今日一番のどきどき
とりあえず、王子と一度話してみた方がいいだろうというアルベルトに連れられ、マレーヌは王宮に向かう馬車に乗っていた。
「まあ、私がこれがよかろうと思い、手配したところで。
王子が気にいらないと言えば、それまでだしな。
私からは無理強いはできぬ」
断られればラッキーなような。
女として、それはそれで問題なような。
っていうか、あなたと二人で馬車に乗っていることが、私にとっては、今日一番のドキドキなのですが。
話しながら、まっすぐ自分を見つめてくるアルベルトにマレーヌは俯く。
広い馬車の中。
アルベルトはマレーヌの横ではなく、正面に座っていた。
王子の妃となろうとしている娘の横に座るのは無礼だ、と考えているからではなく。
この娘でほんとうに大丈夫なのか?
と思いながら、真正面から観察しているように思えた。
「それにしても、何故、私なのですか?」
とマレーヌは問うてみる。
「第一王子であるエヴァン王子の正妃ということは、いずれ、この国の王妃となるということですよね?
私など向いていないのではないかと思うのですが。
私、自由奔放に父が育てたので、細かなしきたりや行儀作法など知りませんし」
そうマレーヌは言ってみたが、
「覚えればなんとかなる」
とアルベルトは言う。
「ダンスも下手ですし」
「覚えればなんとかなる」
最初からなんとかなっている方を選んだ方がいいと思うのですけどね、
とマレーヌが思ったとき、馬車が王宮の正面玄関についた。
馬車の扉が開けられ、先に降りたアルベルトがマレーヌに手を差し出し、降ろしてくれる。
ああ、夢のようですっ。
宰相様に手を借り、見つめられながら馬車を降りるとかっ。
例え、その視線が完全に、店先で品物を値踏みしているときのそれと同じ感じでも。
私はその方がきゅんきゅんしますっ、とマレーヌはひとり感動に打ち震えていた。