半導体の電子の波束 -電子と正孔-
光や音は、波長や周波数によらず速度が一定です(真空中の光は厳密に、音は近似的に)。従って、一つの波も重ね合わせた波束の速さは同じです。
しかし、電子の波の速さは、波長と周波数によって変わります。例えば、以下となります。
h/2πω=±1/2m×(h/2πk)^2 (1)
この関係は量子力学によります。ωとkの関係を分散関係と呼びます。同じ物質内部でも、電子のエネルギー帯域によって変わります。
前回に見た通り、波束の波を表す進行波は以下でした。
cos[(k1-k2)/2・x-(ω1-ω2)/2・t] (2)
k1>k2であれば、Δk=(k1-k2)>0です。なので、Δω=(ω1-ω2)>0であれば、波束はプラスxに進みます。(ω1-ω2)<0であれば、波束はマイナスxに進みます。
さて、式(1)には符号が±があります。+の場合波束は進行波の方向、-の場合、波束は反対の方向に向かいます。加えた電圧と反対の方向に電子が進むのです。
まるで、電子なのにプラスの電荷のように振る舞います。果たしてこんなこと、「実際に」起こるのでしょうか。
起こります。いま、平らで四角い板に電流を流します。四角の板の上下に電極をつけます。すると、下から上、もしくは上から下に電流が流れます。流れる電子の符号により、下から上、上から下になります。これだけでは、電子がプラスの電荷のように振る舞う証拠は見出せません。四角の板面に垂直に磁場をかけます。フレミングの左手の法則に従って、電流を担う電荷は曲がります。上下に動いているところを曲がるので、左右に曲がります。左右には電極がないので、左右どちらかに電荷が溜まります。すると左右に電圧が発生します。曲がる向きが、電流を担う電荷で変わります。左右に生じた電圧の向きが正電荷でないと説明できない向きに電圧が生じます。
左手の人差し指(電荷の向き)、中指(磁場の向き)、親指(電荷が磁場を受ける向き)を変えて試してみてください。
このように、複数の電子の波束の進行方向が本来の電子と同じ場合、電子(の準粒子)と呼びます。逆向きの場合正孔(の準粒子)と呼びます。
さて、量子力学的な、波動の重ね合わせで、電子と正孔を説明しました。
次回は、粒子性からお話しします。その後、半導体の整流作用(一方に電流を流し、逆向きには流さないダイオード)を説明します。できればトランジスタも、、。
*1: ホール効果で正孔を示す物質
グラファイト(黒墨)、ヒ素、アンチモンは、一つの物質に、電子と正孔が含まれ、半金属、と呼ばれます。いずれも、他の原子を添加すると片方だけの型の導体になります。例えば、グラファイトにフッ素を添加すると正孔が主成分の導体になります。
純度の高いシリコン(Si)は、電気絶縁性が高いですが、Si原子の一部がホウ素(B)に置き換わると正孔が生成され、半導体となります。
*2: 準粒子
互いに相互作用する粒子の集合で、その集団の振る舞いがある系の中で一つの粒子として特徴付けることのできる数えることのできる集団を言う。