泰樹の作戦
あれから、15分が経ったらしく。
泰樹が、戻って来た。
「どうしたんだ、急に。
15分もなにしてたんだ」
分太が訊くと。
「オレたちはもうすぐ。
事情聴取されることに、なるだろうが。
事実を説明しただけでは。
信用してもらえないからな」
やはり、僕らは容疑者と、疑われているんだと。
泰樹の、この一言で、痛感する。
そして泰樹は、確実に。
警察官を信用していないとも、実感する。
「それで。
その時の、オレたちの説明で、不一致が生じたら。
一気に、疑いの目をかけられてしまう。
だからこそ。 そうならないために。
皆が、同じ内容を説明する必要がある」
泰樹が、説明した後に。
「だからさっき。
無実を証明する、完璧なシナリオを考えてきた」
左側だけの、口角を上げて、ニヤけた。
それは、なにかを、企んでいるようにも見える。
「泰樹。
せっかくで、悪いんだけど。
このまま、僕らが帰ったら。
事情聴取されずに、すむんじゃないかな?
と思うんだけど。
でも逆に、待つことで。
あえて、事情聴取されるのを、待っていて。
呼び寄せてしまっている、気がして。」
僕が、気になったことを、訊くと。
「ただ、帰っただけ。 と思われれば、いいが。
おそらく、逃げた、と思われる方が強いと思うぞ。
でももし、どれだけ待っても。
なにも起こらなければ。
容疑者扱いされてないと、解釈して。
皆で、帰ればいいだけだ。
でも、準備していて、損はないだろ?」
「そうだね」
たしかに。 泰樹の言う通りだ。
「とにかく。
忘れる前に、説明させてくれ。
皆は、余計なことは、考えずに。
ただ、聞いたことを。
覚えるだけでいいから。
いいか。 時間の都合で。
1回しか、言わないのと。 早口で言うから。
それと、警察に聞かれないために。
小声で言うから。
今はただ。 聞いた設定を、覚えることだけに。
集中しろよ!」
「分かった」
事情聴取されることに、なるかもしれない。
という、泰樹の言葉に、驚いて。
すんなり、そのあとの説明が、理解できなかったけど。
今は、とにかく。
泰樹の考えた、設定を真剣に聴くこと、だけに。
専念することにした。
「じゃあ、いくぞ」
そして泰樹は、架空の設定の話を始めた。
「まず、オレたちの、出会いについてだが。
この中で、1番、年齢が離れているのが。 秀寿さんで。
優介や、オレたちが、なかなか出会う機会、なさそうなのに。
出会っていることに。 怪しまれそうだから。
ここは、あえて。 秀寿さんに。
視点を置くが。
秀寿さんには。
居酒屋で出会った、飲み仲間がいて。
秀寿さんは、その、飲み仲間たちに、恩があり。
この、恩というのは、秀寿さんに自分で。
考えてほしいんだが。
その、飲み仲間の息子たちが。
成人したと知り。
息子たちも交えて、何回も飲むようになっていたが。
自分以外の、飲み仲間が。
交通事故に遭い、亡くなった。
それで、息子たちと。 酒を飲みながら。
死んだ仲間たちの、話をするうちに。 意気投合し。
その後、飲み仲間たちの、孫たちとも。
交流するようになって。
何年にも渡り、酒を飲み続けたことで。
ドクターストップが、かかったが。
酒の席じゃなくても。
孫たちに、会いたくなり。
息子たちとは、死んだ仲間のことを、話したりして。
自分だけ、生き残ったことを、悔んだり。
そのことなどを、思い出して。 辛くなるが。
孫たちとは、そのことについて。
あまり、話さないので。
辛さが、軽減された。
だから、酒は飲まなくても。
頻繁に会うようになっていた。
けど、唯一。
祖父の顔を知っている、孫の1人が。
ふとしたことから。 事故のことを、思い出し。
パニックになり、倒れた。
ということにしよう!」
瞬時に、この設定を、思いついた泰樹は。
天才なのかもしれない! と、驚いたが。
その、驚きも、ほどほどにして。
泰樹から、説明された。
自分の設定を、頭に叩き込む。
たしか……。
秀寿さんの、飲み仲間の、孫の1人だよね。
まるで、役者になった気分である。
「それと、優介以外は。
自分が生まれる前に。
祖父を亡くしていて。 祖父にあったことないから。
そのつもりで。
それから、ふとしたことから。
事故のことを、思い出し。
パニックになった、というところの。
ふとしたこと、とは。
秀寿さんが。
階段から、足を踏み外しそうに。
なったことが、あったので。
もし、踏み外していたら。
大事になるところだった。
と言っただけだが。
優介にとっては。
祖父の死が、大事だったので。
それが、きっかけで、パニックを起こした。
ということ、だから。 よろしく。
あとの、差し支えない、設定は。
その都度、対処してくれ。
それから、自分の個人情報は、もちろん。
変えずに、そのままで」
僕が、設定を丸暗記していると。
泰樹が、補足した。
「了解!」
分太が小声で、返事する。
泰樹が来るまで。 泰樹の予想に、反対していたのに。
今では、設定を真剣に、覚えようとしている。
やはり、反対したのは。 本心ではないのだろうか?
「じゃあまた必ず。 いつもの公園で会おうね!」
それから、僕も、皆に小声で言うと。
「あぁ。 優介も、一緒にな!」
泰樹が、相変わらずの小声で。 返事してくれた。
そして、一斉に、頷いてから。
それぞれが、何事もなかったように。
同じ空間だが。
少しだけ離れたところに、座り直す。
けど、皆、心の中では、さっきの設定を。
反復しているんだろうな。 と思うと。
笑いそうになるけど。
僕も、同じく。 平静を装い。
設定を反復しながら。
まっすぐ、前を向いて、座り直す。
そして、ときどき、腕時計を見たりもして。
僕らは、いまか、いまかと。
ハラハラ、ドキドキしながら。
“そのとき” がくるのを、待っていた。
けど、こないでほしい! とも、思っていた。
僕らが、一斉に黙り込み。
心の中で、設定を反復しだしてから。
5分後。
「すいません。 皆さん。
少し、お話いいですか?」
目の前に、警察官が2人、立っていた。
ついに、“そのとき” がやってきてしまった。




