久しぶりに王立学校に来ました
卒業を控え、もう単位もとり終わっているので、そんなに通うことのなくなっていた王立学校に久しぶりに行く日が来た。
やり手の宰相アルベルトの推挙により、王子の妃候補となっていることはすでに学園でも話題となっていた。
「よかったですわね、マレーヌ様」
……よかったのか? と思うマレーヌに友たちは言う。
「私など、まだ嫁入り先が決まらなくて」
「ほんとうらやましいですわ。
エヴァン王子なら、年齢的にも問題ありませんし。ねえ?」
とクラスメイトに言われる。
まあ、貴族の結婚なんて、本人たちの意思より、家と家との付き合いで決まるものなので。
相手がすごく年上だったり、子どもだったりすることもザラにあるから。
ほぼ同世代の相手、というだけで、ある意味、ラッキーなのだろう。
あまり普段は親しくないクラスメイトまで、望まぬ結婚をさせられるよしみか話しかけてきた。
「わたくしなんて、相手のお宅は我が家よりお金持ちだし、年齢もそこそこ近いのですけれど。
後継ぎとなる夫婦は、片田舎の領地に年の三分の二は住まねばならないらしいのです」
まあ、と王都でしか暮らしたことがなく、領地の見回りなんて、せいぜい気候のいいときに避暑を兼ねて覗くくらいしかしない友人たちは衝撃を受ける。
マレーヌは、森の近くでゆっくり本を読めるし。
村人からの差し入れの、焼き立てフルーツパイなどを楽しみにしたりしているので。
領地を訪れるのも好きなのだが。
彼女らにとっては、田舎暮らしも監獄暮らしも変わらぬようで。
「お可哀想に」
「向こうにいらしてるときには、なにか贈りますわ、王都の流行り物でも」
「それより、お話相手になりに行きますわ。
ね、みなさん」
とみんな一生懸命、彼女を慰めはじめる。
そのまま、この話は終わってしまった。
「というわけで、みんなの同情は田舎に行く友だちに集まり、私は同情されませんでした」
王宮の廊下を歩きながら、マレーヌが渋い顔でアルベルトに言うと、アルベルトは、
「何故、同情されること前提なのだ。
王子の嫁というのは、普通、うらやましがられるものなのではないのか?」
と訊いてくる。
「親は喜ぶかもしれませんね。
でも、後宮は大変なところと聞きます。
娘が政敵に追い落とされたり、一服盛られたり。
王子に別の寵妃ができて、悲しい思いをしたり、なんてことがあるくらいなら。
娘を大事にしてくれそうな普通の貴族のところに行った方が良い、と思われる親御さんも多いのでは?
娘側からしても、普通の貴族の奥方様でも充分お洒落も娯楽も楽しめますし。
なにより、後宮に入るより、自由がありますからね。
食うに困るような時代ならともかく。
今、後宮に入るメリットはあまりないと思いますね。
我が国は豊かで、貴族たちも富んでますから」
うーむ、とアルベルトは渋い顔をした。
「立派な王家のおかげで、国も貴族たちも裕福に幸せに暮らせているというのに。
そのせいで、まともで控えめな娘たちを、王子の嫁にもらえないとかおかしくないか。
それでは、王子の嫁は野心家の大臣たちが送り込んでくる娘か。
本人がガツガツしているものからしか選べないではないか」
「ガツガツしてはいるけど、そう性格も見た目も悪くない方もいらっしゃるかもしれませんよ」
「……そんなものを探し出すのはお前を無理やり正妃にするより困難だ。
やはり、お前にしよう」
容赦無くアルベルトはそう言ってくる。
これだけ愚痴っているのに。
そして、これだけ顔を合わせているのに。
アルベルトは今でも、自分に対して情のひとつもないようだった。
相変わらず、物でも見るような目で、自分を見下ろしている。
悲しく思いながらも、でも、やっぱり、その蔑むような目つきが好きです~っ、と思ってしまう困った自分もいた。




