表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

#8 襲撃とご都合主義とそれぞれの危機

 また数日後ーー


 煌々高校の校門前に、黒ずくめの男たちが大量に現れた。グラサンまでして、とてもマトモな連中には見えないが、ヤクザというわけでもないようだ。


 その中から、黒いコートの内側に赤ネクタイの映える黒いスーツを纏った男が進み出た。この時期にコートとかアホかオッサンと思わないでいただきたい。超機密極悪組織のボスともなればカッコイイ服が必要なのだ、多分。


 ついでに言うとこの男、>12に出てきたのだが覚えておいでだろうか。作者も忘れていたので読者はなお覚えていないだろう。


「ボス」


 男の横に、菅田将〇が進み出た。この小説の序盤で担任の先生に化けていた、あいつだ。


「……お前、それガチのファンから叩かれるからそろそろやめろ」

「あっ、すいませんボス」


 彼は菅田将〇の顔を剥がした。イケメンではあるが、菅田将〇とは似ていない顔が出てきた。彼の名はダース・マサキである。


 さらに2人の横に、白髪の鋭い目をした男が立った。


「装備は整いました。いつでも突撃できます。その後は作戦通りに教師、生徒を全員確保し、脅迫の電話をかけるだけです」

「よし。それでは、『高校の先生・生徒まるごと捕まえて身代金たくさんゲット作戦』を開始する! 第一派、突撃!」


 黒ずくめの男たちが一気に校門に突撃した。突撃して、校門の前で止まった。


「……? ちょ、おい、何で止まるの」

「あ、いえ、何か……」


 何人かが空中に手を当てる動作をしている。


「パントマイムの発表は良いから早く突撃しろ!」

「い、いえ、見えない壁が……」

「はぁ? ……ん、本当だ、見えない壁が」

「ボス、みんなでパントマイムですか?」

「そうそう、練習の成果を……ってそんなわけあるかーい」


 ガヤガヤやっている中、白髪の男が門に近付いた。見えない壁を触ると、「これは絵」と言った。パントマイムだの見えない壁だの騒いでいた愚か者たちは「?」となっている。


「セフェル。それはどういう」

「これは非常にリアルに描かれた絵です」

「……ああ、ああ、勿論、気付いていたとも……うめぇなこの絵……コホン、気を取り直して本物の校門を探せ!」

「ボス、校門がたくさんあります!」

「なにーっ」


 セフェルはため息をつき、1人の巨大な黒服を呼び出した。


「壊せ」


 命令と共に巨岩の如き拳が塀をガラガラ破壊した。


「早く侵入しろ! 校門がフェイクであった以上、我々の存在は感知されていた。恐らく生徒の避難は始まっているぞ!」


 セフェルの号令で、今度こそ作戦が開始された……!



× × ×



 ややこしいが、突撃の1時間前、1-Eにて。


「今日は自習です!」


 ジェリー先生が言った。生徒は豆が鳩鉄砲を食らったような顔をしている。


「何でですか?」

「いやー、ほら、ハロウィンだから仮装して渋谷にいきたいじゃん」

「小説の中だと5月だし、現実だと11月ですよ」

「そんな細かいこと気にしてたらいけませんよ〜。そもそもハロウィンは豊作を祈る宗教行事だから、既におかしいのよ」


 ジェリー先生は30近いらしいが、女子高生のようにクツクツ笑い「それじゃあ静かに自習してるのよ〜」と教室を出た。


 ポテトがチエに「音」と呼びかけた。チエは異能【ししおどし】を発動した。この能力は音の出し入れをする能力だ。今はジェリー先生の足音を聞いている。


「行った?」

「しーっ、まだ」

「……」

「……行った!」


 次の瞬間、ボブ・クェンダが【スーパーパワー】で掃除ロッカーや棚を移動させ、 さらに令丈華廉が【ステンドグラス】を使った。文字通りステンドグラスがロッカーと棚の隙間を埋め、完全な防音が実現された。


「自習だーっ!」

「「「ふーっ!」」」



× × ×



 1-Eがワイワイガヤガヤやっている時、職員室にて。


 黒の低いシルクハットをかぶった、地理のマイク先生と、戦国時代の武将のような格好をしている、日本史のオーダー信長先生が話をしていた。


「ジェリー先生は今は授業があるはずではないのか? 先程職員室に来ていたが」

「何かね、ハロウィンがどうのって」

「あの馬鹿げた行事か。しかし、小説の中でも現実でも、ハロウィンでは無かろうに……ん?」


 オーダー信長の苦笑が消え、真顔になった。マイク先生が何か言おうとするのを手で制し、集中している。


「……! まずいぞ、マイク先生……敵襲だ」

「!」


 オーダー信長は、敵の襲来を予測できる能力【本能寺の変】をもっている。マイク先生は震え、ちょびヒゲも震えた。オーダー信長は職員室に声を響かせた。


「敵襲だ! 近いぞ! 恐らくかなりの規模の組織だ」

「な……あと何分で」

「副校長先生。あと15分だ」


 副校長・魔王先生は歯ぎしりした。今から生徒を避難させても間に合わない。学校から脱出する途中に攻撃されるのがオチだ。魔王先生は放送のマイクを取った。マイク先生ではなく、本物のマイクだ。


『ピーンポーンパーンポーン! 落ち着いて聞け! 15分後に何者かによる襲撃がある! 教師は生徒を体育館に誘導し、終了次第体育館の入口を封鎖せよ! 黒戸先生は偽物の校門を描いて時間を稼いでくれ! 繰り返す……』


 勿論、生徒は落ち着くどころかパニックになりかけたが、各教室の先生が、叫ぶ・なだめる・ビンタするなどして落ち着かせたので問題ない。


 魔王先生はさらに学校の教師を誘導班、体育館防衛班、迎撃班に分けた。素早い判断と的確な指示、前作で魔王をやっていただけはある。


 迎撃班のオーダー信長は腰に刀を差した。マイク先生がそれに気付く。


「ちょ、この掲示板、小学生もいるんですから流血沙汰はマズいですよ! それとも逆刃刀ですか? 不殺の誓い?」

「逆刃刀でも何でも無いが、諸事情は考慮し、刀で斬られても、銃で撃たれても登場人物は死なないルールになっている」

「作者のご都合主義……いや、粋な計らいだなァ。これなら読者も安心して見られるし、戦闘は派手なままで良いと……」


 まあそういうことなので、ご了承ください。


 早くも生徒の誘導が始まった。生徒は混乱している人も、避難訓練だと思って騒いでいるやつもいる。


「はい、並んで! 『おかしも』を守って……え? トイレ? 後でにしなさい後でに……は? ラーメンは無いから。ほらそこ抜け出さない! これは訓練じゃないの!」


 先生の努力により生徒の大半は体育館に避難を終えた。


「副校長先生。2-B、2人いません!」

「他のクラスも何人か欠けているが、何故だ!」

「トイレに行っていた生徒、保健室にいた生徒、あと抜け出した生徒で」

「はあ……急いで連れて来い」

「ダメだ。侵入された!」

「なに!」

「虎井先生が猛ダッシュして起こした砂煙のおかげで、相手は錯乱していますが、5分はもたないです」

「敵の正体は?」

「『ダーク』だと」

「誰か知っているか」

「数年前にどこかの学校を襲撃し、生徒全員を人質にして、身代金を手に入れた上に警察の追っ手からも逃げ切った組織です。末端員は逮捕されましたが、幹部は、」

「つまり残った幹部が再び招集をかけ、この学校を狙っていると」

「相手は相当の手練れだろう。体育館防衛班! 迎撃班! 学校は破壊しても構わん。生徒の命を第一に動け!」

「了解」

「行くぞ」

「ああ」

「はい」


 そこに丹任先生が慌てて走ってきた。


「どうした」

「1-Eが封鎖されており、開きません!」

「な……!」


 魔王先生の顔が青ざめた。


「もう捕まったのか!」



× × ×



 状況を整理しよう。


 「ダーク」は校庭にいる。砂煙で混乱しているが、間も無く回復して校内に突入するだろう。


 迎撃班の先生は校内を移動し、逃げ遅れた生徒を探している。「ダーク」の侵攻前に生徒の場所だけでも把握したい。


 「ダーク」はボスと数名の幹部が異能をもち、大勢の下っ端を従えている。戦いにも慣れており、手強い相手だ。


 しかし煌々高校の先生・生徒にも戦闘向きの異能をもつ者はいる。そう簡単にやられることはないだろう。


 ポイントは3つ。1つは体育館だ。ここが突破されると生徒を人質に取られ、敗北は決定する。1階入口は氷室先生の能力【i】により発生した氷の壁で塞がれている。2階、3階の渡り廊下にも数名の先生が控えているといった体制だ。


 ただし「ダーク」も、生徒が体育館に避難することは予測している。かなり激しい攻防戦になるだろう。


 もう1つは、校内に散らばる生徒である。自習ということで自ら教室を塞いでしまった1-Eには放送が聞こえておらず危険だ。それ以外にも、トイレに行っていた生徒や保健室にいる怪我をした生徒は、逃げ遅れてしまったようだ。迎撃班の先生は彼らも保護しなければならない。


 ちなみに警察には通報が行った。しかし、「ダーク」のある能力者が、棘のあるツタで学校周囲を囲んでしまった。下っ端もいるため、警察は侵入できないし、このままでは生徒が脱出することも不可能だ。


 ここが3つ目のポイント。「ダーク」の、植物を操る能力者を発見し、撃破することができれば、戦局は煌々高校側に大きく傾く。警察も動けるようになるのだ。


 さて、この戦いの結末は二つに一つ。生徒を人質に取られて「敗北」か……それとも敵を打ち破り、栄光の「勝利」を得るか。その目で見て欲しい。



× × ×



 保健室には逃げ遅れた生徒がいる上、保健室の先生は戦闘能力をもたない。保健室は1階にあるため、最も早く狙われる場所でもある。オーダー信長は足早に保健室へ向かった。


 保健室前に何人かがいた。保健室の先生が1名、脚を怪我した生徒が2名。


「もう大丈夫だ。早く体育館へ……」

「おっと、そういうわけには行かねェな」


 昇降口から2名、「ダーク」の幹部と思わしき人が入ってきた。下っ端も従えている。数は多くないが、これは様子見の意味だろう。あるいは、人員は体育館の方に割かれているのかもしれない。


 しかし、敵は少ないが、この状況は危険である。オーダー信長は刀を抜いた。蒼い刀身に白い光が光る。


「下がれ」


 後ろに呼びかけた次の瞬間、下っ端が襲い掛かってきた。しかし、オーダー信長は冷静に相手の呼吸を把握する。


 足を踏み込んだ。正面の敵を袈裟斬り。刀を返し、左を斬る。いったん型を崩し、刀を威嚇として振り回した。定石ではないが、それにより相手が少し怯む。ここに連携が、僅かに崩れる。


 その隙を見逃さない。


 右の敵を三つ、一気に横薙ぎ。「うっ」敵は倒れるが、もちろん死んでない。左から振るわれるナイフを紙一重かわし、正面を切り裂きがてらに左へ一閃。「ぐあぁ」敵は倒れるが、当然死んでない。さらに左下から正面上へ、そこから右下へと、山の字を書くように素早く斬り捨て、刀を左へ移動させ、


「くおらあああぁぁぁっつ」


 ズバシュッ! 残りの敵を一掃した。「げほ」「ぐお」「うわぁ」敵は全員倒れたが、言うまでもなく死んでないから安心しろって大丈夫だから!



× × ×



 オーダー信長は幹部2名を見た。


 片方は、赤いメッシュが入った金髪という、センスが良いんだか悪いんだか分からない、軽薄そうにニヤつく若者だ。


「俺はオーダー信長! 名を聞こう」

「おー。聞かせてやろうぜシルヴィス」

「今まさに聞かせたぞ」

「ああ、そうか。オーダー信長さん、コイツはシルヴィス、でオレはナイフ繰りのヤイヴァだ。どっちも『ヴ』が入ってる、いーよな、こーゆーの」

「くだらんな」


 シルヴィスという男は、黒い軽装備をまとっていた。顔だけは露出しており、細い顎と切れ目がシャープな印象だ。長い黒髪も、後ろで一つにしている。


 彼はヤイヴァよりは落ち着きがあるようで、残っている下っ端に、「ここは私達がやる。先に階上へ」と指示していた。幹部2人でオーダー信長と戦う心算らしい。


「んじゃ、わりぃけどさ、切らせてもらうぜ?」


 ヤイヴァがナイフを取り出した。しかし、刀とナイフではリーチが違う。実際ヤイヴァが勢いよく突っ込んできても、オーダー信長は難無くナイフを弾いた。一度ヤイヴァが退く。


(……今のは小手調べだろう。恐らく何かしら異能をもっているはず。煽ってみるか)


「それで勝てるとでも?」

「けっ。やっぱ刀にナイフじゃあ分が悪ぃって、まあ子供でも分かるよな。じゃあアンタも予想してると思うが、オレの異能を披露だーー【炎刃】えんじん


 ナイフが勢いよく燃え始めた!


(……!)


 オーダー信長は、頬を引きつらせた。彼には幼少期に家が火事で燃えたトラウマがある。黒の夜空を焦がす赤。それに照らされる、絶望的な煙。崩れ落ちる木材と、火傷するほどに熱い火の粉が爆ぜる音。


 恐怖の熱と、パチパチという音、あの日が、高密度で目の前に再現されていた。オーダー信長は無意識に一歩下がっていた。


(……火はまずい……しかし生徒を守らなければ……だが、足が動かない……)


 火炎を纏った刃が、目前に迫る。



× × ×



 同時刻・校舎外


 紫水晶を嵌め込んだような目が、敵を捉えた。フッと、黒みがかった紫の髪が揺れる。ナゲットは、「ダーク」の下っ端から向けられた拳銃を掴み、まるで最初から自分の物だったかのように取り上げ、銃口を相手に向け、躊躇なく引き金を引いた。


 重い音を軽々しく響かせたナゲットは、他の下っ端も次々と撃っていった。口の端が少し持ち上がっている。彼はこの状況を楽しんでいた。


 ところで、くどいようだが、撃たれた下っ端たちは死んでない。あくまで、気絶しただけである。


 さて、ナゲット・シリウス先生は、下っ端をあしらいながら校舎の周りを歩き回った。弾の切れた拳銃を捨て、薄暗い校舎裏に入ると、思った通り、生徒が数人隠れていた。一瞬恐怖の色を浮かべたが、ナゲットだと知って安堵する。


 そこで、ナゲットの後ろから声がした。


「こんな所でコソコソかくれんぼか」


 振り返ると、「ダーク」の幹部と思わしき者が立っていた。後をつけられたらしい。


「……ああ、教師に化けて、1-Eに忍び込んだ、君か」

「ほー。顔は元に戻したのに、よく気付いたな……ん?」


 ダース・マサキはナゲットを見た。そして驚きの表情を浮かべ、次に笑った。


「まさか……顔と言えば、俺もお前の顔には見覚えがある。あの街にいた……『バイオレット』だろう?」

「おっ、ご名答」

「……だとしたらお前は敵に回したくない。どうだ、『ダーク』に入らないか。レッツシンク」


 ナゲットは童顔に面白そうな表情を映し、「その心は?」と聞いた。


「お前の本性は分かってる。学校より、ウチの方がお似合いだ。お前ほどの才能があるなら、ボスも悪いようにはしないはずだ、それに」

「それに?」

「お前の目を見ると分かる。お前、生徒を商品だとしか思ってないだろ」


 ザワ……。


 校舎裏に不気味な風が吹き、ナゲットは生徒を見た。生徒は会話の内容に不安を覚えていた。「まさかそんなことないよね?」「守ってくれるよね?」と、ナゲットに無言で訴えている。


 紫水晶の目の奥に、氷よりも冷たい、針よりも鋭いものが光った。悪魔のように微笑む。


「商品にも満たない」


 ナゲットは、道を開けた。


 生徒の1人が悲鳴をあげた。ダース・マサキは「やっぱりな。俺達の組織へようこそ」と言い、ナゲットの横を通り抜け、刃物を取り出しながら生徒に向かう。


 生徒の目が恐怖に見開かれる。首筋に刃物が当てられる。



× × ×



 同時刻・1-E


 好き勝手遊んでいた1-E生徒だが、お手製バリケードからノックの音がしたので驚いた。


 誰かが「先生かな?」と言う。ポテトはバリケードに近付いた。


「誰ですか?」

「ダー……先生ですよ」

「先生なら合言葉を知っているはず。山」

「えっ……海?」

「盛りポテトでした。残念」


 ……。


 流石にキレたのか、バリケードが破壊され、黒服が次々と入り込んできた。


 「あら、先生方、ハンターの仮装でもしてますの?」と言う令丈華廉や「我がいる部屋に入ろうとは愚か者め」と言う九四六を除けば、ほとんどがうろたえた。


 黒服たちは拳銃を構え、「おとなしくしろ」などと威嚇した。威嚇したが、金色の光が瞬き、拳銃が吹き飛んだ。


「な……」

「もう少し自習させてくれって」


 ポテトだった。飄々としている。その立ち姿と拳銃を吹き飛ばした実績に警戒したのか、1人の男が進み出た。


「ガキが調子に乗るなよ」


 その男はポテトが構える前に拳を振り、その拳はポテトにヒットし、ポテトは物凄い勢いで吹っ飛び、窓ガラスを突き破り、お外へ飛んでいった。


「ポテトさあああぁぁぁん!!」

 学校の生徒を全員誘拐して身代金を取る作戦、コスパめっちゃ悪そう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ