IFストーリー① 7 バランサーの思惑
この世界の調和を司る組織【オンブル】。
そのトップが、バランサーだ。
聖王や魔王と違い、バランサーは血筋は関係がない。
この世界の何処かで生をなし
現バランサーが、引き取り育てる。
バランサーの宿命を負い生まれし者には、人ならざるものの全てが視える。
そして、人の本質が分かるのだ。
人間でありながら、人の持ち得ない能力をその身に宿して生まれてくる。
なんの因果か、宿命を背負い生まれる者は孤独の身。親に捨てられるか、死に別れるか。
物心つく頃にはバランサーが親代わり
本当の親など知らない。
そして、そもそも存在さえしない。
戸籍がないのだ。
オンブルは、この世界でバランサーが選びし者が集まる組織。
各方面の重要人物でもある。
けれど人なのだ。
裏切りなどは?と思うだろうが魔王と聖王の力が作用している。
魔力か神聖力かの違いはあれど、絶対的な忠義で縛る。
その作用さえバランスだ。
そして、俺はバランサーの宿命を背負い生まれた。
付けられた名はK。
親代わりはU。
何故かアルファベットだ。
別に、アルファベットである必要はない。
名に意味はない。
記号のようなものだ。
俺には、何もかも視えた。
この世界のことを感覚的に捉えさせられた。
思考さえ道具だと。
全ては感覚に叩き込み捉え理解する事が
後の全てを決めるとも言われた。
能力を使いこなす中で俺が、この地に堕ちた経緯を知った。
俺は、神の一部だった。
ある女に執着して堕ちる許可を得た。
神の一部から、神の子たる人に生み堕として貰ったのだ。
子は父である神に、一部より沢山の世界をプレゼントしなくてはならない。
別に、神に強制される訳ではないのだが。
神の一部から解き放たれた俺が新たな世界を神に献上したいのかも知れない。
大袈裟に言ってるが、父たる神が可愛い子の為に与えた無限の選択肢を選べる権利を有効活用する。
神も、まだ知らない選択肢を見せてやる。
それが、子に出来る親への愛。
神が全知全能なのは、今ある宇宙だけ。
これから人が切り拓く宇宙は、神さえ知らない。
子である人が与えられた最高の贈り物だ。
Uは言う。
「俺達は人として未熟者だ。
バランサーは、人になる前の能力を持ち合わせて生まれてくる。
己の自我が望んだ神からの解放。
この世界を影から支え人を観察し人間を学ぶんだ。
この世界に存在しながら、この世界に存在しない者が俺達だな。
この矛盾さえも人たる者なんだ。
そして聖王と魔王は、人から神の一部になる。
その過程なんだ。俺達とは逆だ。
聖王と魔王が神の一部になれるかは彼等次第だけどな。
人でありながら、思考や概念が神寄りな俺達だからバランサーは適任なんだ。
そして、オマエが人になると決めた執着を手放すな。オマエの執着は人の子か?
己の眼で視ろ。
その子とオマエを結ぶ縁の辿り方を。
そして忘れるな。
神が子に与えたギフトを愛を。」
俺達のような、元は神の一部だった者が
この世界のバランサーから始まる訳だ。
その後、Uから学び。
新たな宿命の子を引き取り
俺もUのように育てる事で自分も学んだ。
聖王や魔王の様に一人しか存在しない訳ではない様だ。
バランサーは、数人ほどいる。
Uは、そろそろ己の欲望を叶えたいと、人間社会で生きる為の戸籍を取得して姿を消した。
地上に降りた本当の欲望を叶えるタイミングも
無限の選択肢の一部だ。
俺も、彼女を見つけたい。
世界の均等など、どうでも良くなっていた。
そして、魔王がウィリアムだと気付いた。
今の星夜は、前世とは違う。
星夜の本質を覗きローズマリーとの首輪の繋がりを視た。この繋がりを利用させて貰おう。
この広い世界で、一人を探し当てるのは大変だ。
いくら縁で繋がっていてもだ。
いくつかの分岐点を繋ぎ合わせる必要がある。
俺は最短で逢いたかった。
次こそ捕まえる俺は逃げない。
俺の欲望を叶える。
それが、俺が堕ちた理由。
彼女の魂は、染まりやすい。
大きな流れに流されるだろう。
俺が彼女に会う為に、一度はアイツに預けよう
きっとアイツが俺まで運んでくれる。
それが、アイツの通過儀礼だから。
星夜の魂のローズマリーへの執着。
その縁を切る事で星夜は覚醒する。
彼は神の一部になる。
彼の狂気的な愛は、ローズ一人から全てに変わる。
全ての欲望、恐怖や不安、負のエネルギーが彼に降り注ぎ、そして彼は呑み込む。
人が彼に渡す愛だ。それを受け止め呑み込むのが彼の愛。
貪欲に味わい尽くすだろう。
彼は誰よりも闇を愛してる。
闇に巣喰う全てを。闇を受け入れた者への愛は
時に激しく時に穏やかだろう。
彼、そのものだ。
俺の画策に、星夜は期待に応えてくれる。
いくつもの選択肢を辿り彼女に出逢う。
そして、俺と彼女の縁を強化してくれる。
俺の欲望さえ叶えてくれる。
強化してくれた縁を辿り迎えに行くよ。
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とある砂浜で一人の女が星空を眺めてる。
愛しい誰かを想う様に。
首輪を捥がれた切なさか。
「俺じゃ駄目か?」
不安気に、声を掛ける。
俺に視線を向けた女が哀しそうに笑う。
「ウィルは、欲張りさんなの。
私だけじゃ、物足りないのね。ウィルらしい。
ガロ?ローズマリーはね。やっぱり、ウィルの側から離れなれないの。
ローズマリーは闇に溶けるわ。ウィルの中に。
この子を、お願いね。ガロ。
ガロだってローズマリーはウィルに譲ったのよね?
さっ、この子の意識が浮上するわ。
この子、迷子なの貴方が助けてあげてね。
さよなら、ガロ。」
そして、女が砂浜に横たわる。
ぼんやり目を開くが意識が朦朧としてそうだ。
俺は女を抱き上げて連れ帰る。
俺の仮名である。
日下 大牙名義のマンションの寝室に寝かせる。
女が、しっかり起きたのは朝になってからだった。昨晩、砂浜で夜風を浴びていたのは記憶にあるらしいが、あまり覚えてないと言っている。
俺は、たまたま倒れてたのを見つけて運んだと説明する。仮名を名乗り、物理的な縁を結び直す。
彼女の名前は柊 花凛。
俺と同じように孤独な女だった。
施設で育ち、身寄りも居ない。
この混沌の時代で生きる悦びを見失ってしまったらしい。
ある日、夢から覚めたら、とても心が満たされてる感覚だけが鮮明に残ったと言っていた。
昨晩は、何だか無性に海に行きたくなったと夜空に呼ばれた気がしたらしい、なのに良く覚えてないと曖昧だった。
それはローズマリーが顔を出してたからだが、疲れが溜まっていたんじゃないかと無理矢理、話を合わせた。
「俺は、この縁を大切にしたいと思うけど君は嫌かい?こんな事、いきなり言ったら驚くかな?」
そう彼女に問う。
「えっ?あの、助けてくれて感謝してます。
こんな得体の知れない女を拾ってくれて、ありがとうございます。
私も、お礼もしたいし、大牙さんをもっと知りたいと思います。なんか不思議と初対面の感じがしないというか…。おかしいですよね。」
そう答えてくれた彼女に安心した。
拒絶されるのが怖い。人の感情は強烈だ。
ダイレクトに心に響く。
嬉しくて俺は笑顔で
「良かった。
花凛って呼んでいい?
今日の予定は?
何も無ければ花凛の時間を俺にくれないか?
それが、助けた御礼って事にして欲しい。」
花凛は、顔を赤くしながらモジモジして頷いてくれた。
花凛を、もっと知りたい。
俺のものにしたい。
誰にも渡したくない。
初めて逢った女なのに、俺の遠い記憶の女じゃないのに、どうしようもなく彼女に惹かれた。
今なら分かる。
ウィリアムがローズマリーを求めた気持ちが。
俺からローズマリーを奪って誓約まで解除させた気持ちが。
人の欲望は、聖霊の執着より強い。
失う怖さや不安が強烈に襲う。
けれど、彼女を求める。
君の輝きが愛しい。
理屈じゃなく本能なんだ。
儚い命を君と歩みたい。
これが、人として愛すると言うこと。
同時に、不安や恐れを伴う。
相反する気持ちが強烈に刻まれていく。
彼女も俺を、同じ熱量で愛してくれるかな?
そうだと嬉しい。
隣で微笑む笑顔を守りたい。
俺のバランサーとしての役割を降りなくてはならない。
仮名が本名になる。
人間として表に出る時だ。
もう、世界を俯瞰的に見れない。
俺は、俺の世界で彼女との未来しか描けない。
出逢ってしまったから。
俺が地上に堕ちた理由に。