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#5 料理と予定変更と絶壊の魔王

 田中はグッタリしていた。煌々高校のカオスな授業、弁当を奪われたことが大きい。その犯人は後ろの席で「暇だな~」と言っている。呑気なことだ。


「こんなにカオスな授業があって、よく暇だなんて言えますね」

「暇なのは暇なんだもん。あ~悪の組織でも侵入してこねーかな」


 そう言ってから教室をグルグル見回し、突然ニヤァ……と笑った。ポテトは基本的に感情を顔に出さず、いつでも真顔なので、それが急に笑うとある意味悪人以上にダークネスな顔に見えてしまうのである。


 ポテトが何を見て笑ったのか、田中も探してみるが特に面白い物は見当たらない。ポテトに聞こうとすると、「どうどう」と制止された。それからポテトが手をパンパンと叩くと、チエが現れた。ウェイターか? ランプの魔神か?


「今日から部活の体験入部が始まるよな。だから、部活が終わったら裏門に集合だ」

「何かするの?」

「……どうせまともなことじゃ無いですよ……」


 これから部活の体験入部がある。田中はヤ部が気になっていた。ヤブを愛し、ヤブに愛され、文化祭ではヤブ蚊のコスプレをしてヤブのベッドを作るステージ発表をする部活。支離滅裂の極みだが、田中はそういうコアな部活が嫌いじゃなかった。



× × ×



「失礼して参りまスケジュール!」ポテトは家庭科室のドアをガラガラ開けて堂々と中に入っていった。


 中に入ると女子がいた。調理用の机にどっかり腰かけているが、身長は160cm前後。跳ねたセミロングの黒髪と、細くて白い肌の対比が印象的である。制服はズボンを選んでいるようだ。


 その青味がかった黒い目がポテトを認めた。彼女は「おっ」と目を見開き、「おお」と口を開け、「おおお!」と言いながら笑った。そして、息を吸い込み、


「よく来たな新入生! 家庭科室に足を踏み入れた勇気だけは認めてやる!」


 小柄な体からは想像もできない大声を出し、ふははは! と笑った。いつの間にか机の上に仁王立ちしている。ポテトが何か言う前に彼女は話し出した。


「いやしかし、そうか、我、じゃない、私の部活に挑戦するとは見所のあるヤツ。新入生! 貴様の名前は何と言う」

「人に名前を聞く時は」

「まず自分から! うん、そうだな、全くもってその通り。我、違う、私の名はアビス・ブラック! 前世は絶壊の魔王だ! ふは、ふははは! あーはっはっは!」


 ポテトはデジャブ(既視感)に襲われた。


「あの、『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』とかに出てないですよね」

「……は? あ~いや、『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』には出てないな」

「そうですよね『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』に出てるわけないですよね」

「まさか! はは……だが『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』は、けっこう面白い作品みたいだな」

「アビス・ブラック先輩が絶対に出てない『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』は面白いんですね。じゃあ『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』読んでみます」

「うむ。そうするがいい。ふははは!」

「はっはっは(棒)」



× × ×



「さっきから何……」


 ポテトとアビスが2人で笑っていると、奥からもう1人出て来た。ポテトは「お」と言う。前作で見覚えがあった。ちょっとポッチャリした体型、丸い顔に柔らかい表情の……だが名前が思い出せない……ああ、そうだ。


「久しぶりだな、シイタケ」

「シークトだよ! 勝手にキノコにしないでいただきたい!」


 前作に海賊の料理担当として出ていたシークト。今作でも家庭科部とは、よほど料理が上手いと見える。


「何だ、お前たち知り合いなのか。まあそんなことは良い。新入生、これからお前が家庭科部に入るにふさわしいかテストする!」

「この学校、部活に入るのに試練があるのか」

「いや、この部活だけだよ」

「そうだ。我もとい私が支配するこの家庭科部だ・け・は! タダでは入れない伝説の部活なのだ。ふははは!」

「部長……この部活、部員この2人だけなんだよ? 金を払ってでも新入部員かきこまないと廃部だよ」

「はぁ? 我、その五・七・五は苦手でな」

「「それは俳句」」


 ポテトとシークトのツッコミが重なり、アビスは「おーハモったハモった」と子供のように喜んでいる。


「どうでもいいからそのテストの内容を教えてくれよ」

「よし。お題はシンプル。この家庭科室にある食材・道具・その他、全て利用して構わない。卵を使った料理を作れ」


 卵。料理では高頻度で使用され、玉子焼き・目玉焼きなどポピュラーなものからエッグベネディクト、和風な茶碗蒸し、あるいはケーキ類まで、卵を使った料理は多岐に渡る。それだけに、料理する者の力量も丸分かり、というわけだ。


「なるほどな。ク〇クパ〇ドは見ていいか?」

「スマホの使用は禁止する! それではよ~い……スタート!」

「できた」

「「……ハァ?」」


 ポテトはオムレツを完成させていた。


「な……そんな一瞬でできるわけがないぞ」

「これは僕の方から謝らせてもらうけど、作者は料理をただの1度もしたことが無くて。1レスを全部、下手なクッキング描写で埋めるのもいかがなものかと、>42から>43の間に作って欲しいと言ってきて」

「じゃあ一応料理はしていると?」

「作者が書けなかっただけで、ちゃんと料理した。面倒だから1人前を作って2皿に分けた。見栄えは悪いけど味は変わらない」


 ポテトは花柄の無駄に可愛いエプロンを畳みながら言った。アビスとシークトの前には半分に割られたオムレツが湯気を上げている。


「ふん。料理は見栄えも大切だが、この元・絶壊の魔王が特別に不問としよう。問題は味の方だが、どれ……」


 アビスは急に真面目な顔つきになり、スプーンを手に取って黄金の山へと差し入れた。鮮やかな赤のケチャップと共にすくい上げ、湯気をふぅふぅしてから口へ運び込む……。


 パクッ


 その瞬間、アビスの目が丸く見開かれた。しばらくモグモグしてからゴックンと飲み込み、「あ……」と呟き、「この、まろやかさは……卵の……究極系」と虚空に言って、それからすぐに2口目へと取り掛かった。白い頬を紅潮させ、パクパクオムレツを平らげていく。シークトも「何、これ。うま……」と言いながら美味しそうにオムレツを頬張った。


 お弁当箱に「平成の空気」を入れて誤魔化すくらいに、ポテトの母タルトは料理ができない。父ソルトは少し料理ができるが、タルトが「キッチンは主婦の城よ」と頑なにソルトをキッチンに入らせないため、ソルトは弁当を滅多に作れない。


 ポテトは面倒くさがりではあるが、空腹も嫌いだったので、さっさと自分で料理するようになったというわけだ。


「で、僕は入部できるのか?」

「むぅ。悔しいが、お前の腕は本物らしい。我、ノンノン、私が入部を許可しよう。そういえば名前をまだ聞いていなかった」

「薩摩ポテト。前作では勇者をやっていた」

「そうかそうか。薩摩ポテトか。そして前作では勇者……と」


 アビスはウンウン頷き、それからみるみる青ざめた。


「……勇者? 今、勇者って? 風車ではなく?」

「『風車ポテトの大回転』は流石につまらないかと」

「……は、はは、ふははは! 何だ勇者か! そうか、そうか、我、勇者とか平気ぞ? もう、全然、平気ぞ?」

「もしかして魔王に勇者はNGワードだったか? 前作では魔王と一緒に冒険したから分からなかったな」

「勇者と魔王が冒険⁉ 忘年ではなく?」

「『社会人ポテトの忘年会』次回作にするか?」

「恐ろしい子……! 魔王と一緒に冒険だなんて、信じられん」


 アビスは白い肌をさらに白くさせ、フルフル震えている。そしてか細い声で尋ねる。


「いや……前作で勇者ってことは、今作は?」

「ただの高校生だ」


 アビスは急にシャキーンと背筋を正し、腕を組んで「ふははは! なんだ今作ではただの高校生か! なら何も問題ない! いや、勇者とか平気ぞ? 平気だが、いない方が良いに決まっておろう! ふははは!」元気になった。


 こうしてポテトは家庭科部員となった。



× × ×



 深夜。ポテトは起きた。


「>45何が次は林間学校、だ。遠足の間違いだろ。作者に抗議しに行ってやろう」(※再掲時注・小説外でそのような記述がありました)


 階段を下りると、リビングの灯りが点いていた。意外に思って覗くと、父ソルトの姿が。


「ポテトまだ起きてたのか、早く寝なさい。父さんゲームに夢中なんだ」

「いや父さん早く寝ろよ」


 ゲームをしている父上は放置して、ポテトは家を出て隣の作者宅へ向かった。豆腐みたいな家を見上げ、チャイムを押すと「パァ」と鳴る。中に響いている様子はない。ドアを確かめると開いた。まあ作者だから、間違っても泥棒が入ることは無いのだろう。


 玄関で靴を脱ぎ、リビングに入ると蚊帳の中の布団の中で作者がモゾモゾしている。


「洋風邸宅に蚊帳ってどうなんだよ、作者」

「ポテト~?」


 布団の中から狐面が顔を出す。痛いセンスだ。


「狐面被って寝るって息苦しさの極みだろ」

「酸素補給できる狐面だから大丈夫。ポテトはこんな深夜に家抜け出して平気なの?」

「父さんはいたけど、ゲームしてたから」

「あ、ゲーム相手、私だ」

「お前だったのか」

「暇を持て余した」

「神々の」

「「遊び」」

「違うわ。>45で林間学校って言ってたけど、林間学校には早いだろ。遠足だろ」

「あ~そうね。でも予定狂って、明日も少し、普通に学校書くから」

「ちゃんとプロット書い」


 パチン


「ちゃんとプロット書いてるのかよ」

「書いてるよ」

「じゃあ何で予定がそこま」


 パチン


「じゃあ何で予定がそこまで狂うん」


 パチン


「蚊ァ多いな!」パチン、パチン(蚊を叩く音)

「飼ってるんだよ。おやすみ」

「ああ、くそコッチくんな。覚えてろよ作者~」



× × ×



 翌朝。教室でポテトは戸惑っていた。


 背の高い、赤みがかった天然パーマの生徒が、教室左後ろ端の席で、足を机の上に投げ出して座っている。


「……あんた>18 >21にいた先輩だよな」

「それがちょっと話が変わってな。俺が先輩だと、今後の展開が全部トチ狂っちまうらしくて。かといって2日連続転入生ってのも変だろ? だから俺、バーガー・ハンは元々1-Dにいたってことにしろって作者が」


 昨晩言っていた「予定が狂う」云々の話はコレらしい。先の見通せない、行き当たりばったりな作者だ。しかし目の前のバーガー・ハンも被害者だから、彼に怒るわけにもいかない。


「じゃあ>18 >21はどうするんだ?」

「>18の出来事は完全削除。最後に出て来た浦霧も一旦忘れてくれ」

「>21は?」

「>21は最後の段落だけ削除して考えてくれれば、少し不自然だけど筋は通るらしい。あとこれは言う機会なさそうだから言うけど、>21に出てた少女は1-Dの雀野瑠花すずめのるかだからな」

「情報量多いな」

「要するに入学式から俺は1―Dのメンバーだったってことだ」


 バーガー・ハンは何が面白いのか薄笑いしながら言った。黒曜石色の瞳でポテトを見据えて言う。


「ポテトね。俺は芋が嫌いなんだ」

「奇遇だな。僕もだ」

「え」


 一瞬呆気に取られたバーガーはすぐに不機嫌そうな顔になり、「そういうことだ。ほれ行った行った」とポテトをシッシッ遠ざけた。

 アビス・ブラックは、当時同じキャスフィで連載されていた『我、ひきこもり魔王。転生して困り果てる……。』のキャラクターで、作者の魔剣プルプルさんに許可をいただいてコラボしました。

 魔剣プルプルさんはキャスフィの小説掲示板では珍しい、いわゆるなろう系の小説を書かれており、鮮烈な印象を受けたことを覚えています。文の書き方やギャグなど、勉強させていただくことも多かったです。また、この小説も読んで評価してくださり、とても励みになりました。

 残念ながら魔剣プルプルさんが現在どこにいるのかはわかりませんが、この場で改めて感謝を述べさせていただきます。魔剣プルプルさん、小説を読んでくださり、またコラボまで許していただき、本当にありがとうございました。

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