進行波の重ね合わせ
それでは、二つの進行波を重ね合わせます。二つの電子の進行波です。
y1=sin(k1x-ω1t) (1)
y2=sin(k2x-ω2t) (2)
k1, ω1, k2, ω2は正とします。すると、y1, y2のどちらもプラスx方向に進みます。
二つを重ねます。
y1+y2=sin[(k1+k2)/2・x-(ω1+ω2)/2・t]
×cos[(k1-k2)/2・x-(ω1-ω2)/2・t]
/2 (3)
k1≒k2, ω1≒ω2, 平均値k=(k1+k2)/2、ω=(ω1+ω2)/2とする。式(3)のsinの項は以下となります。
sin[(k1+k2)/2・x-(ω1+ω2)/2・t]
=sin(kx+ωt)
k1≒k2, ω1≒ω2なので、この波は重ねる前の式(1)(2)とほぼ等しい波です。
一方、式(3)のcosの項が重ね合わせの主要因である。前々回のように、(ω1-ω2)/2・tが唸りです。
(k1-k2)/2・xは、空間的な唸りです。波束といいます。y1とy2の空間的な長さである波長をλ1、λ2とします。
k1=2π/λ1 (4)
k2=2π/λ2 (5)
k1-k2=2π(1/λ1-λ2)
=2π(λ2-λ1)/λ1λ2 (6)
波束の波長λは以下です。
λ=λ1λ2/(λ2-λ1) (7)
k1≒k2なので、λ≒λ2です。式(7)の分母は小さいので、例えば、λ2がλ1よりも1%だけ大きいだけとします。λ2=1.01×λ1です。このとき、式(7)は以下になります。
λ=λ1λ1×1.01/(λ1×1.01-λ1)
=λ1λ1×1.01/0.01/λ1
=λ1×1.01/0.01
=λ1×101
つまり、元の波y1, y2よりも波束の波長が101倍長くなります。音の唸りの周期が元の音よりも長いのと同じで、空間的な波長も元の周期よりも波束は長いです。
二つの電子の重ね合わせを考えていたのでした。一つずつの電子は、プラスxに進行していました。では、全体としてはどちら向きでしょうか。
式(3)で、波束の波を表すcosの波の進行方向を考えれば良いです。
cos[(k1-k2)/2・x-(ω1-ω2)/2・t] (8)
k1>k2であれば、Δk=(k1-k2)>0です。なので、Δω=(ω1-ω2)>0であれば、波束はプラスxに進みます。で、(ω1-ω2)<0であれば、波束はマイナスxに進みます。
k1<k2
纏めると、Δkが増えるとΔωが増えるかどうかで進行方向が決まります。
Δω/Δk>0
ならば、プラスx軸に進みます。
Δω/Δk<0
ならば、マイナスx軸に進みます。
前話の最後の式(3)で進行波の速度を導きました。同様に、波束の速度は以下で与えられます。
vg= Δω/Δk (8)
を群速度といいます。
通常、波長λの短い、つまり、波数kの大きな波ほど、振動数ωは大きくなります。この場合、vg>0で、進行方向はひとつひとつの波と同じです。
しかし、波数が大きいと周波数が小さくなる波は、vg<0で、逆向きに進みます。
要点
ひとつひとつの進行波はプラスを向いていても、重ね合わせた波束はマイナスに向かうことがある。
二つ(複数)の電子の量子力学的な波動は、一つづつではプラス向きに進行しているのに、重ね合わせた波束が逆向きに向かう場合があります。
一つづつの電子の向きと波束の向きが一致すると、電子(の準粒子)と呼びます。波束が逆を向くと、あたかも電子の電荷がプラスになったように見えます。これを正孔(の準粒子、ホール)と呼びます。
電子が流れる半導体をn型半導体、正孔が流れる半導体をp型半導体といいます。nは電子の電荷が負、negative、pはpositiveに由来します。