優介の過去
「それで、結局。
なんだったんだよ!」
分太が、気になっていたことを、訊く。
僕も、最も訊きたかったこと、だったけど。
これを訊くことで、辛さを。
思い出させてしまう。
ふと、そのことに気づく。
「優介。
さっき、頼ってと。
言っておきながらで、悪いんだけど。
話すことで。
辛さを、思い出してしまうなら。
やっぱり、言わなくても、いいのかも……」
僕が、申し訳なくなり。
少し、控えめに言うと。
「なんだよ。
勇大は、内容によっては。
受け入れきれねぇって言うのか。
いや。 怖気づいたんだな。
そうだろ!」
分太に、そう言われて。
一気に、頭に、血が上る。
「はっ? 違うよ!
僕はただ、優介を。
心配しただけで!
怖気づいたわけでは、ないから!」
負けじと、反発する。
「さぁ、どうだろうな!」
「本当に、そうだから!
変な勘違い、しないでよね」
そしてまた、ケンカしてしまう。
「2人とも。
今から、ちゃんと、話すから。
ケンカは、やめて。
俺が、原因なんだろうけど。
2人とも、気にしてくれている。
ってことだよね。
話すこと自体は。 辛くても。
平気だから、大丈夫だよ。
でも、気にしてくれて、ありがとうね。 勇大」
優介が、ケンカを止めてくれた。
「無理は、しないでね」
僕が、優介に言うと。
「うん。 ありがとう」
口では、そう言っているけど。
きっと、優介は。
事実を話すことで。
無理をしてしまう。
だって、さっき。
辛いって、言っていたから。
けど、このまま。
隠すことで、辛さを抱え込んで、ほしくもない。
気になるから。 話してほしい。
でも、話させることで。
辛い思いも、してほしくない。
かといって。
話さないことで、1人で。
辛さを、抱え込んで、ほしくもない。 という。
なんとも言えない、気持ちになっていた。
でも、優介にとって。
話しても、話さなくても。
辛いんだとしたら。
話すことで、少しでも。
辛さが、軽減するってことが。
あるかもしれないし。
それなら。
話したほうが、いいのかもしれない。
それに。
優介も、話してくれるみたいだから。
僕も、ちゃんと聞こう!
「さっきは。
昔のこと、思い出してしまったんだ」
「昔のこと?」
「実は俺、小学生の時に。
父を事故で亡くしてるんだ。
それで、心音さんの姿を見て。
当時、事故の知らせを聞いて。
病院に駆けつけたときの光景が。
フラッシュバックしたんだと思う。
そのときの、父は。
もう既に、亡くなっていて。
父の顔は。
事故の衝撃で。
原形をとどめていなかったから。
その事実を隠すために。
母や看護師さんたちが。
なにかと理由をつけて。
必死に俺を、父から遠ざけてた。
子供には、刺激が強すぎる。
そういう、配慮があってのこと。
だけど、あの頃の俺には。
その優しさが、分からなかった。
なんで、傍に行けないの?
僕も父さんに、会いたいのに。
会って話したいのにって。
あのときはまだ。
父が死んだ事実を、理解できていなかった。
だから隙をみて。
父のもとに駆けて行き、悲鳴を上げてた。
それから、大人たちが。
すぐに引き離して、慰めてくれていた。
でも、父の面影がなかった、からこそ。
ベッドの上に、父はいるのに。
あの人は、父さんじゃない!
って言って。
病院内を、あちこち移動して。
父を探していた。
それから、家に帰ってからも。
葬式が終わってからも。
父の死を、信じられなくて。
記憶の中の、父の姿を。
ずっと、探し続けていて。
なかなか、父の死を。
受け入れられなかったから。
そのせいで、母には。
ただでさえ、辛いのに。
さらに、心労をかけてしまって。
申し訳ないことを、してしまったな。
と思っているんだけど。
それで、今回も。
もし、あのまま、心音さんの部屋にいたら。
父の事故後の顔を、思い出して。
また、悲鳴を上げていた、かもしれない。
だから分太。
すぐに、連れ出してくれて、ありがとう」
優介が、悲しそうに、寂しそうに。 ゆっくりと。
自分の過去について、話してくれたけど。
僕は少し、疑問に思うことがあった。
「まさか、お前に。
そんな過去があったなんてな。
それに、あんな顔、見たら。
連れ出さずには、いられねぇだろ」
分太は、ふつうに、会話しているけど。
気にならないのかな?
「そうだよね。
父の事故のことも、あの、悲惨な光景も。
もうとっくに、乗り越えられている。
と思っていたんだけど。
まさか、トラウマになっているなんて。
思わなかった」
ダメだ。
ちゃんと、聞こうと思ったのに。
あのことが、気になって。
まともに、話が、入ってこない。
けど、優介には。
悲惨な過去があるのだけは、分かった。
「いいんじゃねぇのか。
乗り越えてなくても。
だって、それほど。
お父さんのことが、大切で。
忘れてねぇ、ってことだろ」
やっぱり、分太は。
不思議じゃないのかな。
違和感あるのは、僕だけ、なのかな?
分太の言葉を聞いて。
優介は、一瞬だけ、驚いた顔をして。
その直後に、微笑んでから。
「ありがとう、分太。
おかげで、救われたよ」
やさしく、言った。
「おれはただ。
思ったこと、言っただけだ」
よほど、嬉しかったのか。
少し、分太の顔が、赤くなっている。 ような気がする。
「でも、心音さんには失礼だよね。
懸命に生きているのに。
既に死んでいた人と、重ねられる、なんてさ。
……こんなことなら。
俺は、やっぱり、行かないほうが。
よかったのかもしれないね」
「そんなことねぇよ。
今回のことは、知らなかったとはいえ。
誘ったおれの責任だ。 お前は悪くねぇよ」
「分太……」
「でもなぁ。
なんで、もっと早くに、言ってくれなかったんだよ!
知ってたら、お前に。
辛い過去を、思い出させずに、すんだのに」
「……心配かけたくなくて」
「遅かれ早かれ、心配するんだから。
早めに言えよな!
そしたら、なにかしら、阻止、できんだろ。
今回は、2人で行くことだって、できただろうしよ!」
「分太、ありがとね」
「おう! いいってことよ」
分太が、得意げに言った。
けど、僕はやはり、あのことが。
気になって、仕方なかった。




