初対面
集合時間の15分前ーー。
茶髪の彼に、言われた通り。
僕は、あれからずっと。
同じベンチに座っていたが。
入り口のほうに、人の気配を感じたので。
そちらに、目をやると。
男性が1人、公園に入って来て。
僕のほうに、歩み寄ろうとしていたので。
当事者だろうと思い。
僕も、立ち上がる。
すると、入り口のほうから、明るい声がした。
「こんにちはー」
声に反応して、男性が振り向く。
と同時に、僕も、声のするほうを見る。
そこには、もう1人、男性が立っていた。
彼も、当事者だろうか?
「あっ! こんにちは」
先に来た男性が、返事をする。
「やはり、あなたも、こちらに来ていたんですね!」
後から来た男性は、なぜか、嬉しそうだ。
「はい。 あなたもでしたか。
ずっと、同じ方向だなとは、思っていたんですよ」
「僕も、尾行しているようで、悪いなと思って。
かなり、距離あけてたんですよ。
でも、この公園に、あなたが入って行ったのが。
見えてからは。
行き先が同じだと判明して。
安心したんです」
「そうだったんですね。
僕も、気まずかったので。
安心しました」
2人は、初対面とは思えないほど。
笑いながら、楽しそうに、話していた。
入り口から、僕のいるベンチまで。
あまり距離が、離れていないせいか。
2人の会話が、丸聞こえである。
会話内容からして。
この公園に、目的があって、やって来た。
そんな気がした。
だから、2人もおそらく。
僕と同じ、当事者だろう。
見た目からして。
2人は、僕と同年代くらいの男性だ。
先に来た人は。
後に来た人と、向かい合っているため。
顔が見えないが。
後から来た人は。
ニコニコしていて。
優しそうで。
第一印象がすごくいい人とは。
こういう人のことを、言うんだろうなと。
僕とは真逆の、第一印象に。
少し嫉妬してしまうほど。
はっきり、顔が見えた。
それは、後から来た人のほうが。
先に来た人より、背が高いから。
顔がはっきりと、見えたんだと思う。
2人の身長差は、頭1個分くらいである。
名前が分かるまで、しばらくの間。
背が高い方をAさん、もう1人をBさんと。
自分の中で区別しておこう。
「じゃあ、入りましょうか!」
「はい」
2人は話し終えると、こちらに歩いてきた。
いよいよ僕も、2人と対面である。
2人が和やかに話している。
穏やかな雰囲気を。
目の当たりにしている。
にも関わらず。
僕にとっては、今からが、初対面なんだ。
第一印象、大事だから。 ちゃんとしないと。
そんな思いから。
緊張で、顔が強張る。
「ここは、“ハートミュージックの集い”で。
間違いないですか?」
2人は口を揃えて、僕に言う。
声が重なったことに、2人は驚いていた。
そして、顔を見合わせ、笑い合う。
つられて、僕も自然と微笑む。
なんて平和な一時なのだろう。
さっきまで、強張っていたことが、嘘のようだ。
「はい。 間違いありません。
ちなみに、お2人も、初対面なんですか?」
「はい。 さっき、そこで出会ったばかり、なんです」
「そうなんですね。
仲良さそうだったので。
知り合いなのかな、と思いました」
「本当に。 今日が初対面なんですけど。
ここに来るまでは、お互いが1人同士なのに。
道順が同じだから。
前後が、入れ替わったりしながら。
ほぼ、一緒に来たような感じ、になってしまって」
Bさんが言った後に、Aさんも続けて言う。
「そうなんですよ。 尾行されている。
なんて思われていたら、どうしよう。
と思って、不安だったんですけど。
行き先が同じと分かって。
お互い、ホッとしていたんですよ!」
「そういうことだったんですね」
確かに。
その気持ちを、共感したくなるのも分かるなぁ。