忘れていた約束
駅から、ずっと。
走り続けていたので、疲れて。
一旦、足を止めてから。
前を見ると。
少し離れたところに。
ポツンと、薄暗く。
明かりが、灯されている、のが見えて。
その真下の。
出入り口に、設置されていて。
5段くらいある、階段の。
ちょうど、真ん中ぐらいに。
頭を抱えて、座っている人、が見えた。
おそらく、あそこが。
公園、なんだろう。
暗くなってしまった、景色の中で。
きっと、集合する予定の、3人のうちの誰かが。
目印になってくれている、のかもしれない、けど。
声、かけづらいな……。
でも、向かわないとな。
「行こうか!」
真横にいる、洸希に声をかけて。
息が上がっている中。
洸希が素早く、頷いたのを、確認してから。
とにかく、急ごう!
その一心で、走った。
そして、公園が目の前になると。
階段に座っている人は。
僕らの接近に、気づいて。
僕らの方を見た。
「お、おぅ!
やっと、来たか」
顔を上げて、嬉しそうな声で。
何事もなかった、かのように。
そう、呟いたのは。
分太だった。
そして、そう言った直後に。
立ち上がって、振り向いてから。
「おい。 来たぞ!」
公園の中に向かって。
呼びかけていた。
もう既に、泰樹と秀寿さんも。
到着しているようだ。
にしても、分太が顔を上げたとき。
目が光っていた、気がしたが。
きっと、気のせいだろう。
それから、2人が。
入り口まで、出て来たのを。
分太が、確認するなり。
「よし! 皆、揃ったな。
じゃあ早速、行きてぇからさ」
僕らを、鼓舞するように、言った直後。
僕の肩に、手を置いてから。
「勇大。 案内、任せたぞ!」
意外な一言を、放った。
「えっ!
僕が、案内するの?
分太は?」
僕が、驚きながら言うと。
「……覚えて、ねぇんだよ」
分太は、少しだけ。
頭を掻きながら、言った直後に。
「いいから。 さっさと、案内しろ!」
なぜか、早口で言う。
この公園から。
心音さん宅は、すぐ、なんだけど。
1度しか、行ってないから。
無理もないな。
でも今の、この状況には。
分太のように、先陣を切り。
指示をして。
引っ張ってくれる存在が。
なにより、ありがたかった。
「わ、わかったよ。
じゃあ、皆。
僕に、ついて来て……」
こういう言葉は、大抵。
頼りがいある人が。
皆を鼓舞するとき、なんかに使う。
力強い言葉……のはず、なのに。
僕は、そんな言葉を、力なく発した。
それから、僕の案内で。
今度こそ、心音さん宅に急ぎたい、が。
暗い夜道の中。
心音さん宅を探すこと、だけで。
一苦労だった。
昼間なら、建物でも、判断できるが。
今の景色での。
1番の頼りは、表札のみ、だった。
まず、表札の場所を探すところから、始めるので。
思いの外、時間が、かかってしまう。
携帯電話の、ライトで灯しながら。
1軒1軒、表札を、丁寧に確認する。
「たしか、この辺のはず、なんだけど……」
「おい、大丈夫か。
まさか。 お前も忘れた、なんて。
言わせねぇからな!」
「分かってるよ。
そうじゃないけど。
昼間とは、景色が違うんだから。
仕方ないでしょ。
それより、今、探してるから。
ちょっと、待ってよ」
「できるだけ、急げよな。
今は、緊急時、なんだからな!」
「だから、分かってる、って。
今、探してるから。
ちょっと、黙ってて!」
早く駆けつけたいのに。
すんなり、見つけられない。
焦りと、イラ立ちを。
そのまま、分太にぶつけてしまう。
「この辺、ならさ!」
僕らの、ケンカに発展しそうな、言い合いを。
むりやり止める、かのように。
泰樹が、慌てて言う。
「オレも。
向こうから、探してこようか?」
公園からは、遠いが。
心音さん宅と、同じ並びの。
奥の方の、一軒家を指さしながら、泰樹が言う。
「ありがとう。
でも、もうすぐ、のはずだから。
大丈夫。
最終的には、頼む、かもだけど」
泰樹の、協力的な姿勢が。
純粋に胸にしみて、ありがたかった。
けど、もうすぐ、見つかりそうなのに。
わざわざ、遠くに行ってもらうのは。
申し訳ない、気がする。
「そっか。
じゃあまた、声かけるわ」
「お願い」
「……にしても、オレ達。
完全に、不審者だな」
ボソッと、泰樹が呟いた直後。
“三島”
「あった!」
ようやく、心音さん宅の、表札を見つけて。
すぐに、チャイムを押すと。
返答がないまま、間もなく。
心音さんのお母さんが、出て来てくれて。
「お待ちしていました」
入り口の門を、開けながら言って。
先に玄関の方に、行き。
ドアも、開けてから。
「どうぞ」
すぐに、中に通してくれた。
「お邪魔します」
「失礼します」
僕らが、お母さんに、そう言いながら。
一礼して、中に入っていると。
背後から、ゆっくりと。
ドアを閉める音がして。
「あの!」
急に、お母さんに。
呼び止められたので。
振り向くと。
「もう1人、いませんでしたか?」
お母さんは。
優介が居ないことに。
気づいたようだ。
「はい。 いますが……」
分太が、なぜか、俯きつつ。
躊躇いながら、言う。
少し。
含みを持たせた、ようにも感じる。
なんで。
そんな言い方、するんだろう?
「もしかして。
病気……とかですか?」
分太の、言い方だと。
誤解させて、当然だ。
「違いますが。
どうして、そう、思われたのですか?」
「前回、来てくださったときに。
なんだか。 具合、悪そうにしてたので。
ずっと、心配していたんですけど。
なかなか、訊けなくて」
「そうだったんですか。
ご心配を、おかけした上に。
報告が、遅くなってしまい。
申し訳ありません。
そのことですが、今はもう。
すっかり、治っておりまして。
後ほど。
合流すると、思いますので。
ご心配、なさらないでください」
お母さんは、ホッとしたのか。
分太の言葉を聞いて。
かすかに、微笑んだ、ような気がした。
そして、今まで、お母さんに。
愛想よく、受け答えしていた、分太が。
急に、僕のほうを見て。
「お前。 連絡しなかったのか?」
小声で、話しかけてきた、ので。
「あっ! すっかり、忘れてた」
僕も、小声で返す。
「なにしてんだよ!
あのあと。 連絡する、約束だっただろ」
そっか。 ようやく今、分かった。
お母さんを、誤解させてたのは。
僕、だったんだ。
「そうだけど。
優介の話が、衝撃的すぎて。
それどころ、じゃなかったんだよ……」
「は?
おまえ、ふざけんなよ!
あれは、あいつが初めて。
お前に頼った、大事なこと、だろうがよ!
簡単に、忘れてんじゃねぇーよ!」
小声なのに。
言い方に、迫力がある。
「そうなんだけど。
あのときは、優介のことで。
頭が、いっぱいになって……。
分太も、そうでしょ」
「にしても、それとこれは、別だろ」
たしかに、分太の言う通りだ。
それなのに、僕は。
自分が悪いと、分かっていながらも。
つい、いつもの癖で。
言い返してしまった。
だからもう、素直になろう。
「そうだよね。
本当に、ごめんなさい」
「謝る相手が、違うだろ!
……とは言っても。
お母さんには。
さっき、謝罪したし。
あいつに、謝ったとしても。
許す、どころか。
そもそも、怒ってねぇ、だろうし。
それに、今さら、謝られても。
あいつも、困るだろうしな」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「まぁ、お前も、今まで。
暇じゃなかった、だろうし。
今は、言い争ってる、場合じゃねぇから。
この話は、終わりだ。
あいつには。
おれから、報告も兼ねて。
さりげなく、伝えといてやるから」
納得はしてないよう、だが。
分太が、むりやり、話を中断させた。
優介との約束を。
分太に指摘されるまで。
気づかなかった、僕が。
全面的に悪い。
そのせいで。
2人に悪いこと、してしまったし。
それに、
分太が言うように。
今は、言い争ってる場合じゃない、とも思うので。
僕も、これ以上。
この話には、触れないことにした。
「それより、今は。
肝心なことが、あるだろ。
最も、おれたちが。
駆けつけた、本当の理由がな。
この、事実だけは。
忘れた、なんて。
言わせねぇからな!」
「分かってるよ。
忘れるはず、ないでしょ!」
僕と分太が。
小声で話し終えた、直後に。
「こちらです」
心音さんのお母さんが。
おそらく、心音さんの部屋に。
僕らを、案内してくれた。
タイミングがよかった、ことからして。
もしかしたら。
僕らの小声での、やりとりは。
聞こえていた、のかもしれない。
そして、僕らは。
心音さんの部屋へと続く。
階段を、上り始めた。




