠ざかって電流は流れません。片方の電圧の向きでは電流を流して、逆電圧では流さないデバイスをダイオードと呼びます。
シリコンに窒素やホウ素を少量することを、シリコンに窒素をドーピング、ホウ素をドーピングする、といいます。
窒素もホウ素も純粋なシリコンに対して不純物とも呼びますが、積極的に添加しているのでドーピングがわかりやすいです。