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冷徹宰相様の嫁探し  作者: 菱沼あゆ


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12/21

王様に信頼されてしまいました……

 なかなか婚約話をしりぞけられないマレーヌは気分転換に王立図書館に行ってみた。


 すると、

「あら、マレーヌじゃない」

と朱色の絨毯の敷かれた階段からレティシアが声をかけてきた。


 二階にいたようだ。


「どうですか?

 レティシアさんの方、お話進んでます?」


 見上げてマレーヌは微笑んだが、レティシアは下りてきながら、肩をすくめてみせる。


「もう無理よ。

 なんだかあなたたち怖いし」


 あなた『たち』って誰だろう? と思うマレーヌに、


「それにあなた、最近、王様の覚えもめでたいっていうじゃない」


 レティシアは完敗だわ、というようにオーバーリアクションで首を振り言ってきた。


 いや、覚えがめでたいっていうか。


 あれは、ちょっとした私のミスなんですけどね……とマレーヌは思っていた。



 王子への直談判とそれを理由にアルベルトの顔を見に王宮に行くのが日課となっていたある日。


 マレーヌは宮殿の廊下で、王様と出会ってしまった。


 アルベルトとともに脇に控えようとしたが、王様は気さくに微笑みかけてくれた。


「ほう。

 お前が宰相が強力に推しているユイブルグ公爵家のマレーヌか。


 美しくなったな」


「お久しぶりでございます、陛下」

とマレーヌは優雅にお辞儀をする。


 一応、公爵令嬢なので、美しいお辞儀の仕方はしつけられていのだが。


 王宮に出入りするようになってから、更に厳しくアルベルトにしつけられたので。

 自分でもなかなかないいと思えるお辞儀ができた。


 流れるように優雅にお辞儀をするマレーヌに、ほう、と王様は感心する。


「いやしかし、アルベルトがあんなに推してくるとは。

 お前もお前の一家も、よほど野心がないのであろうな」

と王様は笑った。


 そうですね。

 野心がないことにかけては、右に出るものはいないかと思いますね。


 役に立つかは謎ですが……。


 だが、変に力を持っていたり、他国と密接に交易をしていたり、などという家では、一時的には役に立っても。


 王をおのれの傀儡にしようとしたり、いろいろ立ち回るのでかえって厄介なのだろう、とマレーヌは思っていた。


「ルーベント公爵などに力を持たれては困る者もたくさんおるからのう」


 今でも、頻繁に口を出してきて、私も困っておる、と案の定、渋い顔で王様は言う。


「税の取り立てをもっと厳しくし、国庫を潤わせろとルーベントは言うのだ。

 そうでなければ、いざというときに困ると」


 いざというときというのは、飢饉や戦争のときのことだろう。


 まあ、一理あるが、と思いながらも、マレーヌは言った。


「豊かで勢いのある国というのは、民が豊かである国です。


 どんなに国が貧しいときでも、飢饉のときでも、王室と貴族たちだけは潤っています。


 だから、外から見た時、その国が富んだ国かどうか、強い国かどうかは、民たちが豊かかどうかで判断されると思います。


 それに、民たちが豊かで、勢いある国こそが発展性のある国だと思います。


 他国から安易に攻め入られないためには、民たちが豊かで楽しく余裕のある暮らしをしていなければ駄目だと思いますが」


 王様もアルベルトも黙っている。


 はっ、余計なことを言ってしまったっ、とマレーヌは焦った。


 偉そうに語ってしまったけど。

 実は単に、街の活気がなくなると、美味しいものがなくなるので嫌だとか。


 街の食堂で陽気に話しかけてくる人たちと過ごす時間が持てなくなるのが嫌だとか。


 そんなしょうもない理由からだったのだが。


「うむ」

と王様は深く頷いた。


「なるほど。

 美しく野心がないだけではないらしい。


 なかなか賢い娘だ。


 民を(ないがし)ろにして、おのれだけ贅沢をしたりもしそうにない。


 アルベルトよ。

 良い娘を選んでくれた。


 この娘は、よくエヴァンを支え、共に国を繁栄させてくれる良い王妃となるだろう」


 エヴァンの正妃にふさわしい、と言われてしまう。


「はっ、ありがたき幸せ」

と礼をするアルベルトとともにお辞儀をしながら、マレーヌは思っていた。


 失敗した~っ。

 王様に気に入られてどうするっ。


 王様が革新的で立派な方なのもこんなときには困りものだ、と思ってしまった。


「『でしゃばるな、小娘がっ』とか罵って欲しかったです~」

と王様たちが去ったあと呟いて、アルベルトに、


「心配せずとも、王様がご不快な顔をされていたら、私が先に罵っておったわ」

と呆れたように言われる。


 いえ、むしろ、あなたには罵って欲しいのですけどね、とマレーヌは内心思っていたのだが。



 そんなマレーヌの話を聞いたレティシアは、


「ふうん。

 そんなことがあったの。


 やはり、これからは賢い女でないとね。


 一応、王子が駄目だったときのために、何人かの貴族の坊ちゃんに近づいてはいたんだけどね。


 そんな風に男次第の人生っていうのも面倒臭いなって思いはじめてたのよ。


 ほら、色気で相手を振り向かせるのも労力いるから」

と言う。


 私にはそのような技がそもそもないので、労力がいるかどうかもわからないのですけどね、

とマレーヌは少し寂しく思う。


「これからは自立した女も悪くないかな、と思って」

と言うレティシアの目は、受付でテキパキ指示を出しているシルヴァーナを見ていた。


 貴族の令嬢らしさは失わない程度に、シンプルなドレス。


 長い銀髪を邪魔にならないようまとめ髪にして働く姉は、ひいき目なしに格好いい。


「王立図書館なんて初めて来たけど」

 ふふふふ、とレティシアは笑った。


 人生の目標ができたという顔だった。


 ちょっとうらやましいなと思ったとき、こちらを向いてレティシアは言った。


「あんたも頑張って」


「ありがとうございます。頑張ります」

と言いながらも、


 なんか私の方は、頑張れば頑張るほど空回りしているような気もするんですけどね、

と思っていた。




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