ともかく、確かめてみようっ
マレーヌと王宮の廊下を歩きながら、アルベルトは思っていた。
今まで会った娘の中で、この娘が一番良い、と思ったから、王子にお薦めしたのだが。
王子にとって、この娘が好みでないのなら、私がこの娘を手に入れてもよいということなのか。
いやいや、そんなはずはない、とアルベルトは思う。
こんなに可愛らしく面白い娘を良いと思わぬ男などいない、と。
アルベルトは良家の子女にあるまじき速さで自分とともに歩くマレーヌをチラと見た。
顔もスタイルも雰囲気も笑顔も良い。
申し分ないっ。
うむっ。
やはり、このような娘を良いと思わぬ男がこの世にいるわけもないっ、
と本人なりに冷静に分析し、結論づけた。
マレーヌはその視線に気づき、早足で歩きながらも、ひっ、という顔をする。
こいつは私が観察していると、いつもこういう顔をして怯えるが、何故なのだろうな、
と思うアルベルトはおのれの眼光の鋭さに気づいていなかった。
まあだがしかし、この世には妙な趣味の男もいる。
王子がその妙な趣味の男でないという保証はない。
何故なら、今まで王子には浮いた噂がなかったから。どのような女性が好みなのか、皆目見当がつかないからだ。
それで、世間一般の男たちがもっとも好みそうなマレーヌを選んでみたのだが、
とアルベルトは王子や従者や、マレーヌの兄たちまでも、いやいやいや、と手を振り否定してきそうなことを思っていた。
もし、ルーベント公爵が聞いていたら、
「おかしな趣味なのはあなたの方では?
その娘は良い血筋で美しいが、かなり変わっておりますぞ」
と言ってきていたことだろう。
ともかく、アルベルトは、もしかしたら、マレーヌは王子の好みではないのかも、という淡い期待を抱きながら、王子がいるはずの執務室を訪ねてみた。




