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第1話 謎の追跡者

 一人の少女が走っていた。

 全速力で。王都にある商店街を。


 先ほどから追われていて。

 捕まれば……自分がどうなるか分からないからだ。


「ミラン……なんで、逃げるんだい?」


 多くの人が行き()い、そしてその人達によって()わされる言葉の中の。

 彼女を追いかけている人物の、涼しげな声だけが……なぜか鮮明に聞こえた。


 相手の気配だけに意識を集中していたためか。

 それとも相手――彼女がバイトをしている飲食店の、優しい印象を受ける常連客であったものの、いつからか、そしてなぜか彼女に(じん)(じょう)じゃない感情を向けてくるようになった存在が、彼女だけに声が聞こえるような魔術を使ったのか。


「ッッッッ!!!!」

 その声を聞いた瞬間、少女――ミランは(おぞ)()を抱いた。


 同時にその脳裏に、自分と相手の今までの思い出が甦る。


 王都にある学院への入学のため、ミランは故郷を離れ王都へとやってきた。

 補足すると、王都の学院の入学テストを、彼女は親には黙って受けたせいで……彼女は親と大喧嘩し、最終的には家出同然で王都へとやってきて。


 生活費を(かせ)ぐために、王都の飲食店のバイトをするようになったのだが。


 最初は、彼女に好印象を与えていたとある常連客――現在自分を追いかけている彼はいつからか、バイト終わりを狙って彼女を待ち伏せ、こっそりと尾行したり、盗撮をしたミランの写真や、自分の写真を送ってくるようになったり、彼女を無理やり(ひと)()のない所に連れていこうとしたりなどの、完璧に、ストーカーと言うべき問題行動を起こすようになり。


 ミランのバイト先の飲食店を出禁にされて。

 さらには王都の治安部隊により逮捕された上で、接近禁止命令を出されたりしたのだが……彼はそれらを無視し、時々だが、治安部隊の目をかい(くぐ)りミランの近くに現れるようになった。


 しかし、だからと言ってミランに外出しない選択肢はなかった。

 なぜならば、先ほども言った通り彼女は家出同然で王都へとやってきた身。


 学費は奨学金制度を使うなどして(しの)ぐとしても、その他の生活のために必要な(かね)がほとんどないのだから。


 なので彼女は、今日も……さすがに周りを警戒しながらバイト先である飲食店に向かおうとして――。











 ――そんな彼女の前に、彼は再び現れた。











 しかしミランは、(なん)の対策もなしにバイトのため外出したワケではなかった。

 かつての常連客の姿を見かけたと同時、彼女は治安部隊からあらかじめ渡されていた魔導具の……何度目になるか分からない起動をした。


 ミランの近くにストーカーな元常連客が現れた事、そして現在位置を治安部隊に伝える特性を持つ魔導具だ。


「ねぇ…………なんで俺の気持ちを(わか)ってくれないのかなぁ?」


 常連客であった男が、またしても声をかけてくる。

 周囲には、彼の声を認識しているような人はいない。


 もしかすると、本当にそういう魔術を使っているのかもしれない。


「や、やだ……来ないで!!」


 再び彼の声が耳に入ると同時、ミランはさらに強い(おぞ)()を抱く。

 もはや彼女にとって彼は、トラウマレヴェルの恐ろしい存在だった。


「あ、アタシはアンタなんか、客としてしか思ってなかったって……きゃっ!?」


 そして、届いているかはともかく。

 ミランが元常連客の男に反論をして。


 同時にさらに走る速度を上げようとした……その時だった。

 後方にばかり意識を向けていたせいか、彼女は足元の障害物――商店街のどこかの店舗の商品が入った箱に気づかず、(つまず)いてしまった。


 全速力で元常連客から逃げる事にだけ集中をしていたため、彼女は受け身にすぐ移行する事ができず、そのままうつ伏せの形で転倒。箱の中身を地面にぶちまけると同時に、すぐに動く事ができないほどの激痛が体に走った。


 しかし、それでも。

 ミランはすぐに起き上がらんと。


 周囲の人間が()(げん)な表情を己に向ける中……全身に力を込めた。


 相手は正常な思考を失った存在。

 もし捕まればどうなるか分かったものではない。


 下手をすれば、ミランは次の日、新聞を(にぎ)わすような存在になってしまっているかもしれない。


「大丈夫ですか?」


 すると、その時だった。


 ミランの頭上――斜め前から聞き覚えのある声がした。

 元常連客のストーカー被害の件で、何度かお世話になった、治安部隊の一人の声だった。


「ッ!? よ、よか――」


 心強い味方がようやく駆けつけてくれた事に、ミランは(あん)()した。

 同時に、遅れて登場した事に対する怒りも覚えていたが……怒ったりすれば次にまた助けてもらえるかどうか分からないため、彼女は怒りを押し殺し。


 うつ伏せのまま、その場で泣きそうになりながらも両腕で地面を押し。


 顔と上半身をすぐに上げて…………………………その場で凍りついた。


 目の前にいたのは、確かに見覚えのある人物。

 ただしそれは、治安部隊の一人ではなかった。











 自分を追いかけている相手――元常連客だった。











 なぜ彼が目の前にいるのか。

 なぜ治安部隊の一人がいないのか。


 なぜ聞こえた声とは違う声の人物がいるのか。


 様々な疑問が一瞬の内に、ミランの脳内を駆け巡った。

 しかし状況は、そんなミランの事情などお構いなしで進み始める。











「つ~かまェた♪」











 混乱し、すぐに行動に移せないミランの腕を。

 彼女のストーカーである元常連客がすぐさま掴み。


 さらに彼は、ミランの胸元に手を伸ばさんとして、











「そこまでです!!」











 その彼の腕を、横から誰かが掴んだ。

 声からして、おそらく女性と思われる誰かだった。


 ――もしや、治安部隊がようやく駆けつけたのか。


 一瞬、ミランは思った。

 だがしかし、彼女は再び困惑する。


 声がした(あと)、相手の手と共に視界に入ったその制服は治安部隊のそれではない。

 いやそれどころか、相手は……ミランと年齢がそんなに変わらない少女だった。


「その手を、すぐに放しなさい!!」


 謎の少女が、元常連客の腕を掴んだ自分の手に力を込めた。

 すると同時に、ミランは魔力の波動がその場で(ほとばし)ったのを感じた。


 よく見れば、元常連客の腕を掴む少女の腕がかすかに光っている。

 腕に魔力を集中し、その力を強化する身体強化系の魔術を使ったのだ。


「ՈՄԱԵՀԱっ」


 いきなり力が強まり、激痛を覚え。

 元常連客の男は慌ててミランの腕を放す。


 今まで誰も聞いた事のないような、謎の言語を発しながら。


 するとその時、ミランの脳裏を()()()()()が駆け巡る。

 まだ小さかった頃……思わず盗み聞きしてしまった時に得た情報が。


 と同時に、これまでの自分の疑問が一本の線で繋がるのを……彼女は感じた。


(ま、まさか……この人――)


「目標捕獲!! すぐに隔離を!!」


 しかし、そんなミランの思考はすぐに途絶える事になる。

 自分を助けてくれた少女の、そんな……無線と思われる会話と同時に、その彼女の頭上で、(にび)色の光が炸裂(さくれつ)し――。











「…………………………あれ?」






 ――目の前から、ストーカーたる元常連客の()()()()()存在と、それから助けてくれた少女が、消えていたからだ。


 しかし、周囲にいる人達にその事を気にした様子はない。

 まるで、ミランが荷物に(つまず)いた光景しか見えなかったかのように。


 彼らは、いつも通りの日常を送っていた。











     ※











『レラ!! 向こうから異相獣の気配がするズラ!!』


 私の相棒である光の精霊レイアルード。

 私とは違い、肉体ではなく……いや、精霊なんだから肉体じゃないのは当たり前なんだけど、だからと言って霊体というワケじゃなくて。


 なんと鳥型の機械の現身(うつしみ)を手に入れたという変則的な存在となった彼(彼女?)が……商店街を走る私を念話で呼ぶ。


 飛翔系の魔術式が込められているのか。

 その機械の体の姿形に(たが)わず空を飛びながら。


「ちょ、ちょっと待って! 地上は混雑してるのに!」


 あまりに理不尽な状況だったため、私は念話で返す事を思わず忘れてしまった。

 今の私は、誰も目の前にいないのに何か話してるイタい女学生(あた)りだと、きっと周りの人達に思われてるだろうな……恥ずかしい!!


 だけど、だからと言って進むのを(あきら)めちゃいけない。

 なぜならば、レイアルードが向かっている先には……私達の住まう王国『ワルド=ガング』の乗っ取りを考えてるかもしれない存在『異相獣』がいるんだから!!


 そして走り続けた先で私は、地面に倒れた女の子に手を伸ばしている一人の男性の姿を見かけた。と同時に、私は…………その男性が、()()()()()()()()()()()()無感情な顔をしているのに気づく!!


 間違いない、彼は――!!


「その手を、すぐに放しなさい!!」

 私は即座に男性の腕を掴み……身体強化魔術で握力を強める。


 すると、すぐに男性は本性を現した。

 ヒトとは思えないような謎の言語を発しつつ女の子から手を放す。


「目標捕獲!! すぐに隔離を!!」


 しかし、私は手を放さない。

 たとえ相手が、何度か王家主催のパーティーで見た事がある貴族令息のような顔をしていようとも……相手は国家を揺るがす存在『異相獣』なのだから!!


 そして、私が無線で連絡をしてからすぐ。

 私達の頭上で、(にび)色の光が炸裂(さくれつ)して…………私と異相獣は、異相獣を人目を気にせず倒すためだけに生み出された、特殊な結界の中にいた。


『レラ様、お一人で大丈夫ですか?』

『私らが助っ人で行ってもいいんだぜ?』

『私が距離的に近いです。私が行きましょうか?』

『私も近いですわ。どうします、レラ様?』


『ううん、大丈夫!』


 しかし、ちゃんと外界との繋がりは存在する。

 レイアルードを始めとする五大精霊様を(つう)じて、今も仲間達と念話で連絡を取り合う事ができる。


『相手の言語能力からして、おそらくワラード級。一人で大丈夫!!』


 そして、仲間達にそう返事をすると。

 私はレイアルードを、左腕に()めた腕輪にセットし。


「ウイングアップ!!」


 その掛け声と共に…………変身した!!

 不定期連載です。

 いずれ世界観設定集的な話も書きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大丈夫! たとえ周囲の方々が「イタイ奴ぅ~~」とか思っても、それを言語に変換する怖いもの知らずの勇者はいないはず。 きっと、そお~~っと目を逸らして素知らぬふりをしてくれますって! あっ、…
[一言] クラスの皆には内緒だよ☆
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