あれは恐ろしい方ですよ
強い意志を持って王家にお仕えしている宰相様が押せ押せなので、なにかこの話、断れそうにもない、と落ち込んでいたマレーヌだったが。
元来、前向きな性格なので、なんとかいい方に考えてみようとした。
「まあ、でもお兄様。
考えてみれば一度王宮に上がったら、戻ったとき、いろいろ良い縁談があったり。
大貴族の館で雇ってもらえたりとか。
引く手あまただと言いますよね」
待て、と上の兄に言われる。
「お前はもともと大貴族の娘だ。
何処で雇ってもらうと言うのだ。
まあ、確かに今は家柄はともかく、落ちぶれてはいる。
だが、貴族の中で、下ではないぞ。
中の上くらいだ」
「中の上、微妙ですね……」
そこで、いや待て、と次の兄にも言われた。
「そもそもそれは使用人として王宮に上がったときの話で。
何処の正妃が王宮を出て、貴族の屋敷に仕えると言うのだ」
お前があそこを出るときは、何か邪魔になって処刑されたときか、王となった王子が隠居するときだけだ、と言う。
「……困りましたね」
「お前が素直に王子の元に嫁いでくれれば、困るどころか、我々は万々歳なのだが……」
いや、そうなんでしょうけどね、と思ったマレーヌに、不機嫌なマテオが言う。
「マレーヌ様、あれは恐ろしい方ですよ」
「え? エヴァン王子?」
と訊いたが、私など王子様にお目通りしてお話しする機会など、そうそうございません、と言われてしまう。
「この間は宰相様に追い払われてしまいましたし」
「そういえば、そうだったわね」
「私が申しているのは宰相様のことですよ」
渋い顔でマテオは言う。
「そうですか?
恐ろしいですか?
宰相様、目つきや口調はあれですが。
ああ見えて、思いやりとユーモアにあふれていると思うのですが」
と言って、
「どの辺がですか……」
と言われてしまう。
いや、笑顔でなにを考えているのかわからないルーベント公爵などより、余程いいと思うのだが。