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苦手な方はご注意ください。

異世界逆襲物語 ~転移者への下剋上~

作者: リュウセイ

短編 (というよりも大きな物語のプロローグ)です。もしかしたらシリーズ化するかもしれません。初投稿であり、拙い表現が目立ちますが、読んでいただけると嬉しいです。


補足

この異世界はとても広大であり、惑星というよりも1つの宇宙と言った方がよいスケールです。

数十年前、自らを「魔王」と名乗る魔族の男が魔界に現れた。魔王は圧倒的なカリスマ性と力で当時分裂状態にあった魔界を一瞬で統一し、巨大な帝国を作り出した。魔王の野心は留まるところを知らず、魔王軍を率い、人間の世界に進軍してきた。


人間界と魔界は、長らく敵対状態にあり、その力は拮抗していた。しかし、人間の軍は魔王によって厳格に統制された魔王軍には手も足も出なかった。


「1人で一国の軍隊に匹敵する」と謳われた「大賢者」、「騎士団長」、「Sランク冒険者」、各国の「英雄」達は次々と魔王軍の前になすすべなく戦死していき、人間界は日に日に国土を失い、今から15年前の時点で、もともと数百あった国は今や50ほどに減少し、毎日数百億人単位の人間が戦死、人間界の領土は開戦前の半分以下になっていた。


人々は絶望した。自分たちは魔王軍に蹂躙されるしかないのかと。

人々にできたのは、神に祈ることのみ。

その祈りが通じた。今から14年前、神々は人類を救うため、別世界から人々を喚し、「チートスキル」と呼ばれる特殊な能力を与え、世界各地に放った。


転移者たちの力は圧倒的であった。各国の英雄たちを葬ってきた魔王軍の幹部をまるで赤子の手をひねるかのように一蹴し、地を覆い尽くす数万の魔王軍を蹂躙した。


そしてついに、転移者が現れてからわずか2年ほどで、転移者たちは領土を取り返すどころか魔界の本土に侵攻し、魔王を殺し魔界を完全に制圧した。


「勇者さま万歳!勇者さま万歳!」


魔界から帰ってきた転移者たちを、人々は拍手と歓声でもって迎え入れた。彼らにとっては転移者たちはまさに救世主である。

人類は転移者たちに対して、思うがままの報酬と名誉と地位を与えた。


それがいけなかったのかもしれない。

転移者たちは増長に増長を重ね、世界の支配者になるという野心を隠そうともしなくなり、ついに、世界各国の支配権の奪取に乗り出した。ほとんどの国の君主は転移者の力に完全に魅入られていて、すんなりと国の支配権を明け渡した。中には反対する国もあったが、そういう国に対しては、圧倒的な「力」で分からせる方針を取った。


人間界に直接手は下さない方針をとっている神々も、このときばかりは静観していられず、抵抗軍に加護や神々の武器を与えるなどの支援を行った。しかし、それは完全な逆効果であった。神の武器を持たせてもなお、人類は転移者に勝てなかった。それどころか、中途半端に強化された抵抗軍は転移者にとって良い「経験値」となった。


しかし、世界を支配しても転移者は満足しなかった。転移者はついに次元の壁を越え、神々の住む世界にまでやって来た。転移者たちが神の国に侵攻してきたことを知った神々は驚くどころか内心ほくそ笑んだ。

神にとって本来人間など相手にならないどころの話ではない。神が「消えろ」と「思った」だけで、人間など跡形もなく消えてしまう。それほどまでに神と人間の力の差は大きいのだ。

その神がこれまで魔王軍に苦しめられる人類に直接手を貸すことができなかったのは、「神は現世の出来事に直接介入できない」という原則があるためであった。上位の神が地上に降り立つと、それだけで宇宙そのものを崩壊させかねないからである。そのため、転移者が人類を攻撃した際にも、あくまで人間界での出来事であるからということで、人類への支援は加護や武器の供与など限定的なものに留まった。


しかし、転移者が神々の世界に攻め込んできたというのであれば話は別である。神々の世界では神は思う存分力を発揮できる。


「来たか、、、思い上がった愚かな人間どもめ、、、」


転移者迎撃のために出陣した神軍先鋒隊指揮官である軍神アレウスは、獰猛な笑みを浮かべながら、目の前の山の頂上で並んで立つ転移者に対し嘲り笑うような視線を向けた。


「だがまぁ、、、この軍勢を前にして逃げ出さない勇気だけは、軍神として褒めてつかわしてやろう。」


そう言いながらアレウスは自身の背後を振り返る。彼の眼前には豪華な鎧に身を包み、巨大な槍や弓を持つ数十億にのぼる神兵が隊列を組んでいた。彼らは決して雑兵などではない。一人一人が人間の冒険者ならば伝説的な存在であるSランクに匹敵する、アレウスの誇る本物の精鋭である。


そして何より、アレウスは歴戦の猛者である。神々の世界では、神は下位神、中位神、上位神、最上位神の4つに階級分けされている。そして、下位神ですら、国1つ、惑星1つ滅ぼすのは容易であり、さらに神は位が1つ違えば文字通り「次元が違う」ほどの力の差がある。

アレウスはこの中で中位に位置するが、その実力は中位神の中でも抜きん出ており、ゆくゆくは上位神に昇格するという噂もあった。アレウスからしてみれば、散々人類を苦しめた魔王でさえ実力はせいぜい下位神、いざ戦えば片手間で倒せるような存在であり、魔王を倒したからといって転移者が驚異になるはずもなかった。


「数多の宇宙を生み出し、支配してきた我ら神に勝てるなどと、、、身の程をわきまえるがいい、人間ども。」


そう言うとアレウスはスゥッと息を吸った。


「突撃ィッ!!!」


ビリビリとした衝撃波をまとったアレウスの号令が軍の端にまで響き渡った。

その号令の直後、前衛の神兵たちが雄叫びをあげ空を飛び、山頂に布陣する転移者たちに向かっていった。転移者からすれば、視界を覆うほどの数の神兵が高速で突っ込んでくることになるのに、彼らは特に動こうともしない。


(フッ、恐怖で動くこともできんか。)


アレウスはこの時点で勝利を確信した。数秒後には自慢の神兵たちの手によって転移者たちは1人残らず細切れにされるだろう、と。


(所詮は人間、なんと張り合いのないものか。)


アレウスがそう思ったとき、13人のうち真ん中に立っていた男が、自身の剣に手をかけた。


(ようやく動きだしたか。だが今さらどうしようもできまい。)


そう思った次の瞬間、男は剣を引き抜くと、その剣を横一文字に振るための構えをとった。そこで、アレウスの意識が途切れた。





「う、、、うぐ、、、っ」


意識を取り戻したアレウスは、自分が地面に這いつくばるように倒れていることに気づいた。身体中がズキズキと痛み、頭部からは血が流れてアレウスの顔を濡らす。自慢の鎧はバキバキにひび割れ、見るも無残な状態であり、その姿に偉大な軍神の面影はない。


「なにが、、、なにが起こった、、、?」


アレウスが憶えているのは、転移者の1人が迫り来る神兵たちに剣を振ったところまで。そこから現在までアレウスの記憶は完全に途絶えていた。


「っ! わ、我が軍は!」


ようやく意識がはっきりしてきたアレウスは状況を確認するため辺りを見回した。


「バ、バカな、、、っ」


アレウスの周りにあったのはおびただしい数の死体であった。立っている神兵は1人たりともいない。

ほとんどの神兵は原型すらとどめていない肉片になっている。さながら地獄のような光景を見て、ようやくアレウスは自分たちの身に起きたことを思い出した。


転移者はあの時、桁外れの力で剣を振り、衝撃波を発生させた。その衝撃波は転移者に迫っていた前衛部隊を跡形もなく消し去り、それだけに留まらず、前衛部隊の背後に控えていたアレウス達をも巻き込んだ。

アレウスの軍は「一撃」で殲滅させられたのである。


「け、剣を、、、ただ、、、振っただけで、、、あ、あんな、、、なんでもない攻撃で、、、わ、我らが、、、あ、ありえない、、、ありえないありえない、、、」


アレウスは現実を受け入れることができなかった。さながら、人間が自身の理解の範疇を超えたものを見たときに、脳が理解を本能的に拒むように。


「アレ?みんなどうしたの?俺、なんかやっちゃったかな~?」


アレウスの前から、戦場に似つかわしくない軽薄な調子の声が聞こえてきた。


「キ、キサマ、、、ッ 」


アレウスは近づいてくる声の主に対して、怒りと恐怖が混ざった視線を向ける。


「戦い前の素振りのつもりだったのにな~まさかこんなに弱いなんて思わなかったよ。」


「貴様は、、、転移者コウガッ!」


先程神軍を壊滅させた男、転移者の1人コウガは口調に違わぬヘラヘラとした表情でアレウスに近づく。

金色の髪と青い目をしたコウガは派手な貴族風のスーツに身を包み、右手に持った剣をプラプラと動かす。


「やれやれ、なにをそんなに怒ってんの?ただの素振りだって言ったじゃんやれやれ、君たちが素振りに負けるほど弱いからいけないんでしょやれやれ。」


「おい、コウガ。調子に乗りすぎだ。」


その声とともに、黒目、黒髪、黒いコート、さらに黒い2本の剣を腰に差した男と、彼に続いて残り11人の転移者がアレウスの目の前に現れた。コウガによる大破壊を目の前で見たはずの彼らの顔には、驚きが全くない。むしろ至極当然の常識だとでも言いたげな表情をしていた。


「一番新入りのお前が俺たちの許可もなく勝手に攻撃を仕掛けるな。」


先頭に立つ黒髪の男が淡々とコウガをたしなめる。どうやら、転移者たちの中でコウガが立場的に最も下であるらしかった。


「いや、だから素振りだよ素振り。」


「白々しい、お前が自分の素振りの威力を知らぬはずがあるまい。」


「そうだぜ。一番槍は先輩の俺たちに譲るべきだろ。」


黒髪の男、ケンジの後ろに控えていた11人の1人が進み出て、ケンジに同意する形でコウガに注意した。


「いや、ケンジさんはまだしもナオヤさんはスキルが戦闘系じゃないじゃないっすか。」


「ハァッ!?俺でもこんぐらいはできるわ!ひよっこが舐めんじゃねぇ!あんまり調子乗ってたら、、、潰すぞ、、、?」


ナオヤはコウガの嫌味に分かりやすく激昂し、2人の間にピリピリとした空気が流れる。そんな2人に対し、後ろの転移者たちは止めるどころか呆れたような視線を向け、リーダー格のケンジも特に興味を示したような様子もない。この2人の喧嘩は日常茶飯事であるらしかった。


「き、貴様らぁっ!!いい加減にしろ!!」


多くの神兵を殺しておきながら全く緊張感のない転移者たちに、アレウスは堪忍袋の緒が切れ、彼らに怒声を浴びせると既にボロボロの体に鞭打って立ち上がった。


「俺も軍神!ただでは死なんぞ!道連れにしてくれる!!」


そう叫ぶとアレウスは背中に担いでいた大剣を抜き構えた。


「神剣イフニールよ、我が声に応え、力を解放しろ!」


アレウスが叫ぶと、イフニールは赤いオーラをまとい、そのオーラはアレウスの体に流れ込んだ。


「グゥオオオオオオッッッ!!!」


アレウスは野獣のような雄叫びをあげ、彼の屈強な筋肉がさらに膨らむ。今のアレウスは現世に降り立ったらそれだけで世界が砕けてしまうほどのエネルギーを常に放出し続けている。


神剣イフニールは軍神の称号を持つアレウスの家系に代々伝わってきた神具である。この剣は軍神が持つことで真価を発揮する。軍神は一時的にイフニールの力を吸収することができ、それによって装備した軍神の力は元の数十倍にもなるのである。それによりアレウスは一時的にとはいえ上位神に匹敵する力を持つことが可能になった。


当然ながらリスクはある。体への負担がとてつもなく大きく、長く力を吸収し続けていると死んでしまうのである。


(この体の状態でイフニールの力を吸収した以上、もう俺は助かるまい。だがっ、俺は神界を守る!)


アレウスは覚悟を決めていた。自身の命と引き換えに転移者たちを討つと。


莫大なエネルギーを放出し続けるアレウスを前にしても、転移者たちには特にリアクションがなかった。コウガはポリポリと頭をかくと、アレウスを指差してケンジに問う。


「じゃあ、今度は許可とりますね。「アレ」、やっちゃっていいすか?」


「好きにしろ。」


ケンジは興味無さげに答える。それを聞いたコウガは満足そうな笑みを浮かべると、剣を抜いてアレウスの正面に立った。


「覚悟は、、、できているか、、、」


限界まで力を吸収し、体が膨張し、あちこちの血管から血が吹き出している姿になったアレウスは目の前にいるコウガに問いかけた。


「ああ。」


それに対しコウガは特に抑揚のない調子の声で答える。


「行く、、、ぞ、、、っ」


「どーぞ」


「ウォォォォォォォッッッッ!!!」


アレウスは雄叫びをあげると、超高速でコウガに向かっていった。その速度は実に光の数万倍。人間に反応できるはずもない。現にコウガはアレウスが目前に迫っているのにも関わらず、全く動く気配がない。


この速度の勢いに乗って全力でイフニールをコウガの脳天に振り下ろし、それによって発生するビッグバンを超えるほどの衝撃によって周りにいる転移者たちも跡形もなく吹き飛ばすというのがアレウスの狙いであった。アレウスは既にイフニールを振り下ろしている最中で、あと数センチでコウガの脳天に直撃するところまで来ていた。


(終わりだっ!!)


アレウスは勝利を確信した。

そしてその瞬間、、、





コウガと目が合った。


「遅い」


アレウスは全く理解していなかった。

転移者たちの真の力を。

自分がたった今死んでしまったことを。


アレウスは一瞬にして、コウガによってイフニールごと細胞レベルの大きさに細切れにされ、血煙となったアレウスは地面に落ちて消えた。


「君程度じゃもう「経験値」にもならないよ、やれやれ。」



アレウス戦死の知らせを聞いた神々は心の底から震え上がった。

そして理解した。自分たちは圧倒的な「弱者」なのだと。

アレウスよりも格上の神である上位神達が幾度も転移者の討伐に乗り出したが、勝利の報が神々にもたらされることは一度たりともなかった。


神の屍を積み上げながら、ついに、転移者たちは「全てが生み出される場所」、神界の首都にやって来た。この時点でほとんどの神は倒されており、生き残っている神で転移者と戦えるのは「万物の主」である「創造神」が率いる最上位神だけである。


そして、転移者たちと最強の神々による最終決戦が始まった。余波だけでいくつもの世界を崩壊させかねないほどの戦いの末、立っていたのは、、、


転移者たちであった。


こうして、転移者たちは今から10年前の段階で文字通り「全て」を手に入れた。

彼らは敗北した最上位神の力も奪い、神をも超えた存在になった。数多の次元の世界を生むも壊すも、転移者たちの自由になった。


神が倒れたことを知った「全世界」の人々は転移者の支配を甘んじて受け入れた。転移者の力に魅了されていた国は諸手をあげて歓迎し、そうでない国も、彼らの圧倒的な力を前にして、抵抗する気力を完全に削がれた。

そして、時が経ち、「世界が転移者たちに支配されることは当然である」と考えるようになった。


しかし、ほんの一握りの人々は、まだ諦めていなかった。

ある者は成り上がるために、ある者は自身の力を示すために、またある者は復讐のために、彼らは全宇宙の覇者である転移者たちの命を狙っていた。


森の中で、延々とトレーニングをする青年レイスも転移者を倒そうとする者の1人である。

彼は今日も森を走り、岩を背負ってスクワットをし、拳を木に叩きつける。


レイスが一心不乱にトレーニングを積む理由はただ1つ、妹や仲間たちを殺した転移者に復讐をするためである。


15年前、世界が魔王軍に脅かされていた頃、魔王軍の攻撃によって村が壊滅し、両親を失い、孤児となったレイスとその妹エミーは、村の数少ない生き残りたちと共にあてもなく森を彷徨っていた。

食糧が尽き、1人、また1人と倒れていく彼らの前に、盗賊の一団が現れた。彼らは全滅を覚悟した。ところが盗賊は攻撃してくる様子がない。それどころか保護するから着いてこいと言い出した。

彼らは当然怪しんだが、このまま何もしなくても衰弱死することなど分かりきっていたので、彼らは盗賊に着いていくことを決めた。

しばらく歩くと、山に開いた洞穴が見えた。中に入るとそこには、村があった。

山をくりぬいた洞穴の中で、人々は家を建て、助け合って暮らしていた。


「おーいみんな!新しい仲間が来たぞ!」


盗賊の1人が叫ぶと、人々が笑顔で駆け寄ってきた。その人たちをかき分け、ひときわ立派な風貌の盗賊が現れる。


「よく来たお前ら!まぁそんなに緊張しなさんな。つっても、こんな見てくれの男が目の前にいたら無理か。ガハハッ!」


彼の名はガント。

彼は元々有名な盗賊で、子供のレイスたちも聞いたことがある。彼は3年前に消息不明になっており、巷では死んだと噂されていた。

彼は話した。3年前、ほんの気まぐれで魔物に襲われる子供を助けたことを。その子供にお礼を言われて以来、悪事に手を染めることができなくなったことを。


「ここに村を作ったのも、昔散々悪さをした罪滅ぼしってやつさ。」


彼はかつて盗賊の世界で一大勢力を築いたカリスマ性を用い、改心させた盗賊約100人と、魔王軍により住む場所を失った避難民約300人で構成された村を作り出した。

この洞穴にまで魔王軍が来ることはない。たまに魔物が現れても、ガントが一瞬で倒す。

この村は、今の世界で最も安全な人類の住み処の1つとなっていた。


レイスがガントに憧れるのにさほど時間はかからなかった。彼はガントに教えを乞い、村の大人たちや元盗賊たちに混じって共に戦闘訓練を受けた。

兄妹は子供を失った夫婦の家に住むことになり、兄妹は久方ぶりに、安息の時を過ごせたのだった。


この時、確かに彼らは幸せだった。


その幸せの崩壊は、すぐそこまで迫っていることに、彼らは気づいていなかった。


この村に来てから2年が経った時、レイスは朝食を食べてすぐに家を飛び出し、森の中で自主トレーニングを始めた。彼は1日でも早く、ガントのようなカッコいい人間になりたかった。憧れの人に近づくため、レイスは剣を振っていた。その時、


ドォォォンッッ!!


背後から強烈な爆発音がして、それと同時に地面が揺れた。レイスは倒れながらも、音が鳴ったほうを見た。

後ろを見ると、レイスたちが住む洞穴のある山がなくなっていた。


「はっ、、、えっ、、、?」


レイスはすぐに理解することができなかった。レイスの頭に、妹のエミー、一緒に生活しているおじさんとおばさん、そして、ガントの顔が浮かぶ。


「ッッ!エミー!ガントさん!みんな!」


レイスはすぐさま起き上がり、村に向かって走り出した。

レイスがたどり着いた時、もうそこに村はなかった。あったのは、崩れた山の残骸のみ。


「あ、、、あぁ、、、」


レイスは膝から崩れ落ちた。理解できない、というよりも、理解することを脳が拒否した。ただただ呆然としていると、少し離れた場所から女性たちの声が聞こえてきた。レイスがそちらのほうを見ると、複数の女性が1人の男を囲んでいた。


「さすがコウガ様!お見事です!」


「コウガ様こそ世界の救世主です!」


「あの「大悪党ガント」とその一味を山ごと吹き飛ばしてしまうなんて!」


手放しに称賛の嵐を浴びせる女性たちに、男が答える。


「みんな大袈裟だなー。こんなの全然大したことじゃないよ。」


このやり取りを聞いたレイスは、全てを理解する。


(「大悪党ガント」?、、、「山ごと」?)


「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」


レイスは無意識のうちに剣を持ち、コウガと呼ばれた男に突進していた。

コウガたちもレイスの存在に気づいたようで、全員がレイスに視線を向ける。レイスが剣を持っていることに気づいた女たちはコウガの後ろに隠れるが、当のコウガは全く動揺していない。コウガを貫くために走ってくるレイスがわずか数メートル先にいるのにも関わらず。


(貫いた!)


レイスはそう思った。みんなの敵を討つことができたのだと。しかし、


「、、、は?」


気づいたときには、レイスの剣から刀身が消滅していた。レイスは走っている最中、コウガからも、刀身からも目を離していない。にも関わらず、いつの間にか消えていたのだ。


「えーっと。君は誰かな?」


コウガは軽い調子でレイスに話しかける。その態度がレイスには我慢ならなかった。


「お、おまっ、お前がッ!みんなをっ!」


レイスは剣を捨て殴りかかろうとするが、


「ぐっ!?」


急に体が動かなくなった。コウガの後ろにいる女の1人がレイスに魔術をかけたのだ。コウガは動けなくなったレイスを見つめる。


「ふむ?見たところ12歳くらい。盗賊の仲間には見えないけど、、、あっ、そうか!君はあのガントに洗脳されていたんだね!」


コウガは勝手に納得する。


(コ、コイツ、、、何言ってる、、、?)


「かわいそうに、、、でも安心して!悪いヤツは全部僕がやっつけたから!」


「わ、悪いやつじゃ、、、ない、、、!」


「ッ! へぇ、、、シルフィの拘束魔法をくらってもそこまで喋れるのか、、、」


「ガ、ガントさんは、、、お、俺たち、、、を、、、た、助け、、、て、、、くれたん、、、だ、、、!む、村には、、、エ、エミー、、、も、、、!」


「ああ、かわいそうに。よっぽどひどく洗脳されたんだね。でも大丈夫!僕たちが君を病院に連れていくから!シルフィ!」


コウガは舞台の上にいるような大袈裟なリアクションやポーズをとり、シルフィに命令する。


「はい!コウガ様!」


シルフィと呼ばれた魔法使いのローブを纏った女は呪文を唱え始める。


「や、やめ、、、」


レイスの意識が少しずつ薄れていく。


「命を狙われたのにも関わらず助けるなんて、、、さすがはコウガ様です!」


「コウガ様こそ徳の塊のような方ですわ!」


薄れゆく意識の中で、レイスはまたしても女たちがコウガを持ち上げる声を聞いた。レイスはただただ不快だった。


病院で目を覚ましたレイスは、すぐに病院を脱出した。

レイスは、走りながら街の異常な様相を目の当たりにした。

金でできた巨大なコウガの銅像、コウガを褒め称える内容の詩を人々に聞かせる吟遊詩人、コウガのポスターや人形を売る店等々、まるで街全てが、コウガのためだけに存在しているかのようであった。


吐き気をもよおしたレイスは街を飛び出し、あてもなく森を歩いた。やがて走る体力もなくなり地面に倒れ込んだ時、レイスの目から涙が溢れだした。


「ぐっ、、、ぐぅぅっ、、、!」


レイスは悔しかった、妹や仲間たち、そして、ガントがあんな軽薄な、何も背負ってないような男に虫ケラのように殺されたことが。

そして、コウガのにやけ面や、あんな男を持ち上げるための舞台装置に成り果てた街や人々の有り様を思い出すと、沸々と怒りが込み上げてきた。


「殺す、、、殺してやる、、、アイツの顔面を、、、メチャクチャにしてやる!!」


それから10年間、レイスは森の中でトレーニングを積むようになる。全ては、殺された家族や仲間たちの敵を討つために。



そして現在、レイスの修行は最終段階に入っていた。

レイスの目の前にあるのは、かつて自分たちが暮らしていたものよりも一回り大きい山。

レイスはその場で飛び上がり、あっという間に山の頂上のさらに上の上空まで移動する。


「うおおおっ!!」


ドゴォッ!!


レイスが山の頂上に拳を振り下ろすと、山がバキバキと音を立ててひび割れていき、割れ目が地面にまで到達した。


「よしっ!いけるっ!」


レイスは自信があった。成長した今ならあの男を倒せると。


「待っていやがれ!今いくぞ!」


憎きコウガの居城に突撃しようとしたとき、


「やめといたほうがいいわよ?」


背後から女性の声が聞こえてきた。

レイスは驚き振り向くと、森に似つかわしくないドレスを着た、赤く長い髪が特徴的な女が立っていた。


「あ、あんたは、、、誰、、、ですか?」


(コイツ一体なんだ!? 全く気配を感じなかったぞ!?)


女の底知れなさを感じとったレイスは敬語を交えて問いかける。


「私?私は神様よ。」


何でもないように答える女に対して、レイスはポカンとする。


「は?え? か、神様?」


「そうよ。私はフレイヤ。戦いの女神。」


「、、、お嬢さん。もしやどこかで頭でも打たれたんですか? よろしければ僕が街まで連れていきましょうか?」


「、、、信じてないわね。」


「いやまぁ、、、はい、、、」


レイスがそう答えると、女はため息をつく。


「いいわ。あなたの後ろにちょうどいいのがあるし、証拠見せてあげる。」


そう言ってフレイヤはレイスが先程割った山を指差すと、その山の前に移動した。


「ち、ちょっとあんた、何を」


レイスが問いかけるよりも先に、フレイヤは正拳突きの構えをとった。フレイヤの手が赤く光輝き、彼女の周りに炎のようなオーラが現れる。


「ッッ!!?」


「ハァッッ!!」


フレイヤが山に正拳突きを放つと、レイスが衝撃で吹き飛ばされる。レイスが顔をあげ、フレイヤの方を見る。レイスは自分の目を疑った。

フレイヤの前にあった山が無くなっていた。それどころか、彼らの周囲にあった木々が跡形もなく消滅していた。


「どうせこのあたりにはろくに動物もいないから少し思い切りやらせてもらったわ。これで信じてくれるかしら?」


「あ、あんた、、、ホ、ホントに、、、神様だったのか、、、っ」


「言っとくけど、あなたが狙ってるコウガの強さは、こんなものじゃないわよ。」


「っ!?な、何でその事を!?」


「私は神よ?心くらい読めるわ。」


「あ、あんた、、、いや、あなたはコウガのことを知ってるのですか?」


「知ってるも何も、あいつは、、、あいつらは私たちの敵よ。」


フレイヤはレイスに聞かせた。神によって召喚された転移者たちのことを。転移者たちが神界を侵略し、神を殺し尽くしたことを。


「最上位神様たちを殺したあいつらはやりたい放題よ。私みたいな生き残っている神たちも、奴らの手下どもにどんどん殺されていってるわ。」


「、、、それで、なんで俺の元に現れてくれたんですか?」


「そう!本題に入るわね!あなた。私と手を組みなさい。」


「、、、はい?」


「私の神の力をあなたに貸してあげるわ。10年でここまで鍛えたあなたの戦いの才能と転移者への憎しみを見込んでね。」


それを言われて、レイスは喜ぶどころか不機嫌になった。


「俺にあなたの力を「借りて」戦えって言うんですか?コウガたちと同じように。」


「人は誰しも少なからず神の力を借りているものよ。魔法が代表的ね。そしてその加護ってのは転移者の「チートスキル」と違って本人の才覚や努力量に左右されるわ。私があなたを選んだのは、あなたの才能を認めたからよ。だから、私があなたに渡す力は単なる「借り物」じゃなくてあなたの力って言ってもいいのよ。」


「それでも、、、」


レイスはなおも渋る。


「今のあなたじゃどうやってもあいつらに勝てっこないわ。私でもね。」


「その通りだ。」


フレイヤが説得をしている最中、上空から声が聞こえてきた。


2人が上を見ると、騎士の格好をした男が宙に浮いていた。

男は2人が自分の存在を認識したのを確認すると、地面に降り立った。


「お初お目にかかる。治安維持局のイーバーンというものだ。」


「フ、フレイヤ様。コイツもしかして転移者か!?」


「いいえ違うわ。多分その手下か何かね。どっちにしても敵よ!」


そう言うとフレイヤはすぐに構えをとった。


「フッ その通り。俺はコウガ様直属の騎士の1人だ。」


「コ、コウガだと!?」


「そうだ。あのお方の命でこの森を見回っていたら突然轟音が聞こえてな。そして来てみれは貴様らがいたというわけだ。」


「ちょっとフレイヤ様!?あなたのせいでばれたんじゃないですか!!」


「仕方ないでしょ!あなたが信じないんだから!」


「クックッ、しかし、、、こんな森でまさか神に出会えるとはな。貴様の首を持って帰れば大手柄だ。」


「、、、すんなりと私を倒せるなんて思わないほうがいいわよ?」


「抵抗する気か?面白い!村の奴らは張り合いが無さすぎて退屈していたところだ!」


「村の奴ら、、、?」


レイスはイーバーンの言葉を聞いて、改めて彼を見ると、彼の鎧が血で汚れているのに気づいた。


「っ!?お前!その血はなんだ!」


「ん?あぁこれか?ここに来る前、ここから30キロほど離れた村の連中を皆殺しにしたときについた血だろう。」


イーバーンは何でもないように話し、レイスは驚愕した。


「な、何でそんなことを!?」


「何でだと?決まっておろう!!奴らは転移者さまに逆らっていたのだ!!転移者さま以外を崇めるのは禁止されておるのにあのゴミムシ共は不敬にも他の神を信仰しておった!あんな不届きもの共はグチャグチャに潰してやらねば気が済まんわ!!」


先程までの落ち着いた態度とはうってかわって激昂して捲し立てるイーバーン。レイスは彼の様子を見て、コウガの取り巻きの女たちや街の人々を思い出した。


「ふぅ、、、まぁゴミムシ共にはゴミムシに相応しい裁きをくれてやったからもはや問題はない。あとは貴様を殺せば仕事は終わりだ


「そう簡単にいくと思わないことね!!」


そう言うとフレイヤはイーバーンに突っ込み山をも吹き飛ばす正拳突きを食らわせた。


「やった!!」


勝利を確信しレイスは叫んだが、彼の目には信じられない光景が飛び込んできた。フレイヤの拳はイーバーンに当たることなく、彼の目の前で止まっている。それだけでなく、フレイヤの拳はひしゃげ、血だらけになっている。


「うわぁぁぁっ!!」


フレイヤは激痛のあまり叫ぶ。


「フン、弱いな。」


イーバーンがそう言うとフレイヤはイーバーンの見えない攻撃に吹き飛ばされた。防御するときも攻撃するときも、イーバーンは指1本動かしていない。


「フレイヤ様!!」


レイスは吹き飛ばされたフレイヤの元に駆け出した。


「うぅ、、、」


フレイヤは頭から大量に血を流した酷い怪我を負っていた。


「フレイヤ様!大丈夫ですか!?」


「し、心配ご無用よ、、、」


「あれは何ですか!?魔法!?」


「魔法なんてチンケなものと一緒にされては困るな、この力を。」


その言葉と共にイーバーンがやってきた。


「あなたのその能力、「チートスキル」ね?」


「フッ、いかにも。」


「えっ!?確かチートスキルを持っているのは転移者だけのはずなんじゃ、、、」


「、、、噂で聞いたことがあるわ。転移者たちがチートスキルを生み出して取り巻きたちに与えてるって。」


「そうだ、俺はコウガ様より力を与えられた。俺は貴様らなどよりはるかに偉大な存在なのだ。」


イーバーンがそう言ったと同時に、またしてもフレイヤが吹き飛ばされた。


「こ、この野郎!」


レイスはイーバーンに殴りかかる、しかし、レイスの拳は彼に当たることなく弾かれる。


「全く、、、弱いというのは罪だな、、、」


イーバーンの言葉と共に、レイスは巨大な何かに激突したような感覚に襲われ、フレイヤと同じように吹き飛ばされた。


「ぐっ、、、痛い、、、だがわかったぞ。」


レイスは頭を押さえながら立ち上がる。


「お前の能力、、、透明の壁を生み出すって感じのやつだろ、、、」


「ほぅ、驚いた。ご明察。褒美に種明かしをしてやろう。」


イーバーンがそう言うと、彼の前後左右、そして頭上に緑色の半透明の壁が現れた。


「俺のチートスキルは「バリアー」。5枚まで同時に物理無効の壁を生み出しかつ自在に動かすことができる。普段は透明にしているからめったに気づかれないがね。」


「空を飛んでいたのは、空中にバリアーを出現させてその上に乗っていたってわけか。そしてバリアーを高速で動かして相手にぶつければ攻撃技としても使える。」


「その通りだ。まぁ、気づいたところでどうにもできまい。」


直後、レイスはバリアーの連撃を受け、吹き飛ばされた。レイスが吹き飛ばされた先にはちょうどフレイヤもいた。


「レ、レイス、、、聞こえる、、、?」


フレイヤはレイスに話しかけるが、彼は完全に意識を失っているようで、反応はない。それどころか、レイスは体中から血を流しており、放っておくと命を落としてしまうことは誰の目にも明らかだった。


「あんな奴らに、、、この世界をあげるわけにはいけないわ、、、あなたには不本意かもしれないけど、、、私の力を、、、受け取って、、、」


フレイヤはレイスの元に這いずっていき、彼の手を握る。すると、フレイヤの力がレイスに注がれていき、それと同時に彼女の体が透けていく。


「お願い、、、世界を救って、、、」


フレイヤはそう言うと消滅した。


レイスはフレイヤが消えた直後に目覚めた。体中を打ち付けたはずなのに、レイスには傷ひとつ無い。それに加えて、かつて無いほど力がみなぎってくる。

辺りを見回すと、フレイヤがどこにもいなかった。レイスは自分の体に何が起きたのか、を察した。


「俺は、、、託された、、、のか、、、」


レイスは掌を見て呟く。彼は意識を失っていたのにも関わらず、フレイヤの最期の言葉が頭に染み付いていた。


「なんだったんだ今のは!?あの女はどこにいったんだ!?」


レイスを追ってきたイーバーンが叫ぶ。レイスは立ち上がると、彼に向き合った。そして言葉ではなく行動で、彼の疑問に答えた。


「ハァァァァッッ!!」


レイスが叫ぶと、大気がビリビリと震え始めた。そして、彼の両手は炎のようなオーラを纏い、髪の毛の右半分が赤く変色する。さながら彼の姿はフレイヤのようであった。


「、、、来い」


「へぇ、、、驚いたな、、、噂には聞いていたが、まさか神と融合できる人間が本当に存在していたとは。だが合体したところで、俺のチートスキルは破れん。」


イーバーンは自身の周りに5枚のバリアーを出現させた。


「俺のバリアーは攻守共に隙の無い最強のスキル!貴様らごときにどうこうできるものじゃないんだよ!バリアークラッシュ!!」


5枚のうち2枚のバリアーが、高速でレイスの左右から迫り来る。

しかし、レイスはバリアーに挟まれるよりも早く前に動きだし、2枚のバリアーが動いて開いた隙間からイーバーンに接近した。


「なぁっ!? くっ!」


イーバーンは驚愕し、残った3枚のバリアーを使ってレイスを攻撃しようとしたが、時既に遅く、レイスの拳がイーバーンの鳩尾に入った。


「ぐぉぉぉっ!!?」


イーバーンは大きく後ろに吹き飛び、うずくまって地面に吐瀉物を撒き散らした。


「ゲホッ ゲホッ!な、なぜだ、、、!?」


「お前自分で言ったよな?バリアーは最大5枚までだって。お前がバリアーを攻撃に使えば使うほど、お前を守る防御用のバリアーの数は減少する。俺はお前が攻撃を仕掛けたのを見計らって逆にこっちから攻撃したんだ。」


「ぐぅぅ!な、舐めるな!!」


彼はレイスの前後左右に四枚のバリアーを展開。さらに、上にもう一枚バリアーを作り出し蓋をすることで、レイスを囲うバリアーの立方体を作り出した。


「どうだ!! バリアーにはこういう使い道がある!!バリアーの中は徐々に酸素が無くなっていき貴様は窒息死するのだ!!」


イーバーンは勝ち誇った顔をすると、レイスの目の前に移動した。


「苦しみ死んでいく貴様の顔をこの特等席で見物させてもらうことにするよ。」


イーバーンは勝利を確信した。しかし一方でレイスは動じた様子はない。彼は無言で正拳突きの構えをとる。


「ハハハハハッッ!!往生際の悪いやつめ!言っただろう!このバリアーはあらゆる物理攻撃を無効化する」


「ハァッ!!」


イーバーンが言い終わるよりも先に、レイスは正拳突きを繰り出した。するとガラスが割れるような音と共に、目の前のバリアーが粉々に砕け散った。


「、、、、、、えっ?」


イーバーンは目の前で起こった出来事が理解できず呆然とした。今まで1度も破られたことの無いバリアーがパンチ1発で割れたのだ。


「次で終わりだ。次の1発でお前を倒す!」


レイスはイーバーンを指差して宣言する。


「ヒ、ヒィッ!」


イーバーンは思わず後ずさる。これ程の威圧感を放つ生き物を彼は転移者たち以外に知らなかった。レイスは右手に渾身の力を込めて、イーバーンに突っ込んだ。


「来るなっ!来るなぁっっ!!!」


イーバーンは目の前にバリアーを5枚重ねて出現させた。そして、レイスの拳と、イーバーンのバリアーが衝突した。

レイスの拳の前に、イーバーンのバリアーは1枚、また1枚砕けていく。


「うぉぉぉぉっっっ!!!!!」


「違う違う違う!!こんなのは正しくない!!俺は選ばれた人間なんだ!!俺が負けるなんてありえない!!やめろ!!お助けください!!コウガ様ぁぁぁ!!!!」


「終わりだぁぁぁぁぁっっっ!!!」


ついに最後の1枚が割れ、レイスの拳はイーバーンの胸を完全に貫いた。


「グフッ、、、 ゲホッ、、、

コ、、、ウガ、、、さま、、、」


胴体に大穴が空いたイーバーンは、最後に主の名を呟いて崩れ落ちた。



翌日、旅支度を終えたレイスはいよいよ森を出ようとしていた。


「それで、なんで生きてるんですか?

フレイヤ様。」


レイスがそう言うと、レイスの目の前に突然フレイヤが現れる。


「あら?力を渡したら死ぬなんて一言も言ってないわよ?まぁ肉体を失ったしあなたからもあまり離れられない地縛霊みたいになっちゃうけどね。肉体が復活するのにも時間がかかるし。」


「気絶から目覚めたらどこにもいないから死んだとも思いますよ。それなのに今朝急に俺の体の中から現れたもんだから驚きすぎて死ぬかと思いましたよ。」


「驚いたのはこっちよ!力を使い果たして少しだけ休んでたらあなたがいつの間にかイーバーンを倒しちゃってたもの!、、、でもこれでハッキリしたわ。」


フレイヤはレイスを指差して断言した。


「あなたの力は転移者に通用する!」


その言葉で、今まで分厚い雲に覆われていたレイスの心が少しだけ晴れた。


「これから奴らの元に乗り込むんですか?」


「甘い!今戦っても間違いなく殺されるわ!もっと強くならないと!」


フレイヤはレイスの目の前に移動して説明を始める。


「いい?私と融合したことで手に入れたあなたの能力は「成長限界突破」。あなたはトレーニングや実戦によってどんどん強くなることができるわ。だからあなたがやるべきなのは強いやつと戦うことよ。」


「と言ってもその辺に強いやつがいるなんてことはないと思いますが、」


「今は世界の各地で転移者の手下、イーバーンのようにスキルを与えられた「チーター」たちが、暴れているの。今この瞬間もそいつらに苦しめられている人が大勢いるわ。そいつらと戦って倒せば人々を救えるしあなたも強くなれて一石二鳥よ。」


「、、、転移者の手下どもを全員倒すのですか?」


「、、、転移者以外を倒すのはやっぱり抵抗がある?」


「いいや。願ってもない。」


レイスは、家族や仲間を殺したコウガに黄色い声援を送り、ガントを罵倒した女たちを思い出していた。彼の復讐対象には彼女たちも含まれている。


「あの、転移者の威を借る奴らにも目にものを見せてやらないと俺の気が収まらない!転移者の手下どもも、全員倒す!!」


レイスの怒りを見て、フレイヤはわずかに怯えた表情を見せる。


「そ、それと、あなたがもう一つやるべきなのは、、、」


フレイヤは話題を変えた。


「仲間を見つけることよ。」


「仲間?」


「そう。世界各地には、あなたと私のように融合した人間と神がいるはず。その人たちを見つけたら心強い戦力になるわ。」


「ひとまずやることはチーター狩りと仲間集めか、、、しばらくの行動目標ができましたね。それでは行きましょう。」


「あっ 待って!レイス!」


「?」


「あのね、、、1つだけ約束して。絶対に死なないって。あなたは私が命を預けるに値すると判断した唯一の人間なんだから。」


「、、、言われるまでもありませんよ。俺は死なない。絶対に生きて奴らを倒す!」


「えぇ!その意気よ!まあ安心しなさい!私も神様!こんな状態になってもある程度魔法が使えるからいざとなったら援護してあげるわ!!」


フレイヤは鼻を高くして宣言する。


「期待してますよ。」


「あっ。それと、私にはもう敬語とか使わなくていいわよ。一蓮托生の仲だしあなたももう半分神様みたいなものなんだから。」


「、、、フフッ。ああ。頼りにしてるよ。フレイヤさん」


レイスは笑って言った。本人は気づいていなかったが、彼は10年ぶりに笑った。


「それじゃあ張り切って行くわよ!ゴーゴーゴーッ!!」


こうして、融合した人間と神の旅が始まった。

彼らは出会った仲間たちと共に想像を絶する戦いに身を投じることになるのだが、それはもう少し先の話。

読んでいただきありがとうございます。

もしシリーズ化したら転移者たちと神の戦いやレイスの過去を補足するかもしれません。

また、初投稿なので、文章におかしいところが多々あると思います。その際はコメントで指摘してくださると嬉しいです。


最後に、改めてこの作品を読んでくださって本当にありがとうございました。

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