居心地いい場所、のはずなのに……
日曜日。
今回の会議には。
洸希が、不参加ということで。
僕は、1人で集う。
今回は、珍しく。
秀寿さんも、不参加なので。
泰樹も、1人で、参加のはずだ。
僕が、公園に着くと。
まだ、誰も来ていなかった。
一番乗り、というのは。 もしかしたら。
この公園に、初めて来た日、以来。
1度もない、かもしれない。
そして、やることも、ないので。 とりあえず。
入り口から見て、右側のベンチに、腰かける。
10分後。
公園の入り口のほうから。
足音が聞こえて。
入り口のほうを見ると。
泰樹がやってきた。
この流れ、懐かしいなぁ……。
今では、すっかり、タメ語で。
呼び捨てで、呼び合う仲に、なれているもんなぁ……。
「早いな。
もう、来てたのか」
「うん。 そう」
なんだか、この前まで。
ケンカしていた、こともあり。
ぎこちない。
「なんか、最近2人、遅いよな」
「そうだね。
さすがに、もう、道に迷うことは、ないだろうけど。
なぜか、僕らのほうが、早いよね」
「あぁ。
まぁ、オレたちより遅い、ってだけで。
遅れてくるわけ、ではないから。
いいんだけどな」
「そうだね」
たわいもない話、かもしれないが。
やっぱり、少し、意識してしまって。
ぎこちなくなるが。
対して、泰樹は。
あんまり、気にしていない、ようだった。
「洸希から、提案、聞いたんだろ」
「うん」
「まぁ、詳しくは、後でいいが。
洸希も、秀寿さんも。
来れなくて、残念だったな」
「用事があったなら、仕方ないよ」
「そうだけど。
1人で来るって。
なんか、変な感じだな。
物足りないっつーか。
味気ないっていうか。
不安になるし。
つまらねぇな!
話し相手が、いないってのは。
秀寿さんはいつも。
オレが、早朝に、迎えに来るのを。
申し訳なさそうに、してるけど。
朝、早いのとか。
そんなの、どうでもよくて。
1人のほうが。
なんか、落ち着かなかったわ!」
「たしかに、僕も。
1人は、物足りない気がして。
いかに、洸希が、かけがえない存在かを。
思い知ったんだよね。
ほら、僕の場合、3回目の会議のときも。
1人で、集合したから」
「本当に、その通りだよな」
泰樹が、しみじみと言った直後に。
「ごめんね。 ……遅くなって」
息を切らした、優介の声が、聞こえた。
その声に反応して。
入り口のほうを見たら。
優介しか、いなくて。
「あれ? 分太は?」
泰樹が、優介に聞く、と同時に。
僕が、立ち上がってから。
公園の時計を見ると。
9時50分だった。
「まだ、下のほうに、いるはず……」
そう言いながら。
優介が、左側を見ていた。
「もしかして。
おいて来たの?」
泰樹が、驚きながら、言う。
「“おれ、この坂が、1番きついんだ。
お前、先に行って。
皆に、来たこと、知らせに行ってくれ!
遅れたと思われたくねぇからな。”
って、分太が言うから。
一気に、駆け上がって来た、けど。
上がるだけで、10分もかからない、だろうにね。
でもさすがに、悪いなと思うから。
また、迎えに行ってくるね。
2人は、ゆっくりして、待ってて」
そう言い残して、優介は、再び。
来た道を、引き返して行った。
「えっ。 今から?」
僕が、驚いて聞いたが。
急いで、降りていった優介には。
届いていないようだった。
それから、ちょうど。
10時になる頃に。
やっと、分太も集合して。
皆が揃った。
分太は、少しきつそうで。
さっきまで、僕が座っていたベンチに。
腰かけていた。
そして、どこかで買ったであろう。
ペットボトルの、お茶を飲んでいた。
そんな、分太を心配してか。
優介が、そばに、寄り添っていた。
それから、分太が落ち着いてから。
僕らは、本題を話すことにした。
「それで、心音さんに。
なにか、してあげること、について。
なんだけど……」
僕が、泰樹を見ながら。
恐る恐る、言うと。
「いいから、話せ」
泰樹が、背中を押してくれたので。
気にせず、切り出す。
「洸希から、提案があったんだけど。
“千羽鶴を折るっていうのは。
どうですかね?”
っていう、提案なんだけど。
皆は、どう思う?」
「勇大は、どう思うの?」
優介が、訊く。
「いい案、だと思うけど。
実際には、厳しいかな」
「珍しいな。
お前が、否定するなんて。
それも、1番、慕われている、洸希の案だし。
それに、心音さんのために、って。
言い出したのは、お前なのにな」
たしかに、分太の言う通りだ、けど。
「そうだけど。
千羽鶴を、折ることで。
仕事が、疎かになったら。
生徒や、提案した洸希にも。
悪い気がして」
「なんだよ、結局。
お前も、内容を選ぶのか?」
泰樹が、はっきりと言う。
「そうじゃないけど。
やり遂げられないのに。
賛成することは。
洸希に、嘘をつくこと、になるし。
仕事との両立が、出来なくて。
途中で、投げ出すのも、嫌だし。
洸希も僕も。
後悔すると思うんだよ。
提案しなければ、よかった。
賛成しなければ、よかった、って。
だから、そうならない、ためにも。
実現可能な、内容じゃないと。
賛成、出来ないよ。」
「質の高い内容を、求めるってことか……。
やっぱり、それは。
むりやり、無いことを、絞りだしている。
ってことに、なるんじゃないのか」
泰樹に、そう言われて。
せっかく、仲直りしたのに。
また、ケンカしそうになるが。
いや、これは、ケンカじゃない。
意見の、ぶつけ合いだ!
そう、自分に言い聞かせて。
さらに、話を続ける。
「分からないよ。
もう、どうしていいのか。
なにか、してあげたいのに。
恩返し、したいのに。
それほど、恩があるのに。
心音さんが、僕らに、してくれたことが。
大きすぎて。
なにをしても。
たとえ、僕らが、納得いくことを、したとしても。
足りない。 恩返し、しきれないんだよ。
それなら、僕は、どうすればいいの?
どうしたら、恩返しできるの? って。
ずっと、考えてるけど。
答えが、出ないんだよ!」
なにか、しないと、いけないのに。
どうにも、ならない思いが。
一気に、溢れ出し。
つい、泰樹にぶつけてしまう。
「そ、それは……」
泰樹は、言葉に詰まっていた。
「もう、どうしたらいいか、分からないよ……」
気が沈む、と同時に。
徐々に、目線が下がる。
頭が、いっぱいいっぱい、になって。
爆発しそうになる。
だから、そんな頭を、冷やすために。
地面を見たまま。
トボトボと、歩いて。
入り口から、1番、遠い。
ブランコまで、移動して。
無言で座る。
それから、両手で顔を覆い、俯く。
どうしよう。
素直な想いを、ぶつけた、はいいけど。
あんなこと、言われても。
泰樹も困るよね……。
謝ろう!
じゃないと、泰樹に、申し訳ない。
どれくらい、時間が経ったかは、分からないが。
およそ30分ぐらい、考えてから。
勢いよく、ブランコから、立ち上がり。
泰樹のもとに、駆けて行った。
「泰樹ごめん!
あんなこと言われて。
ビックリした、でしょ。
あんなこと、言われたら、困るよね……」
「なに、言ってんだよ!
それが、お前の本心だろ。
だったら、謝ったりなんか、すんじゃねぇ。
お前は、本音をぶつけただけ、なんだから」
「泰樹、ありがとう」
僕が、お礼を言った直後に。
泰樹は、話を続けた。
「それより、さっき。
皆とも、話したが。
残念ながら。
この中で、お前の悩みを、解決できそうなヤツは。
居ないみたいだぞ」
「勇大、ごめんね。
やっぱり、なにをしても。
迷惑に、なってしまいそうで……」
「結局。
泰樹の言う通り、なのかもしれねぇな!」
優介が、申し訳なさそうに、言った直後に。
分太も、便乗して言う。
「そんなぁ……。 2人まで」
僕が、ブランコで、考え込んでいる間。
僕の出した、議題について。
話し合ってくれていたのは、嬉しいが。
一気に、裏切られたような、気持ちになった。
「そこで、オレたちの中で。
結論づけたんだが。
答えは、出ないが。
話し合うだけで。
恩返しが、少しでも。
出来るのかもしれない、って。
このことについて。
話し合うことに。
意味があるんじゃないか、と思うって。
優介が言ってから。
案を、出し続けたり。
案を、出さない、にしても。
話し合いだけは、やめずに。
続けていこう! ってことになったんだ。
すなわち。
この悩みは、オレたちの。
永遠のテーマ、ってことで。
未来永劫、未解決になりそうだな!」
「皆……いつの間に」
僕が、呟くと。
プルルルル……。
携帯電話が鳴った。
誰の、だろうか?
僕を含めて、一斉に、確認したが。
よく考えたら。
僕は、電車を降りてから。
マナーモードを、解除していなかったので。
僕のはずが、なかった。
そして、キョロキョロと、見回すと。
優介も、分太も。
自分の、ではなかった、らしく。
携帯電話を、しまっていた、けど。
おそらく、該当者であろう、泰樹は。
しばらく、画面を見つめたまま、だったが。
携帯電話を、鳴らしたまま。
ズボンのポケットに、しまっていた。
「出なくて、いいの?」
僕が訊くと。
「あぁ。 間違いだ!」
泰樹が、適当にあしらう。
「そうなんだ」
プルルルル……。
だが、一旦、切れたはずの。
泰樹の携帯電話が。
切れた直後に。
再度、鳴り出す。
泰樹は、一応。
携帯電話を、取り出して。
確認はするが。
鳴らしたまま。
さっきと同じように。
ポケットに、しまっていた。
そして、そのことを。
3回、繰り返していた。
「大丈夫? もしかして、急用なんじゃない?
僕らに、気にせず。 出ていいんだよ」
僕が言うと。
「いや。 大した事、ねぇから」
泰樹が、低めの声で、真顔で言う。
それは、いつもの泰樹とは、違って。
冷たい感じがして。 少し、怖くなり。
さっきの、自分の発言を、撤回したくなった。
「勇大。 泰樹の、プライベートだから。
それくらいに。 ね!」
優介は、微笑みながら、言ってくれたが。
逆に、その笑みに、恐怖を感じるほど。
優介の、この言葉には。
説得力があり。
優介の一言で。
もうこれ以上、深く訊いてはいけない。
ということを、思い知る。
「そうだよね。 ごめんなさい」
“ごめん”という言葉では、足りないというか。
さらに、怒られてしまいそうだ、と思ってしまうほど。
今の泰樹には、かなりの恐怖を、感じていた。
皆と、会っているときに。
こんな気持ちになる、なんて、思わなかった。
そして、そんな僕らの、異様な空気を察して。
分太は、なにも言わずに。
固唾をのんで、見守っているよう、だった。
「いいから、気にすんな!
とはいえ。
うるさい、だろうから。
電源、切っとくわ!」
僕が、恐怖心でいっぱいに、なっていると。
泰樹が、さらっと言う。
そして、その言葉を機に。
泰樹は、いつもの泰樹に、戻っていた。
それは、まるで。
さっきの、あの様子は。
幻だったのではないか、と思ってしまうほどに。
「なんの話、してたっけ?」
泰樹が、改めて訊く。
「話し合いは、続けていこうね。 ってこと。
なんだけど……」
優介が返答する。
「あぁ。 そうだったな」
泰樹は、納得してから。
さらに話を続ける。
「勇大! そういうこと、だから。
引き続き、よろしくな!」
さっきのことは、嘘だった。
本気で、そう、思ってしまうほど。
すっかり、いつもの泰樹に、戻っていて。
今の、泰樹の笑顔は、眩しく思えた。
「こちらこそ」
さっきまで、恐怖心を抱き。
どうなるのか、不安だったけど。
泰樹の一言と、表情を見て。
一安心した。
それに、議題のことも。
なんとか、皆のおかげで。
話がまとまって、よかった。




