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他の王子妃候補が現れました

 

「では失礼致します」

と挨拶して廊下に出た途端、マレーヌはアルベルトに、


「王子との顔合わせ、どうであったか?」

と問われた。


「可もなく不可もなく普通、という感じですかね」


 王子がか、と言われ、

「いや、私、どんだけ無礼者ですか。

 王子から見た私がですよ」

とマレーヌは言った。


「特に良くもなく、悪くもなく。

 学校が同じな上に友人の妹だから、話が合わないこともないって感じですね」


「ほんとにお前はどこまでも冷静だな。


 あの美しいエヴァン王子の妻となり、ゆくゆくは、この国の王妃となれるかもしれないのだぞ。

 もっと喜んだりとかしないのか」


 マレーヌは少し考えたあとで言った。


「違うことでなら、ちょっと喜んでますけどね」


 アルベルトが、なにを喜んでおるのだ? という顔をする。


 いや、あなたと間近に会う機会が増えたことですよ。

 そうマレーヌは思っていた。

 すると、向こうから派手に飾り立てた女と、つるっと頭髪の禿げた身なりのいい男がやってきた。


 アルベルトにより、政敵が失脚したので、今や城で一番の勢いを持つルーベント公爵だ。


 同じ公爵家ではあるが、ユイブルグ家とでは、その資産額に大きな違いがあった。


「これはこれは宰相様」

 宰相アルベルトのおかげで一時的に勢いを増しているルーベント公爵ではあったが。


 いずれ自分もアルベルトに追われる身となるだろうと思っている彼は、愛想よく話してはいたが。


 その瞳にはアルベルトに対する警戒心があふれていた。


 アルベルトは特に紹介されるでもなく横に突っ立っている娘の方を見て、ルーベント公爵に問う。


「誰なのだ? この娘は」


「この娘は、レティシアと申します。

 アルベルト様のご用意された娘がエヴァン王子の気にそまなかった場合を考えまして。


 わたくしも予備の娘を連れてまいりました」


 予備と言われてもその紅いドレスの女、レティシアは腹を立てもせず、アルベルトに向かい、優雅にお辞儀をした。


 マレーヌが、その美貌で、そんな優雅にお辞儀とかされたら、宰相様のお気持ちがあなたに向いてしまいますっ、と慌てるほどに。


 だが、アルベルトはいつもの氷の眼差しを崩すこともなく。

 レティシアを観察しながら、軽く挨拶を返した。


 そんなアルベルトの態度には慣れているらしいルーベント公爵は、ふふふ、と微笑み、

「王子がお気に召さなかったら、この娘、宰相様に差し上げますぞ」

と言う。


 では、私も断られたら、宰相様に差し上げてください、とマレーヌは思っていた。


 そんな風に言われても、やはり、レティシアは腹を立てる様子もなかった。


 かと言って、王子妃になれることが嬉しいというわけでもないらしい。


 美しいが無表情だ。


 そのままルーベント公爵はアルベルトと宮殿内の情報を交わし合う。


 少し離れたところで待っていると、レティシアの方から話しかけてきた。


「あなたは王子妃になりたいの?」

「え? いいえ」


 中庭に面した回廊からは、太陽に煌めく噴水が見える。


 謎の女性たちが輪になり、踊り狂っているような彫像の上から噴き出す水は水量も多く、立派なものだったが。


 さして興味もなさそうに見ながらレティシアは言う。


「私の家は貴族ではあるけれど、裕福ではないの。

 そんなに身分も高くないから、私が妃か妾に選ばれたら、ルーベント公爵の養女になることが決まってる。


 あなたには申し訳ないけれど。

 貧乏な生活はもうまっぴら。


 私は私のこの美貌で、贅沢三昧な生活を勝ち取るのよ」


 だが、う~ん、ととマレーヌは首をかしげる。


「……豊かであるとは思いますが。

 王家の方々、全然、贅沢とかしてなさそうなんですけどね」


「それでも、私の今の暮らしよりはマシよ。

 私、男爵令嬢なのに、自分で火をおこして、パンを焼いたりしてるのよ?」


 自分のうちだけで使用人を雇うことができないので、数軒掛け持ちしている使用人を使っていて。

 いない日も多いのだという。


「でも、私も焼きますよ、パン」

と言ってみたが、


「それは趣味でしょ」

と睨まれる。


「ともかく、私はあなたが邪魔なのよ」


 殺されるっ、とマレーヌは身構えた。


「そんなに美しくて愛らしかったら、王子はあなたを好きになってしまうじゃない」


 えっ?

 ありがとうございますっ。


 そんなストレートな賛辞は初めていただきましたっ。


「頻繁に王子と会って、あなたの覚えがめでたくなってもらっては困るから」


 殺されるっ、とマレーヌはまた身構えた。


「王子の目のつかないところに追いやりたいわ」


 監禁されるっ、と怯えたとき、レティシアが言ってきた。


「いや……たぶん、あなたの頭の中ほど、ひどいことはしないから」

と。


「そうね。

 とりあえず、これからは王子と面会させてもらえる機会も増えるようだから。


 あなたのいいことはひとつも言わずに、悪いことばかり報告してみようかしら」


 ふふふふ、と妖しくレティシアは笑ってみせる。


 いいことはひとつも言わずに、悪いことか……と思ったマレーヌは、

「あの~」

と身を乗り出し、レティシアに訊いてみた。


「私のいいところって、何処でしょう?」


 いまいち自分に自信が持てない人間だからだ。


「えっ? 何処って。


 ……え~と、何処……?」

とレティシアもすぐには出なかったらしく、口の中で呟いている。


「えーと。

 そうね……ああ、えっと。


 ほら、さっきも言ったけど。

 あなた、可愛いじゃない」


「そうですか?」


「スタイルもいいし」


「そうですかね~?」


「物おじしないその性格も、外交のこととか考えると王子妃向きだと思うし……」

と順調に褒めてくれはじめたところで、レティシアは、はっとしたように言ってきた。


「ちょっとっ。

 なんで私があんたを褒めなきゃいけないのよっ」


 あまりに自信なさげだったんで、全力で褒めちゃったじゃないっ、と言う。


 なんだかんだで、いい人だ。

 ぜひ、あの人の良い王子の妃になってください、とマレーヌはレティシアの手を握ったが、払われた。


 アルベルトは、ルーベント公爵の話に適当に相槌を打ちながら、なにをやってるんだ、という目で、こちらを見ている。


「エヴァン王子はやさしく知性にあふれています。

 いずれ、立派な王となられるお方です。


 レティシア様が妃となって、王子を支えてあげてください」


 マレーヌがそう言うと、レティシアは警戒したような顔でこちらを見てきた。


「なによ。

 王子になにがあるの?」


「は?」


「そんないい物件。

 人に喜んであげようなんて人、いるわけないじゃないの」

とレティシアは言い出す。


「あなた、王立学校で王子と親しかったんでしょ?

 王子にはなにか人に言えないようなことでもあるんじゃないの?」


「親しかったのは、私ではなく、姉ですが。

 王子の評判は、すこぶるよかったですよ」


 じゃあ、なぜ? と問われ、マレーヌはチラ、とアルベルトの方を見る。


「私には……その、他に好きな方が」


 そんなマレーヌを、


 だから、なにをやっている。

 他の妃候補と馴れ合うなっ、

という目でアルベルトが冷ややかに見ていた。


 ああっ、その極寒の大地に吹き荒ぶ凍てつく風みたいな視線っ。

 たまりませんっ。


 私を罵ってくださいっ、

と思うマレーヌの表情と視線を追ったレティシアは、


「えっ?

 あなたあの宰相様がいいの?


 確かに見た目も財力も地位も申し分ないけど。


 荒んだ結婚生活になりそうじゃない?

 あなた、変わった趣味ね……」

と呆れたように言っていた。



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