表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/54

茶髪の彼    

 集合時間を過ぎても。

 茶髪の彼は、帰って来なかった。


 「何時くらいに、飲み物、買いに行ったんですか?」


 Aさんが訊いてきた。


 「たしか、9時30分くらいだったので。

  今から45分くらい前ですね」


 「けっこう時間、経ってますね。

  大丈夫かな……。

  慣れない道で、迷っているんでしょうか?」


 確かに、それもそうだ。


 今まで、茶髪の彼のことを。

 気にしてなかったわけ、ではないが。


 帰りが遅いとなると。

 心配になる。


 そして、Aさんが言うように。

 道に迷っていて。

 この公園に、帰って来れない、のだとしたら。


 僕の為に、わざわざ、買い出しに、行ってくれているのに。

 申し訳なさすぎる。 どうしよう。


 携帯電話の番号も、知らないから。

 連絡の取りようもないし。


 もしも、なにかの事件や事故にでも。

 巻き込まれていたとしたら。

 僕は一生、今日の自分の言動を、責めるだろう。


 心配と不安から。

 悪い予想ばかりしてしまう。


 もう少し。

 待つべきなのかも、しれないが。

 やはり、居ても立っても、居られなくなり。


 「ちょっと、見てきても、いいですか?」


 「もちろんです。

  僕らは待っていますので。

  どうぞ、言ってください」

 

 「ありがとうございます」


 ここは、Aさんに任せて。

 様子を見に行くことにした。



 そして、入り口の方に、駆けて行くと。


 そこには、茶髪の彼が立っていて。

 持ちきれないほどの、飲み物を抱えていた。

 飲み物は、ペットボトルの。

 お茶と、水のようだった。


 「すいません。 

  張り切って、買いに行ったはいいけど。

  自販機は、なかなか見つからないし。

  ようやく、買えたと思ったら。


  今度は、鞄に入りきらなくて。

  何度も、落としそうになるしで。

  散々でしたよ!」


 茶髪の彼は、笑いながら、言う。


 「無事で良かった……。

  確かに、飲み物入れる袋が、必要だったよね。

  そこまで気が回らなくて、ごめんなさい」


 「なに言ってるんですか!

  体調悪い人が、そんなこと、気にしなくていいんですよ」


 強めの口調で、叱られた。


 本当に。 運ぶのだけでも、大変だったはずなのに。

 そのうえ、僕を気遣ってくれている。

 なんて、優しい人なんだろう。


 「重かったでしょ。

  わざわざ、ありがとうございます」


 そう言いながら、僕は。

 茶髪の彼の、お腹に抱えている、お茶を1本だけ。

 落とさないように、慎重に抜き取ろうとすると。


 「あっ。 できれば、2・3本。

  同時に、取ってもらっていいですか?

  実はけっこう、限界で」


 「ごめんね。 そうだよね。

  できるだけ早く、取るね」


 「お願いします」



 「手伝いますよ!」


 背後から、声がしたので。 振り向くと。

 AさんとBさんが、駆けつけてくれていた。


 「ありがとうございます」


 人数が、一気に増えたこともあり。

 あっという間に、茶髪の彼の腕から。

 ペットボトルが消えていた。


 「ふぅー。 やっと、楽になったぁー」


 かなり楽になったのか。

 茶髪の彼は、大きく背伸びをしていた。


 「あっ。 でもまだ、ここにもあるんだった」


 そう言いながら、茶髪の彼は。

 自分の鞄の中を覗き込む。


 「結局。 何人、集まったんすか?」 


 そして、入り口から見て。 

 右側にある、ベンチのほうに。

 歩いていきながら、僕に訊いてきた。

 一旦、ベンチに座りたかった、のだろうか?


 僕は、公園中を、見回して。

 この場に来てくれた、当事者の人数を数える。


 えーっと。

 1,2,3,4。

 向こうに4人いて。 

 茶髪の彼を入れると。


 「5人ですね!」

 

 「じゃあ。 これは、余りかぁ……。

  誰かが、飲むかもしれないし。

  一応、ここに、置いときますね」


 そう言って、茶髪の彼は。  

 鞄から、余ったお茶や水を、取り出して。

 僕が、最初に座っていた、ベンチに、並べた。


 「おねがいします」


 さっきまで、座っていた少年は。

 中央にある、滑り台のところまで。

 移動していた。


 「お疲れでしょうから。

  しばらく、ベンチで。

  休まれてください」

 

 僕は、そう言いながら。

 持っていた、ペットボトルのお茶を。

 1本差し出す。


 「じゃあ、お言葉に甘えて」


 茶髪の彼は、受け取りながら。

 ベンチに腰かける。

 そして、お茶を飲む。


 「体調は、どうですか?

  もしまだ、悪いようなら。

  あなたも、座ったほうが、いいですよ」


 お茶を飲み終えて、そう言いながら。

 茶髪の彼は、さっき自分が置いたペットボトルを。

 自分のほうにずらして。

 僕が座るスペースを確保してくれた。


 「じゃあ、せっかくですので。

  座らせてもらいます」


 同性とはいえ、真横に座るのに。

 少し照れくささを感じ。

 ゆっくりと、腰かける。


 「やっぱりまだ、悪いんですか?」


 一気に、茶髪の彼の、表情が曇る。

 ゆっくり座っていたから。

 なおさら、体調悪いと、勘違いさせたようだ。


 「あっ、いや。 そうじゃなくて」


 今の感情を素直に、いいずらい。


 「そっか。 オレがいると、窮屈ですよね。

  すいません。 すぐに立ちます」


 茶髪の彼が、立ち上がろうとする。


 「あっ、待って。 そうでもないから」


 慌てて、止めて。

 これ以上、誤解させないように。

 急いで、話し出す。


 「体調のことなんですけど。

  おかげさまで。 徐々に、人が集まって来るにつれ。

  緊張や不安もなくなったのか。

  痛みが軽減されていって。

 

  皆が揃ったら、安心したのか。

  すっかり、よくなっていました。

  ご心配をおかけして、すみません」


 一瞬にして。

 茶髪の彼の顔が、ほころぶ。


 「いえ。 回復したなら、よかったです!

  でも、無理はしないでくださいね」


 「はい。 ありがとうございます」

 

 誤解が解けて、ホッとして。

 僕も、ずっと握りしめていた、お茶を飲む。


 「本当のこと言うと。

  早く届けたいのに、トラブル続きで。


  遅くなってしまったことを。

  申し訳ないな。 悪化してないかな。

  大丈夫かな……?


  と思っていたので。

  その言葉が聞けて、安心しました」


 なんて、いい人なんだろう。


 「僕も、遅いから、心配になって。

  様子を見に行こう、としていたところ、だったんですよ」


 「実は、全部、聞こえてました。

  でもせっかく、行こうしてくれているから。

  声かけずらくて。

  それに、一歩でも動いたら、落ちそうだったから。

  入れなかった、ってのもありますけど」


 そんな前から、重い飲み物を持ったまま。

 立っていたんだ。

 そう思うと、申し訳なくなった。


 「すみません。 気づかなくて」


 「いえ、大丈夫です。 と言いたいところですが。

  けっこう、きつかったですね」


 少し笑いながら、茶髪の彼は言う。

 そして僕は、勢いよく立ち上がり。


 「あのっ!

  何度も言って、しつこい!

  と思うかもしれませんが。

  やはり、改めて言わせてください」


 と言った。


 すると、茶髪の彼も。

 ゆっくりと、立ち上がり。

 少し、驚きながらも。


 「は……はい」


 ゆっくりと、頷き。

 かしこまっていた。


 「さっきは、集合した直後。 だったにも関わらず。

  わざわざ、僕のために、飲み物を買いに行ってくださり。

  本当に、ありがとうございました!」


 そう言った直後に、お辞儀をした。


 「なんだ。 そのことか。

  相変わらず、大げさっすね」


 茶髪の彼は、ホッとしたようだ。


 「オレ、そこまで感謝されるようなこと。 

  してないですし。 

  もう充分、思いは伝わったんで。

  大丈夫ですよ。


  それに、お礼言われるために。

  行動したわけじゃなくて。


  本気で! 心配したからなんで。

  ……気にしないでください」


 そう言いながら。

 茶髪の彼は、少し顔を背けた。

 照れているようにも、見える。


 「ありがとうございます。

  じゃあ、僕たちも、向こうに行こうか!」


 「はい。 あっ! 待ってください。

  肝心なことを忘れてました」


 歩き出そうとする僕を。

 茶髪の彼が、慌てて引き留める。

 そして、下を向いて。

 自分の鞄の中をあさっていた。


 「これ。 やっぱり、使えませんでした」


 そして、なにかを差し出されたので。

 目線を落とすと。


 そこには、僕の財布があった。


 「じゃあ、全額あなたが、出したんですか!

  10本もあるのに?

  さすがに、それは……」


 「申し訳ない、ですか?

  それはオレもおんなじ気持ちです」


 「でも、お金のことは、トラブルになりやすい。

  って言うから。

  ちゃんとしとかないと、いけないよ。

  だから……」


 「オレは今回のことを、トラブルにするつもりはないし。


  なにより、オレの気持ちとして。

  受け取ってくれませんか?」


 「……分かりました」


 「じゃあ、この話しは、終わり!

  ってことで、今度こそ、向こう行きましょう。

  皆さんが、待ってますよ」


 僕が、むりやり納得してから。

 間髪を入れず、茶髪の彼が話し出す。


 それは、これ以上僕に、お礼を言わせないため。

 のようにも思えた。

 気のせいかもしれないけど。


 僕たちが、ベンチの前で。

 話している間。


 他の当事者たちは。

 それぞれ、お茶を飲んでいたり。

 ベンチで、休憩したりしていた。


 どうしよう。

 当事者は、1人だけじゃないのに。


 茶髪の彼に、お礼を言いたかったのと。

 ときどき、敬語じゃなくなるほど。 話しやすくて。


 他の当事者が、疎かになってしまっていた。

 こんなことが、あってはならない。

 呼び出したのは、僕なのに。

 これじゃあ、他の当事者に、申し訳ない。


 「皆さん、お待たせして、申し訳ございません」


 滑り台のほうに、駆けて行きながら。

 公園中に、響き渡る声で言う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ