大気圧 -4-
圧力の高度依存性です。
§1. はじめに
まずは、地表の温度を一定として、圧力の高度の変化を考えます。実測では、温度も圧力も高度で変わります。いっぺんに計算するのは大変です。温度は、絶対温度で考えます。
§2. 絶対温度について簡単に
通常の温度℃は、水が氷になる温度(0℃)と蒸気になる温度(100℃)を基準にします。私たちは水に囲まれて生活しているので、この単位は便利です。一方で、気体の圧力が一定の場合には、体積と温度が比例することが知られています。℃で測った温度をT'とすると、この比例関係は以下で表されます。
PV=n・kB・(T'+273) (1)
Pは圧力、nは気体の個数、kBはボルツマン定数です。式(1)の実験は気体に対して測定され、どんな気体もおおよそ同じ直線に乗ります。現実には、温度が下がるとどんな気体も液体になり、この直線から外れます。そこを想像力豊かに、温度が下がっても、気体のままであると仮定します。データのないところに点や線を推測する方法を外挿といいます。体積と温度が比例しますが、体積はマイナスになりません。そこで、℃の温度T'に273を加算します。すると、どんな気体も原点を通る直線関係になります。新たな温度、すなわち絶対温度T[K]を以下で定義します。
T [K]=T' [℃]+273 (2)
すると、式(1)は以下になります。
PV=n・kB・T (3)
体積と同様に、絶対温度Tは、ゼロ以下にはなりません。
§3. なぜ圧力の高度依存性から考えるか
さて、地表の温度255 [K]は、氷点下-18℃です。めちゃくちゃ寒くはありますが、遊園地のアイスワールドで体験する温度です。アイスワールドの255 [K](-18℃)に対する室温の300 [K] (27℃)の絶対温度の差は、(300-255)/255×100=17%しかありません。これに対して、エベレスト山頂の気圧は0.3気圧で、地表の1.0気圧に対して、70%も低下します。そこで、圧力と温度の高度に対する変化を考察するにあたり、まずは、変化の少ない温度を一定と仮定して、圧力の高度依存性を検討します。
§4. 指数関数について
ここでは、指数関数の数学的な性質を述べます。よく急激な増加を「指数関数的に増加する」ということがあります。圧力は高度とともに指数関数的に減少します。指数関数f(x)は、次のようなものです。
f(x)=c・e^αx (4)
です。cは比例定数です。e=2.718..(小数点以下無限に続く無理数)をネイピア数と呼びます。ネイピア数は円周率と同じくらいに重要な数です。この関数f(x)は、以下の微分方程式をみたします。
f(x)=α・df(x)/dx (5)
をみたします。前作、「ネイピア数を求めよう」にも記載しました。
§5. 圧力の高度x依存性
ここでは、上空の方向をx軸にとります。今地面の面積をSとします(地面そのものというより、面積Sのx=0の地面からx方向の真上に向かう筒状の領域を考えます。高度xにおける圧力をP(x)とします。この圧力はこの高度において重力と釣り合います。高度がx+dxになると、重力がρ(x)dx×S×gだけ軽くなります。ρ(x)は質量密度 [kg/m3]です。gは重力加速度です。P(x+dx)は、P(x)よりも、ρ(x)dx×S×gだけ軽い重力と釣り合います。よって以下の式を得ます。
P(x+dx)×S=P(x)×S-ρ(x)dx×S×g (6)
左辺と右辺第一項のSは、圧力Pが面積あたりの力であり、右辺第二項が重力(力)であるためです。結局、Sは両辺からおとすかことができます。
P(x+dx)=P(x)-ρ(x)dx×g (6)
変形すると以下です。
[P(x+dx)-P(x)]/dx=-ρ(x)×g
dx→ゼロとすると左辺は微分になります。
dP(x)dx=-ρ(x)g (7)
気体の中の分子の個数密度ρ0は以下です。
ρ0(x)=n/V (8)
気体分子一つの質量をmとすると気体の質量密度ρは以下です。
ρ(x)=m・ρ0(x)=m・n/V (9)
式(3)より、n/Vは以下となります。
n/V=P(x)/(kB T) (10)
よって、式(7)は以下となります。
dP(x)dx=-mg/(kB T)・P(x) (11)
ここで、αを右辺の比例定数で定義します。
α=-mg/(kB T) (12)
すると、式(11)は以下になります。
dP(x)dx=α・P(x) (13)
これは、式(5)とそっくりです。関数f(x)に圧力P(x)に置き換えれば良いのです。答えは、式(4)です。
P(x)=P0・e^αx (14)
x=0の圧力をP0(=1気圧)としました。αは、式(12)より負の数なので、式(14)によると圧力は高度とともに指数関数的に減少します。
自然数eは、-αx乗で変化します。つまり、xが変化しても、αが小さければ変化しにくいですし、αが大きければ変化しやすいです。つまり、αxが1.0変化するためには、αが10ならば、xは0.1だけですみます。αが0.1ならxは10変化しなくてはなりません。
-1/α=kB・T/mg (15)
を考えます。この式は、拙作「大気圧 -3- 」にて、圧力が高度によらずに一定とした場合の成層圏高さの二倍です。
-1/α=kB・T/mg
=2×3.7=7.5 [km] (16)
です。式(14)を書き直します。xを[km]単位とすると、以下となります。
P(x)=1.0・e^(-x/7.5) [気圧] (14)
x=7.5 [km]のとき、
P(7.5)=1.0・e^(-7.5/7.5)
=1/e=1/2.71
=0.36 [気圧]です。
エベレスト山頂8.8kmでは、
P(8.8)=1.0・e^(-8.8/7.5)
=0.31 [気圧]
で、これは、エベレスト山頂の圧力と一致します。
成層圏の下限10kmで0.26気圧で薄いですがまだ地表の26%のガスがあります。上限50kmでは、0.001気圧とかなり薄いです。このあたりが空気が存在する上限でしょう。
お読みいただきありがとうございます。
注: 大気圧 -3-で成層圏の高さを富士山と同じ程度の3.7kmと見積もりました。式(14)によると、以下を得ます。
P(3.7)=1.0・e^(-3.7/7.5)
=0.61 [気圧]
つまり、地表の60%もの圧力です。地表に近い圧力が高い高度まで続くと仮定したためでした。積分計算をすると、高度に依存するモデルでは、3.7kmまでに全気体の40%、8.8kmまでに70%、15kmまでに87%、50kmまでに99.8%の気体が含まれます。