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受け入れたくない現実

 


 それから、電話に出る。


 『もし……もし』


 『心音が……心音が!』



 僕が、慎重に出たのに対し。

 お母さんは、焦っているようだった。


 『心音さんが、どうかしたのですか?』


 嫌な予感が、当たってほしくない。

 そんな思いからか。

 あえて、平気なふりをする。




 『心音が、危篤に……』




 一気に、血の気が引いた。


 お母さんは、泣きながら。

 必死に、伝えてくれていた。


 けど僕には、“危篤”という言葉、以降。

 なにも、聞こえてこなかった。



 けど、最後に。



 『すぐ、行きます……』




 その言葉だけを。

 なんとか、発して。



 礼儀など、お構いなしに。

 一方的に、電話を切り。


 まずは、優介に電話した。


 『はい』


 『もしもし、優介。

  心音さんが……危篤って……連絡、あった』


 涙を堪えながら、伝えたため。

 言葉がつかえて、途切れ途切れに、なってしまう。


 聞き取りづらそうで、申し訳ないけど。

 僕にはこれが、精一杯だった。



 でも、優介には。

 聞き取れたみたいで。


 『えっ!』


 息を吞むような、声が聞こえた。


 『だから、今から……』


 僕が、今すぐ集合しよう! と。

 持ちかけよう、とすると。

 優介が、僕の声を遮る。


 『ごめん。

  俺も、そう……したいんだけど。


  急用が入って。

  今、すぐには、行けそうに……ないんだ』


 いつもは、冷静な優介だけど。

 たった今、聞こえた声は、震えていた。



 『もちろん、心音さんのことも。

  急用、なんだけど……。



  本当に、申し訳ない』


 様子が変?

 そんな気がする。


 『落ち着き次第、すぐに駆けつけるから!』



 聞きなれた声、のはずなのに。

 今の、優介の声は。


 むりやり、明るくしている声。

 そう思えた。



 『分かった。 皆にも、伝えとく』


 『本当に、すみません』


 意気消沈した、暗くて重い声。


 こんな状況で。

 元気、あるほうが、おかしい。


 けど、優介は。

 僕が、電話する前から。

 元気がないような、気がした。


 優介が、電話に出たときの。

 一言目を聞いて。

 そう、感じた。



 けど、なんで。


 どうして、謝るの?



 急用が、重なったなら。

 仕方ないのに。


 謝るなんて、おかしいよ!


 『そんな……謝らないでよ』



 『ありがとう……。


  でも。

  俺のことは、気にしないで。


  それより、今は。

  心音さんのことを、考えて。


  勇大は、悔いのないように……ね。


  ごめん、切るね』


 今度は、優介が。

 一方的に、電話を切った。


 淋しそうに、話す優介のことが。

 なんだか、儚げで、気になった。


 けど、このまま、気にしすぎると。

 優介に、悪い気がする。


 だから、今は。

 あえて、気にしないように、しないとな。


 そう思いながら。

 次は、分太に電話した。




 『もしもし』


 『もしもし。 分太』


 『おう! どうした』


 優介には、なんとか、伝えられたのに。


 また、嫌な。 

 認めたくない言葉を。

 口にしないといけない、と思うと。


 その言葉を、口にすることさえ、嫌になり。

 躊躇ためらってしまう。


 用事があって、かけたのは、こっちなのに。

 電話で、沈黙なんて、許されないのに。

 それに、電話をかけたばかり、なのに。


 相手は、分太であって。

 優介のように、寄り添っては、くれない。


 もしかしたら、黙っていること、自体を。

 怒られてしまう、かもしれない。


 でも、あの言葉を、また。

 口にしてしまったら。


 認めてしまうことになる、気がして。



 いや、そもそも。

 これは、伝達事項、なんだから。

 僕の意思に、関係なく。


 自分の感情は捨てて。

 ただ、ロボットのように。

 伝えればいいだけ、なのに。



 ダメだ!

 話し始めようと、するだけで。

 泣き出して、しまいそうになる。


 でも今、泣いたら。

 何も知らない分太は、困惑するだろうし。


 それに、なに泣いてんだ! って。

 怒鳴られてしまう、かもしれない。


 どうしよう、どうしよう……。


 早く、駆けつけないと、いけないのに。

 皆にも、早く。

 向かってもらわないと、いけないのに。


 もし、取り返しのつかないこと、にでもなったら。

 完全に、僕のせいだ。


 『あの……。 それが、その……』


 でも、言葉が、出てこない。


 どうしよう。





 『心音さん……か?』


 分太が、察してくれた。


 『えっ。

  なんで、分かったの?』



 『心音さんのことは。

  なんでも、お見通しだ!


  分かって、当然だろ、と。

  言いたいところ、だが。


  さっき、身に覚えのある、痛みを感じてな。

  心音さんに、なにかあったと、すぐに分かった。




  ……心音さんに、なにがあった?』


 『ごめん。

  伝えなきゃとは、思うんだけど。

  その言葉を、口にするのが、怖い』


 気づけば、相手が分太だ。

 ということも忘れて。

 

 ありのままの。

 今の思いを、ぶつけていた。


 『いいか。 

  これは、業務だと思え。


  文に、なってなくてもいい。

  要点だけ、でもいいから。


  とにかく、伝えろ。』


 焦りと不安から。

 慌てる僕に対して。

 分太は、冷静に、話してくれた。


 『お前が、かけてきたんだから。 

  その、責任を取れ!』


 さっきまで、冷静だったのに。

 ウジウジしている僕に。

 イラついたのか。


 分太に、叱咤しったされた。


 そのおかげで。

 少し、目が覚めた、気がするが。



 『あっ! いや。


  それも、無理そうなら。 


  心音さんのお母さんに。

  聞いたことを、そのまま伝えてくれ』


 分太は少し、動揺しているようだ。


 『き……とく、だって。


  連絡、あった。


  だから、今から。

  行こうと、思うんだけど……』


 なんとか、伝えられた。


 『……そうか。 


  分かった。

  おれも、すぐに行く。


  残りのやつには、伝えたか?』


 『いや、まだ。

  優介、にしか、伝えてない』


 『おぉ、そうか。


  なら、おれは。

  あいつと、合流すれば、いいんだな』


 『いや、それが。

  優介、すぐには来れない……みたいで』


 『は? 

  あいつ、なに考えてんだよ!

  正気か?』


 『なんか、急用……がある、みたいで。

  でも、落ち着いたら。

  駆けつけてくれる、みたい』


 怒られそうな思いと。

 涙をこらえていたせいで。 

 全体的に、恐る恐る。

 つっかえながら、言ってしまう。


 『それに、なんだか。

  様子が変で。 大丈夫かな?』



 『気になるのは、分かるが。


  あいつには。

  合流したあとで、訊くとして。



  とにかく今は、心音さんだろ!

  こんな時に、駆けつけないで、どうする』


 『そうだね』


 『とりあえず、お前は。


  今すぐ、洸希を迎えに行け。

  それと、心音さん家の。

  近くの公園に集合、だからな。

  間違えるなよ!


  今はただ、洸希の迎えと。

  集合すること、だけを考えろ!


  道、間違わねぇように。


  それ以外のことは、考えるな。


  洸希を含めた、残りのやつには。

  おれから、連絡しとくから。



  いいな。

  じゃあ、また後でな。


  切るぞ!』



 いろんな気持ちが、交錯して。

 動揺を、隠せない僕を、察してか。


 分太が、一方的に、電話を切った。



 分太は、僕を案じてくれているのに。

 僕は、怒られるかも、なんて。

 考えてしまった。



 分太、ごめん。


 心の中で、そう、言ってから。



 僕は、大急ぎで、準備して。


 家を飛び出した。




 そして、分太に言われた通り。


 今は。


 “洸希を迎えに行くこと”。


 だけを、意識した。


 意識しすぎて。

 この先を、右折する、や。

 この先に、駅が見えてくる、などを。


 1人で、ボソボソと、呟きながら。

 洸希の迎えに、向かった。


 なので、周りを通っている人たち、からしたら。

 “変な人” と思われている、かもしれない、けど。



 今の僕には、人目なんて。

 気にならなかった。






 洸希の家が、近づいてきて。



 「よし!


  次の、角を、右に曲がれば。

  洸希の家が、みえてくる。」

 

 と、あえて、呟いて。


 分太は一体。

 洸希になんと、伝えているんだろうか。


 ふと、そんなことを、考えてしまう。


 まぁ、いい。


 それより今は。

 早く洸希に、連絡できるように。

 携帯電話を、用意しとかないとな……。


 そう思い。

 鞄をあさりながら。

 角を、右に曲がると。


 「勇大くん」 


 前から、声がしたので。

 顔を上げたら。


 目の前に、洸希がいた。


 「あれっ。 こうき。

  なんで?」


 驚く僕に対して。

 洸希は冷静に。


 僕が、たった今。

 通ってきた道の方を、指さす。


 そして、一刻も早く。

 この場から、去ろう。

 と、言わんばかりに。

 目くばせする。


 そっか、お母さんに。

 バレたら、いけないんだったな。


 それに、僕としても。

 一刻も早く。

 心音さんのところに。

 向かいたいので。


 その提案は、もってこい、である。


 僕は、頷いてから。

 振り返って。

 静かに、来た道を戻る。


 すぐ後ろに。

 洸希が、ついて来ている。

 足音で、それを感じながらも。


 洸希のお母さんに、バレたら。

 悪いよな。


 そう思い、僕からの。

 発言は控えた。



 そして、しばらく。

 無言で、前後になったまま。


 駅に向かって、歩き続けて。


 駅が、近づいてから。

 ようやく。

 洸希が、真横に来て。

 口を開く。


 「分太さんから。

  連絡あって。


  勇大くんを、待っていたんです!」


 洸希が、話し出したことが。

 もう、コソコソしなくてもいい。


 お母さんを、警戒しなくていい、

 安全な場所まで来た。

 ということを、意味している。


 そう、感じた。


 「そう……なんだ」


 「家の前まで。

  来てもらう手間が、省けるかな。

  と思って。


  とは言っても、家の近く、ですけど。


  行き違いになったら、悪いな。

  と、思って。

  家の傍は、離れなかったんですけど。


  それに。

  母にもバレずに、すむかな?

  とも、思いまして」


 


 「なるほど。

  じゃあ、早速、行こうか。


  心音さんの、ところへ」


 「はい!」



 ちょうど、駅に着いた、僕らは。

 心音さんの家に、向かうための。

 切符を買う。


 そして、ホームに着いて。

 ベンチに座るなり。

 鞄を、あさりだす、洸希に。


 「ごめん、こうき!

  今日だけは。

  勉強、無しにしようか」


 そう、提案した。


 「えっ。 そうなんですか?」


 「ごめんね。 

  たまには、休んでも、いいかなって。


  それに、聞きたいこと、あるし……」


 今日は、するべきじゃない。

 そう、思った。


 「……分かりました。

  話って、なんですか?」



 「分太からは。

  なんて、聞いてるのかな?

  って、思ってさ」




 「心音さんに、今すぐ。

  会いに行くことに、なって。


  今から、勇大が。

  迎えに行くはず、だから。

  準備して、待っててくれ。


  それで、勇大と合流したら。

  いつも通り、一緒に、集合してくれ。



  でももし、いつまで待っても。

  勇大が、迎えに来なかったら。

  そんときは、おれに、連絡しろ。


  なんとか、してやるから。


  それと、心音さんのことは。

  あんまり、深くは、訊かないでやってくれ。


  洸希もいずれ、分かると、思うし。


  とりあえず今は、勇大を待っとけ。


  と、言ってました」


 「そう、なんだ」


 分太の、意外な一面に。


 驚きと、愛情を感じた。




 それから、僕らは。

 電車に乗ってから。


 心音さん宅から。

 近い駅で、降りて。



 心音さん宅の。

 近くの公園へと。

 急いで向かった。


 

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