IFストーリー① 6 迷い人
あれから、半年経った。
迷い人は、徐々に増えて行く。
負の連鎖が拡大し、負のエネルギーは吸い上げ資源にしても充満していく。
情報は溢れ、不安のタネがばら撒かれる。
人が作りし混沌に、人が彷徨う。
物理的に迷い込んだ者は、足を踏み入れた時点で幻想の中だ。
己の中に強制的に意識を飛ばされる。
本当の自分から問いかけられる。
何故、私を受け入れないのだと。
そして、本来閉じ込めてきた己の欲望をリアルに体験する事になる、幻想の中で。
己の欲望に溺れても抗っても、神徒達が教え説く。心で理解するまで。
人は、教え解かれても体験し心で納得しないと変わらない。
そして、一人一人違うのだ。
己だけの正解の選択肢を己で選択する覚悟を持つ事も必要だ。
欲望も使い様なのだ。
上手く扱えば生命エネルギーが沸くのだ。
欲望から新たな変化も生まれる。
己の世界を宇宙を広げる事さえ出来る。
己の闇を愛せるように導くまで根気良く付き合うのだ。
本来なら、やらない仕事だ。
生きる中で、己自身が自分でやる事なのだから。
恐怖という闇を植え付けたくないのだ。
闇は静寂なだけなのに。
全てを受け入れてくれる愛そのものなのに。
夢の中の様に精神が迷い込む者も居る。
やる事は、同じだ。
リアルに体験する様な夢になるだけだ。
様々な欲望に様々な闇。
一人として同じ者はいない。
魔王として、こんなに働いてるなんて初めてだ。
そんな中で、一人の女の精神世界で
俺は前世の記憶を見る事になる。
片隅に仕舞われた記憶の断片。
いつか夢で見た記憶。
「なるほど。君がローズなのか。
こんな形で会うとはね。
君は何故、闇に呑み込まれそうなんだい?
今の君は心が弱いのかい?
本来は、強く冒険好きなのに。
きっと彼が迎えに来る。
俺じゃなくて彼がね。
こんな所で、闇に溶けてる場合じゃないよ。
君との縁は、恩返しだったのかな?
俺に付き合わせてごめんね。
あんなに愛した君を、今の俺は興味はあっても
あの時の様に愛せない。
僕の求めたローズマリーは何処にも居ない。
君を彼に託さなきゃ。
ローズマリー。目覚めなさい。
君が、この子を精霊王まで運んで。
首輪を外してあげる。
僕の愛しいローズ。ありがとう。
君の魂は、無垢すぎる。
何にでも染まってしまうんだ。
彼に君を託そう…。
弱ってしまったら僕の闇で癒すから。
また元気に冒険するんだよ。
僕だけのローズ。君を開放するけど
僕は君の闇にいつでも居てあげる。」
俺に、とっても前世の記憶との決別だった。
縁の繋がりを魔力で強化してやる。
さよならローズマリー。
魔力を使い切りそうだった。
意識が朦朧としてくる。
深い漆黒の闇に包まれる。
闇に包まれるのが心地良い。
『縁を自ら切ったか。覚悟を決めたのだな。
この世界の闇と一つになれ。オマエが闇そのものだ。』
そんな声が俺の中に響けば、魔力が漲り意識が浮上する。
どうやら、覚醒したらしい。
これで人間卒業だ。
魔力を一気に放出して魔の世界から迷い人全てを
静寂の闇で包み込む。
恐怖や不安のエネルギーを吸い上げる。
穏やかな闇を感覚に叩き込む。
本能に叩き込む。
全ての負の感情を恐れや不安と繋げぬように。
「闇の中で静かに、おやすみ…。
目覚めたら希望の光が射すから。」
そして、神徒達の魔力を回復させる。
束の間の休息だ。
「楓〜。
この世界が崩壊するまで俺が魔王だ。
一旦、部屋に戻ろう。酒が飲みたい。
影片家に報告しないとな。
選ばれし子供は、もう産まれませんよって。
これから先は魔王の地上での資金だけ宜しくってね。」
俺が歩き始めれば、楓が付いてくる。
二人でゲートを潜る。
部屋に戻るなり楓が
「何があったのです。
覚醒するなんて、聞いてません。
髪の色も変わってしまってますよ?
地上の外に出る時は擬態して下さいね。」
髪の色?と疑問に思う。
直ぐさま鏡を覗き込む。
なるほど、髪は黒から銀髪になっていた。
瞳は紫、魔力を込めれば赤くなる。
しかも、なんだか顔が中性的になってる。
別人とは言わないが、神徒達の様に妖艶な美しさのような艶っぽい感じになっていた。
「楓〜。
俺の顔が違う気がする。何これ⁈
俺も性別変えられる感じ?」
ちょっと変化にビビる。
「魔王様、人間卒業なんですから
私達と同じですよ。女にもなれます。
試したらどうですか?
それに、人間への擬態も。
無闇矢鱈に人間に手を出すと、魔薬で人を惑わせますからね。気を付けて下さい。」
魔王に覚醒するとは、そういう事なのね。
深く考えてなかった。
魔力を込め意図すると女の身体に変わる。
元の人間だと意図すれば元の星夜に戻った。
「不思議な気分だ」
そう言うと呆れた顔で
「魔王様。
良くそんなんで覚醒出来ましたね。
何があったか、ゆっくり聞かせて下さいね。
お酒用意しますから。」
ちゃんと話せと促された。
一緒にキッチンに向かいながらワインとグラスを持ってリビングへ移動する。
ワインをグラスに注ぎながら、事の経緯を説明すると楓が
「神の御意志ですか。
それとも、必然ですかね?
私も分かりません。
ほんの一辺しか私達は知らない。
神の中の一辺です。
さて、魔王覚醒に乾杯ですね。」
そう言ってグラスをカチンと鳴らす。
一気に飲み干した。
身体を巡る感覚が鮮明だ。
「これから多分、魔力も無限だろ?
神徒達を楽させてやれるかもな〜。喜ぶかな?
これからも、楽しくがモットーなのは変わらない。
人間の事は人間に考えさせる。
バランサーが言う指示しか聞かなくていい。
混沌の時代は、いつまで続ける気だろうな?
魔力の心配も要らないからいいけど。
なんか実感が湧かない。
けど、なんか全てが気にならない気もする。
なんだろな?この感覚は。」
言葉では説明出来ない想いがあった。
けれど、説明しなくてもいい気もした。
「魔王様。
感じるので、喋らなくて大丈夫です。」
そう言って楓が俺に寄り添う。
「感じれるの?」
疑問をぶつければ楓が答える
「魔王様に、戻って下さい。性別は問いません。
意識を集中して私を感じてみて下さい。
想いが伝わりますよ。」
言われた通りにしてみる。
楓を抱きしめ感じてみた。俺に対する想いが伝わる。
温かくて激しいその愛情は犇きあっていた。
「伝わった。あったかくて激しかった。」
そう言って笑うと楓も笑う。
「じゃ〜、私の願いを叶えてくれますか?」
なんだ?と聞くと
「私に貴方を抱かせて下さい。」
激しい想いはオスの楓なんだと思った。
「楓、オマエの本質は男なんだろ?
俺に合わせてくれてたんだな。ありがとうな。
俺も性別の枠を超えたからか抵抗なく受け入れられそうだし。
今なら受け入れられないものが無い気もする。
どっちを抱きたい?男の俺か女の俺か。」
ニコリと微笑み「どっちも」と言う楓は、とても楽しそうだった。
楓がオス全開で、俺を求める。
楓からの愛を全身に受けて快楽を貪る。
肉体的な気持ち良さと精神的な気持ち良さと
心も身体も蕩けそうだった。
熱く甘美なエクスタシーが続く。
初めての女としての快楽は意識が飛びそうだった。
何度も求め合い
まだ足りないと、お互い欲しながら
長い時間、絡み合った。
益々、楓が愛おしく感じた。
永遠に快楽に溺れそうになる。
離したくないと思ってしまう。
「魔の神徒は、自分が惑わす側です。
自分がこんなに惑わされ溺れるなんて。
欲望が掻き立てられます。
果ててしまうまで離しません。」
楓も同じかと思って嬉しかった。
そして、愛しさが込み上げて
俺がオスに変わる。
めちゃくちゃにしてやりたくなる。
楓は、男でも女でも可愛く鳴いた。
支配欲が満たされてく。
何度も何度も求め合い時間が流れて行く。
今なら、己も他人も世界も何もかも
ありのままに受け入れられる気がした。
全てが愛おしい。
全てを呑み込みたい。
全てを包み込み満たされたい。
神が言った、オマエが闇そのものだと。
俺の闇とは俺の愛だ。
貪欲に全てを包み込み全てを呑み込みたい。
それが俺の悦び。
どんな醜い欲望も俺が叶えてあげる。
全てを受け止め溺愛してあげる。
俺の闇の中では、全てが特別で愛しい。
そして思う。
人にとって、俺の闇の愛は魔薬だ。
どう受け取り、どう利用するのか人次第だ。
俺を利用しようとも溺れようとも抗おうとも
俺は人が愛おしい。
時に穏やかに時に激しく愛してあげる。
俺の愛しき人間よ。