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心音さん宅に伺う日

 



 そして迎えた。

 心音さん宅へ伺う日。




 僕は昨夜から、かなり緊張していた。


 そして、その緊張は時が経つにつれ。

 増していった。




 ついにこの日がやって来た。




 駅には、9時30分に着いた。


 そして、駅の中を、見渡すが。

 2人の姿がなく。

 まだ、来ていないようだ。


 皆との、公園での、集合のときは。

 僕より、先に来ていたのに。


 慣れない土地で。

 道に迷っているのかな?


 心配にはなるが。

 まだ、集合時間ではないので。

 10時まで、とりあえず。

 待つことにした。


 9時45分になり。



 「ごめんね。 お待たせ」


 「待たせて、わりぃな!」


 背後から、声がしたので。

 振り向くと。


 優介と分太が、小走りで。

 やってきた。


 「そんなに、待ってないから。 大丈夫。

  それより、道に迷わなかった?」


 「道には、迷わなかったんだけど。

  分太が、優柔不断で。

  なかなか、決まらなくてね」


 そう言いながら、優介が。

 手に持っていた、紙袋を。

 少しだけ広げて、僕に見せている。


 僕が、その中を、覗き込むと。

 真上からなので。 はっきりとは、見えなかったが。


 どうやら、花束のようだった。

 そして、小さな、クマのぬいぐるみ?

 のようなものも、ついていた。


 「花束?」


 僕が、訊くと。


 「そう!

  おれたちから、したら。

  

  見舞いだからな。

  見舞い品には、こだわらねぇと」


 分太が、鼻高々にいう。


 「それにしても。

  選びすぎでしょ。


  集合時間、間に合わなかったら。

  どうするつもりだったの?」


 そして、優介に叱られている。


 「だって、とびきり、いいのを。

  プレゼントしたい、と思うのは。

  当然だろ!」


 でも、分太も、譲れないみたいだ。


 「今回は、勇大の謝罪が。

  メインでしょ。


  でもまぁ。 

  見舞い品は、必要だから。

  いいけど」


 優介は、分太を叱った後。

 すぐに折れて、納得していた。


 「ごめんね。 待たせて」


 そして、僕に改めて、謝った。


 「いやいや。

  そもそも、そんなに、待ってないし。

 

  道に迷ってないか。

  心配してただけ、だから」


 僕が言うと。


 「ありがとね。

  でもそこは。

  気にしなくて、大丈夫だから」


 微笑みながら、優介が言う。


 「パソコンの、プロだからな!」


 そして、分太が言うと。


 「分太。 余計なこと、言わなくていいから。

  じゃあ、行こうか!」


 優介が、分太に、言ってから。

 出発を切り出す。


 「うん!」


 そして、僕らは。

 駅の出口のほうに、歩いて行き。

 心音さんの家のほうに。 歩を進める。


 「それはそうと、お前。

  なんで、スーツなんだ?」


 歩きながら。 分太が、僕に訊く。


 「分太。 それは、言わなくても、いいんじゃないかな」


 優介が、少し焦りながら、言う。


 「なんでだよ。 気になるだろ」


 「訊かなくても、分かるでしょ」


 「分からねぇから。 訊いてんだけど。


  えっ。 なに、お前は、気づいてんの?

  じゃあ、なんで指摘しねぇの?」


 「分かるでしょ。 聞かなくても。

  さっき、勇大のことが、メインって言ったでしょ」


 「あっ。 そっか!

  お前。 真面目だなぁ」


 しばらく、2人のやりとりを。

 聞いていたが。


 「えっ。 なにか、変かな?」


 ふと、疑問に思った。


 「いや! なんにも、変じゃないから。

  とにかく、うまくいくといいね」


 優介が、焦って。

 かなり強引に。 その場を、まとめる。 


 「あっ。 うん。 そうだね」


 そして僕も、とりあえず。

 返事をしたが。


 結局、2人のやりとりの、意味は、分からず。

 でも、重要なことではない、気がするので。

 あまり、気には留めなかったので。


 訊きかえさなかった。


 そして、そんなことを、話していたら。


 右側に公園が、見えてきた。


 「ほら見て! あそこの公園」


 僕が、その公園を、指さしながら。

 2人に教えた。


 「あの公園が、電話で言った、公園だから。

  じゃあ、そこで、待っててね。 

  心音さんの家は。 もう少し、先だから」


 僕が言うと。


 「待て。 一旦、中に入って。

  内容の確認しようぜ!

  ここだと、落ち着かねぇからさ」


 分太が、提案する。


 「分かった」


 「じゃあ、そうしよう!」


 そして僕らは、分太が言うように。

 一旦、公園の中に入ることにした。


 そして、中に入り。


 前回、来た時は。


 心音さんのお母さんを。

 怒らせてしまった後で。


 1人で、どうしよう、と。

 考え込んでいたけど。


 それから、同じ体験をした、皆と出会い。

 そのうちの、2人と。 

 また、この公園に、戻って来れて。


 あのときは、先が見えずに。

 過ちを、犯してしまったことを。

 ひたすら、後悔していたけど。


 今では、同行してくれる、仲間がいて。

 応援もしてくれて。

 すごく、心強くて。 ありがたくて。


 感慨深いなぁ……。

 本当に、皆と出会えて、よかったなぁ、と。


 僕が、公園を見渡しながら。

 しみじみ考えていると。


 「おい! 勇大、聞いてんのか? 

  内容の確認中に、ボーとしてんじゃねぇよ。


  この前、決めた通り、ちゃんと電話しろよ!

  じゃないと、おれ達、一生、合流できねぇんだからな」


 分太に、怒られる。


 「一生ってことはないと思うけど……」


 そして、優介がつっこむ。


 どうやら、僕がしみじみしている間に。

 2人は、話し合った内容の確認を。

 始めていたようだ。


 「分かってるって。 

  ちゃんと、電話するから、安心して」


 僕が、返事すると。


 「勇大、電話のことは、気にしなくていいから」


 優介が、分太と真逆のことを言う。


 「優介、なに言ってんだよ!

  電話なかったら。

  おれ達、合流できねぇだろうが」


 「電話することが、おもじゃないでしょ。

  もし、いつまでも、電話がなければ。

  こっちから、電話すればいいでしょ」


 優介が、分太に叱る。


 「勇大。

  余計なことは考えずに。

  素直に謝ればいいからね。


  それと、俺たちと、心音さんの関係とか。

  正直に、本当のこと。 全部。

  話していいから。


  それでもし。

  収拾が、つかなくなったり、したら。

  電話してきて、いいからね」


 嘘をつくこと自体、よくないこと。

 だけど今回は、やむを得ない。


 でもその、やむを得ない嘘、でさえ。

 僕には抵抗がある。


 前回は、“無実の証明”という。

 目的があったから。


 抵抗はあったものの。

 嘘をつけた。


 けど、今回は。

 僕は、嘘をついてはいけないのに。

 嘘をついている。 


 悪いことをしているんだ!

 という、その思いが、邪魔をして。


 嘘をつけない、かもしれないし。

 もし、嘘をつけた、としても。


 泰樹ほど、リアルな、嘘をつける。

 自信がないし。


 だから、つじつまが、合わなくなることも。

 ありそうで。


 心音さんと僕の関係を、詳しく訊かれたときに。

 どう返答していいのか。 分からなかったので。


 そもそも、嘘をつかなくていい。

 という優介の言葉は、ありがたかったのだ。



 「正直に話して、信用してくれなかったら。

  どうするんだよ!

  それこそ、不審者だぞ。


  もし、勇大が、不審者扱いされて。

  追い返されたりしたら。


  おれたちの、出る幕がなくなって。


  見舞いどころじゃ、なくなるだろ。

  そうなったら、どうするんだよ!」


 分太が、焦りながら言う。


 「勇大が、謝罪さえ。

  出来ればいいでしょ。


  もともと、俺たちは。

  勇大の、サポートがメインなんだから」


 そんな分太を。

 優介が、宥めようとしたが。


 「納得、できねぇ」


 分太の怒りは、治まっていないようだ。


 「あのさ! 今さら、かもしれないんだけど。

  確認してもいいかな?」


 そこで、僕が、訊いてみた。


 「どうしたの?」


 やさしく、優介が返事する。


 「先に僕だけ、行くってことは。

  僕1人で、謝罪するってことで、いいんだよね」


 僕が、確認すると。


 「やっぱり、不安?」


 優介が言う。


 「でも、もともと、そのつもりだったし。

  本来、そうあるべき、なんだろうから。


  確認することでもない、と思うんだけど。

  やっぱり、自身、なくて。

  緊張してしまって。


  結局、あの日から、僕自身は。

  なにも変わっていない気がして。


  でも、せっかく、皆が。

  背中を押してくれてるんだから。


  ちゃんと、謝罪しないと! だよね」


 僕が。

 今の素直な、胸の内を。

 打ち明けると。


 「やっぱり、まだ不安だよね。

  でも、ちゃんと謝罪しないと、と思うなら。

  1回は、自力で、謝罪してみて。


  どうしても、上手うまくいきそうに、なかったり。

  もしまた、怒られたりしたら。

  すぐに、電話してきて、いいから。


  俺たちが、なんとかするから。

  そのために、同行している、ようなもんだから。


  まぁ、分太は。

  そうでもない、みたいだけど。


  とにかく、なにかあったら。

  1人で、考え込まずに。

  すぐに、電話してきて、いいから。


  肩の力、抜いて、頑張ってね!」


 優介が、暖かい言葉を、かけてくれた。


 「ありがとう。 行ってきます!」




 そして、僕は、振り向いて。

 公園の出入り口のほうに、歩いて行った。


 心音さんのお母さんに、正直に話すなんて。

 この前の、電話では、決めていなかった。


 けど、僕の性格を理解したうえで。

 僕を安心させるために。


 優介が、咄嗟に考えて。

 言ってくれたことだ。


 「勇大が、不審者扱いされて。

  おれたちが、見舞いに行けなかったら。

  どうするんだよ!


  せっかく、見舞い品も、買ったのに。

  台無しじゃねぇーか!」


 去り行く背後で。

 分太の怒鳴り声が、それを証明していた。


 けど、優介の返答は、聞こえなかった。


 それはきっと。

 優介が、分太ほど怒鳴ってなく。

 普通の声量で、冷静に返答していた、からだろう。


 それと、僕が。

 2人から、遠ざかっていたから、かもしれない。



 そして僕が、分太の声に驚いて、振り向くと。


 優介が、‟気にせず、行っていい”。

 と言わんばかりに。


 僕のほうを見て。 苦笑いをしながら。

 手を振っていた。



 そんな優介に。

 僕は、ゆっくり、頷いて。


 ありがとう、と

 心の中で、感謝して。



 心音さん宅に、向かった。



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