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#2 偽者と生徒会と校長の銅像

 忌々しい改札を通過し、ポテトと田中は教室を目指す。2階の1-Eだ。清潔な白い階段を駆け上がり、廊下は走っちゃダメなので早歩き。そして1-Eの扉を開けた。


「すいません遅刻しました!」

「しました~」


 木製の教壇に立った、キリッとした顔つきのイケメンな先生が席を指差して「よし、座って」と言う。ポテトと田中は先生の指示の通りに、スチールの脚と木製の天板という標準的な机の前の椅子に座った。ポテトは1番後ろ。


 既に全員が着席しているようだ。席の配置はこんな感じ。けっこう間隔は広い。


□ □ □ □

□ □ □ □

□ □ 田 □

× × ポ □


 「田」に田中、「ポ」にポテトが着席している。左後ろに椅子は無いが、それは1-Eの生徒が14人しかいないからである。


「さて、それではまず出席をとる……1番、相田一郎」

「すぁっはぁあぁいぃっ‼」


 教室に轟轟と響き渡る声で返事をして、ポテトの列の一番前の生徒が起立した。茶髪に明るい瞳。表情も明るい。体育会系、という印象を受ける。


「2番、池田零児いけだれいじ

「はい」


 ズドン


「……⁉」


 何が起こったのか分からなかった。池田零児が撃たれていた。


「れいじいいいぃぃぃ……‼」


 ポテトは驚いた表情で「>9ありがとう……」と言った。田中が「いやそこじゃないですよ‼ 急に撃たれるってどういうことですか⁉」


 教壇の先生は涼し気な表情で拳銃を構えている。ざわめく生徒を「静かに‼」と言って黙らせ、そして


「さて、なぜ池上零児は撃たれたのか……レッツ・シンク」

「……ここ、3年A組じゃないよなぁ……?」


 ポテトが呟く。


「それはっ‼」


 また突然に教室の後ろから大声。何かと思えば、銀色の掃除ロッカーがガタガタ揺れている。教壇の先生が顔をしかめる。


「お前がっ」


 ロッカーのドアが勢いよく開く。


「偽物のっ」


 誰か飛び出てくる。


「先生だからだあああぁぁぁ‼」


 席の間を突進‼


 ロッカーの怪物は手にしたホウキで教壇の先生を張り飛ばした。風圧が凄い(笑) ホウキを持った男は倒れた偽物を踏みつけ、生徒に向けて叫んだ。


「俺が、1-Eの本当の担任、丹任金八たんにんきんぱちだぁっ‼」

「……3年B組でもないよなぁ……」


 ポテトが呟く。


 さて、菅田将〇っぽい偽物は金八の足をどかして立ち上がり、「覚えてろ」といって教室の左側へ走り出した。そしてジャンプし……


 ドカ


 窓に激突。誰もが唖然とする中、窓を横にスライドして開け、華麗に飛び出た。


 ガサッ


「……」


 彼はここが2階であることを忘れていたようだ。幸い、窓の外の木に引っ掛かっている。ポテトが再度呟いた。


「展開早くね?」


作者よりお詫びと訂正

>10で池田零児としましたが、正しくは池上零児いけがみれいじです。訂正すると共に、深くお詫び申し上げます。



× × ×



 窓の外の木に引っ掛かって悶えるイケメン。微妙な雰囲気に包まれる教室に、さらに誰かが入ってきた。


「失礼」


 黒いコートの内側に黒いスーツ。赤いネクタイが映える。中年に見えるが、後ろに流した灰色の髪の下にある顔は尖っており、油断ならない感じがする。


「私は超機密極悪犯罪組織……じゃない、町会の者です」

「ああ、そうですか」


 丹任先生が答える。


「いや今、超機密極悪犯罪組織って言わなかったか」


 ポテトの疑問に答える者なし。「町会の者」は窓際へ行ってイケメンを引っ張り出し、拳銃を突き付けて「次はねぇぞ」と言ってから、何事も無かったかのように「いやぁ失礼しました」と笑顔を作り、イケメンを連れて出て行った。


「先生、今の人、超機密極悪犯罪組織……」

「……? ……ん、ああ、分かっていたとも。君たちを守るため、気付かないフリをしたんだよ」

「嘘だッ‼」

「よし、出席を取るぞ」

「おい誤魔化すなよちょっと」



× × ×



「先生、作者のミスでまだ書かれていない高校の名前を教えてください!」

「作者なにやってんの⁉ ここはこうこうこうこうだよ」

「こうこう……? え?」

「煌々高校だ」

「なるほど」


 無事に高校の名前を公開できたし、後悔しなくて良さそうだ。最高。by作者


「それでは出席を取る。と言いたいが、最初にたくさん名前を出したって読者の皆様が困惑するだけだ。ここは小説準備・会話掲示板の『学生ポテトの高校生活 スレ』を見てもらうしかないな‼」

「わぁお怠慢な担任だぜ」


 しかもそのスレにはまだ設定が1つしか出ていない。1-E生徒が全部書き込まれるのはだいぶ先になりそうだ。ここは是非、作者に謝ってもらおう。作者謝れ~。


「……誠に遺憾であります」

「ちゃんと謝れよ」


 こんな茶番をやっている場合ではない。チャイムが鳴り、担任の丹任先生が声を張り上げた。


「これから体育館に向かう。新入生歓迎会だぞ」

「わーい」


 渡り廊下から体育館棟に向かうと、他の1年生も来ていた。先生の指示で整列する。体育館内部への扉は閉まっている。ポテトが後ろを見ると、ある女子生徒がいた。


 青味がかった黒い髪を後ろで無造作に束ねている。細いまゆの下に琥珀色の輝きを放つ瞳があり、小さい鼻と小さい口、小さい顔が可愛らしいが、おとなしいというよりは活発な印象を受ける、その名はちえみ。愛称チエ。


「あっポテト! 久し振り~」

「彼女はチエ。前作では一緒に旅をした。彼女は爆発魔法で戦闘を有利に進めてくれたが、今作では魔法を使えない。代わりに異能がある設定のようだ。なお、僕や田中からチエに対して恋愛感情は無く、逆も同様。これからの物語で3人の間に恋愛は発生しな……」

「さっきから1人でブツブツ怖いよポテト……」


 チエは形の良いまゆをしかめた。


 「ところで」とポテトは切り出す。


「なんでA~C組とE組はあるのに、D組は無いんだ?」


 チエはうーんと唸る。この学校には少し前からD組が無いらしい。


「不吉でもないよね。『大好き』になるし」

「『大嫌い』にもなるけど大丈夫か」

「……あ、そっかぁ」


 チエはやや天然である。


 先生の1人が「これから始まるぞ~みんな静かに」と言った。閉じていた扉が開けられていく。いよいよ新入生歓迎会が始まるようだ。


 吹奏楽部の音楽に迎え入れられた1年生たちは、体育館の中心をグルリと囲むように座らされた。どうやら、中心に出てくる各部活の生徒が勧誘……もとい歓迎してくれるようだ。


 前半は運動部だったが、練習風景を見せてくれたりボールを投げたりと、けっこうマトモにやってくれた。そこで休憩が挟まれ、続いて文化部だ。


 吹奏楽部や弓道部、家庭科部など、最初はマトモなものが多かったが、やたらテンションの高い女子生徒が出てきて「探偵部」などと言い出した辺りで徐々に雲行きが怪しくなってきた。


 まずはか部。株を育て、株の動きを予測するという謎めいた活動を行っているらしい。宗教よりも怪しい。


 続いてストー部。夏の間にストーブを制作し、冬は暖を取って漫談するらしい。クオリティが高い割にくだらない活動である。


 はこ部というのは、箱を運ぶ部活らしい。何が面白いのだろう。文化祭では各部活が企画を出すらしいが、この部活は果たして企画を立てることができるのだろうか。全校を箱持った生徒が練り歩くのだろうか。邪魔だね!


 ハブ(蛇)をひたすら愛でるハ部。「洗濯」をしながら「生活」をするあらい部。けばけばしい部活かと思いきや、ケバブを食いまくるケバ部。「戸」で飛ぶことを目標とするト部は、10年間続いているのに飛ぶことに成功していないらしい。


 驚いたことに帰宅部も出てきた。「帰路には多くの困難と障壁が待ち受けています! 状況を適切に把握し、可及的速やかに処理をする。そしてコンマ1秒でも早く自宅に到着する。それが我ら帰宅部の目標です! 帰るべき、家がある!」


 ああ、この煌々高校、まともじゃない部活が多い。



× × ×



「どの部活に入るんですか?」体育館から教室への帰り道で田中が聞いてきた。


「>16はハ部に入るみたいだぞ」

「>16って誰ですか。ポテトさんはどこに」

「僕は家庭科部に入ろうかなぁ」

「家庭科部ですか。何かちょっと意外です」


 ポテトは母タルトから料理を教わったため、人並みに料理はできるのであった。一方の田中は、まだ決まっていないようだ。まあ、部活の入部届けは体験入部が終わってから出すらしいから、今は決めなくても良いだろう。チエも寄ってきた。


「私は、まだ決まってないけどギター部!」

「チエらしいな。ロックが好きそうだから」

「鍵? あ、違う、岩は好きじゃないよ?」

「じゃあ鍵は好きなのか。今度あげようか」


 まるでトンチンカンな会話に、田中は頭の頭痛が痛くなってきた。そうこうしている間に教室に到着し、先生に挨拶をして帰宅した。


 帰り道。早めの解散だったため、まだ太陽は白く輝き、空も青いままだ。住宅地の中をポテト、田中、チエの3人は歩いていた。


 「そういえば朝、ヤクザに会って」とポテトが話すとチエは何故か爆笑した。それから「でもここの辺にヤクザがいるなんて珍しいね」と言った。この蝶々町には2つのヤクザの組があるが、煌々高校はその真ん中に位置しているのだ。「確かに、珍しい」


 その時、ポテトに後ろから誰かぶつかった。と思ったが、ポテトは元勇者の経験を活かしてかスッと避け、その誰かは「わっ」と言って転んだ。ずてーん。


「大丈夫ですか?」


 チエが心配する。


 「ああ、悪い。考え事をしていて、前、見てなかった……」と言いながら立ち上がったのは、制服からして煌々高校生、また胸ポケットから覗く生徒手帳の色からして先輩らしかった。


 背は高く、しかも髪の毛が赤みがかった天然パーマなので目を引くことこの上ない。制服も着崩し、どうも不良生徒のような印象だ。その先輩は、黒曜石のような色の瞳でポテトたちを半ば見下ろし、「あ、新入生か。わり」と低い声で言って、スタコラ歩いていってしまった。


 顔を見合わせる3人。さらにそこに、1人の男子生徒が歩いてきた。


「新入生たち。あの人には関わらない方が良い」


 硬めの声と、それに合った、きちんとした身だしなみの男子生徒。先程の人と同学年だ。


 次々と知らない先輩に会って怯える新入生の心を和らげるように、実際には3人は呆気に取られているだけだが、その男子は少し声を柔らかくして言った。


「生徒会の浦霧うらきりだ」


 声と同時に、制服の襟元の赤銅のバッヂが輝いた。それは生徒会の証だ。



× × ×



 煌々高校、校長室――。


「入学式を除くと初日ですね。お疲れ様でした」


 黒いカーテンに挟まれた窓からの光を背中に浴び、まるで光輪を背負っているかのような美しい女性。彼女は煌々高校校長、ミカエル東堂とうどうだ。その斜め後ろに、弁慶のように控えているのは副校長、魔王。そして2人に向き合うように、何人かの先生が直立していた。


「明日から授業も始まります。ゆっくりこの高校に慣れてくださいね」

「はい」

「ありがとうございます」

「精進して参ります」


 校長先生は、煌々高校1年目の教員たちに優しく声をかけた。物腰柔らかだが、キリリと整った顎と目尻、きっちりと後ろで結ばれた黒髪には、意思の強さが現れている。やがて先生一同は校長室から出て行った。魔王も退出しようとする。


「魔王先生」

「何でしょう」


 呼び止められた魔王は不思議そうな顔をする。彼に校長先生はニッコリ微笑んだ。


「また1年頑張りましょうね」

「はい! 全力で頑張ります」


 次に魔王は校長先生の首元を見た。


「素敵なネックレスですね」


 校長先生の首には銀色の首飾りが輝いていた。


「ええ、少し奮発してみたの」

「似合います。どこでお求めに?」

「それは駅前の……きゃっ」


 急に校長先生が前に倒れた。魔王が慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか」


 校長先生は魔王の手を取って立ち上がった。


「ええ、ちょっとめまいが」

「心配させないでください(笑)」

「ええ……何よその(笑)は」

「(汗)」

「(白い目)」

「(土下座)」



× × ×



「……」


 校門前、煌々高校初代校長であるガースー煌也の銅像がある。そこでバーガーは、世にも奇妙な光景を目にしていた。


 背の低い、恐らく新入生の女子が、銅像に向かって目を閉じ、胸の前に手を組んでいる。どう見ても、初代校長に祈っているようにしか見えない。


 ボブスタイルの黒髪。小さい顔に赤っぽい眼鏡をかけている。閉じた目は綺麗な形をしていて、組んだ手も、遠目にはクリームパンのように見える。その例えが正しいかどうかはさておき、可愛らしい、小動物を思わせる外見だった。


 バーガーは少し見ていたが、やがて歩き出した。しかし、カムバックした。少女が祈り?をやめてしゃがみ、何か銅像の台をいじり始めたからだ。「初代校長の銅像の台に触ると金運が上がる」などという伝説は、ない。バーガーは少女に近付いた。


「えーと」


 声をかけると少女はハチミツ色の瞳をバーガーに向け、「こんにちは」と律儀に挨拶し、そのまま作業を続行した。どうやら、タイマーらしき物を台に付けている。銅像は学校を囲む塀にほぼ隣接しているが、その塀と台との隙間に、隠すように付けているのだ。しかもチラリと見えた数字が、どうもずいぶん長かった。


 長い間の癖でバーガーは注意をしようとしたが、何だか面倒になってやめた。それに、今これをやめさせても、少女は明日にまたやるように思えた。


 少女を背中に校門をくぐり、学校を離れてからも「あの少女は何者か」と考え続け、そして挙句の果てに別の新入生にぶつかりかけた。しかも、避けられた。「わっ」と言って転んでしまったが、すぐに立ち上がる。「あ、新入生か。わり」と言って誤魔化し、バーガーはさっさと歩き出した。

 席の配置を記号で書くという暴挙に出ていますね。わかりやすくはあるのかもしれませんが。

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