お見舞いに行くか行かないか
言いづらいのか。
泰樹さんが提案したことに対して。
だれも、なにも言わなかった。
そのせいで、気まずい雰囲気になる。
また、さっきと同じような。
沈黙が、続いてしまうんだろうか。
これじゃあ、また、同じことの繰り返しになってしまう。
それに、せっかく提案してくれた。
泰樹さんにも、申し訳ない。
もしこのまま、沈黙が続いたら。
泰樹さんは、自分のせいで。
また、いやな空気にさせてしまったって。
きっと、自分を責めるよね。
そんなこと、させないためにも。
なにか、返事しないと。
でも何と返事をしたら、いいんだろう?
僕が、考えていると。
「そうだよね。
敬語もだけど、自分が呼びやすいように。
呼ぶのが、1番だよね。
でも、自分が呼びやすくても。
相手は、嫌がってる場合もあるから。
そこは、注意が必要だよね」
優介さんが、話を切り出してくれた。
そして、話を締めくくってくれた。
僕が、本題に入っていいか。
気になり、優介さんのほうを見ると。
目が合ったことに、一瞬、驚いてから。
直後に、頷いてくれた。
それはまるで、もう、話し終えたから。
本題に、入っていいよと。
いってくれている、ようだった。
そしてそれが、背中を押してくれたんだと。
信じて。 僕は、本題に入ることにした。
「では、今度こそ、本題に入ります。
心音さんのお見舞いと。
お母さんへの謝罪に、行くことについて。
なんですけど。
前回、皆さんが。
1度は、心音さんと面会したい、だろうから。
交代で、行くことにしよう、ということになった。
と思うんですけど……」
そういった直後に。
僕が、優介さんのほうを見ると。
優介さんは、なぜか、下を向いていて。
ただ一点だけを、見つめていた。
でも、僕が話しだせば。
顔を上げてくれるだろう。
そう思い、話をつづけた。
「すいません。
実は、優介さんが。
前回、電話している最中に。
このこと、話してしまいまして……」
僕が、話しだしても。
優介さんは、顔を上げてくれなかった。
「ゆうすけ……さん?」
僕が、呼びかけても。
無反応だった。
「おい。 どうした?」
優介さんの、左側にいた、分太さんが。
優介さんの、左肩を叩いて、言う。
「えっ。 あっ……。 はい?」
ようやく、顔をあげた、優介さんが。
状況を理解できずに。
困惑している。
「前回、優介さんが。
電話している最中に。
このことについて、話したってこと。
だったんですけど……」
「すいません。
このことって。 なんでしたっけ?」
少し焦りながら、優介さんが言う。
「心音さんのお見舞いに。
交代で行く。 ってことなんですけど」
「あー。 そのことですね。
分かりました。 大丈夫ですよ」
なんだか、様子がおかしい。
気になるけど。
訊かないでおこう。
「どうかしました?」
僕が、訊くのを控えたのに。
分太さんが、あっさり訊く。
「いや。 なんでもないです。
中断させて、すいません。
俺のことは、気にせず。
どうぞ、話を続けてください」
むりやり、微笑みながら。
優介さんは、そう言っているけど。
下を向いていた時から。
表情が、曇っているので。
かなり、気になるけど。 これ以上。
詮索するのも、よくない気がするし。
今は、話を続けよう。
「今度、僕が謝罪に行くときに。
分太さんも、一緒に。
行ってくれることになったんです」
「それで、おれから、提案があるんですけど。
その時に、優介さんも、同行してくれませんか?」
急に分太さんが言う。
「えっ。 あぁ……。 はい。
大丈夫……ですよ」
優介さんは、そう言っているけど。
“大丈夫”という言葉とは、裏腹に。
全然、大丈夫そうではなかった。
そして、相変わらず。
表情は、曇ったままだ。
やっぱり、気になるなぁ。
けど、訊きづらいよなぁ。
と僕が、ためらっていると。
「嫌なら。 はっきり、そう言ってください!」
分太さんの怒鳴り声が、聞こえた。
僕が、急なことに、驚いて。
固まっていると。
「嫌では、ないです。
誤解させるような、曖昧な返事をしてしまい。
申し訳ありません。
力になれるかは、分かりませんが。
ぜひ、同行させてください」
今までの、応対が嘘のように。
優介さんが、はっきりと言う。
確かに、優介さんの反応には。
僕も、ひっかかったけど。
怒鳴るまでしなくていいのに。
僕は少し、分太さんの言い方に。
不満を感じた。
「では、よろしくお願いします」
「はい」
「じゃあ、謝罪には。
3人で行くとして。
お母さんに、確認もしますけど。
よければ、そのあとに。
泰樹さんたちも。
面会に行きますよね」
「そのこと、なんですけど。
オレが、交代で行こうって。
言いだしたのに、悪いんですけど。
やっぱり、オレは、遠慮します」
泰樹さんが、申し訳なさそうに言う。
「どうして?」
僕が訊く。
「オレが行くと。
皆に、迷惑かけると、思うので」
目を逸らしながら。
悲しそうに、泰樹さんが言う。
「はっきり言わないと。
分からないぞ!」
ここでも、強めに、分太さんが。
つっこむ。
分太さんは、あんまり、人の気持ちを。
察することができない人。 なのだろうか?
やはり、分太さんの言い方には。
納得できないな。
「皆さん、オレの第一印象。
よくなかったでしょ。
茶髪で、耳にピアスの穴が開いてるから。
チャラいやつだなって。 思ったでしょ。
それと同じ印象を。
心音さんのお母さんに、持たれると。
せっかく、皆が。
次は、怒らせないようにとか。
迷惑にならないようにとか。
細心の注意を払ってんのに。
オレの悪い印象のせいで。
皆まで。 まともな人ではない。
そう思われるかもしれない。
それに、こんな奴と、知り合いだったのかって。
心音さんにも、悪影響、与えるかもしれないし。
オレが行くことによって。
皆の、配慮を。
台無しに、したくないんです」
今にも、泣き出しそうな、震える声で。
それでも、悔しさをにじませながら。
泰樹さんは、必死に、訴えた。
「見た目は、関係ないでしょ」
優介さんが、真剣な眼差しで言う。
「あるんだよ。
今まで、この変えられない、見た目のせいで。
どれだけ、罪を擦り付けられてきたことか。
それが、オレの容姿が、もたらす悪い影響なんだよ」
ふいに、泰樹さんの過去を知って。
一同が固まってしまう。
「これで、分かっただろ。
オレは、行かないほうがいいって」
返答に、困っていると。
「あの! 変えられない見た目って。
もしかして、髪色とかですか?」
洸希君が、早口で言いながら。 文字通り。
泰樹さんに、勢いよく、飛びかかる。
「あぁ。 そうだけど」
対して、泰樹さんは。
驚きながら、少し、後ずさる。
「じゃあ、茶髪は、地毛ってことですか?」
洸希君は、かなり興奮しているようだ。
「まぁ。 そうだけど……」
泰樹さんは、驚きながらも。
ちゃんと、返事はしている。
「えっ。 じゃあ、両親のうち、どちらかが。
外国の方とかですか?」
泰樹さんが、後ずさらない以上。
もう、洸希君が飛びつける余裕は、ないのに。
洸希君は、お構いなしに。 さらに、飛びつこうとするので。
今にも、泰樹さんが、倒れそうになっている。
「まぁ。 そうだけど」
見るからに、洸希君の質問に。
泰樹さんが、答えるごとに。
洸希君が、どんどん、近づいていっている。
そんな気がした。
「……分かった! 分かったから。
一旦落ち着こう。
全部、話すから」
さすがに、倒れそうになり。
限界を迎えたのか。
泰樹さんが、洸希君を。
優しく、引きはがす。
そして、立ったまま。
皆の前で、洸希君の。
泰樹さんへの、質問は続く。
「じゃあ、泰樹さんは。
外国語が、話せるんですか?」
「まぁ。 少しなら!
それより、キャラ変わってない?」
「じゃあ今度。 英語、教えてくれませんか?」
「いや。 教えられるほど。
喋れないから」
「えー。 そうなんですかー」
洸希君は、少し、ショックを受けているが。
まだ、嬉しそうだ。
「だから、キャラ違うよな。
なにがあったんだよ。
お前、こうき……だよな」
まだ、驚きが、消えないのか。
泰樹さんが、洸希君を下から上に。
なぞるように見る。
それから、しばらく、その状態が続いて。
僕らは、2人のやりとりを。
邪魔しないように、暖かく見ていた。
洸希君のおかげで、しんみりした空気が。
一気に晴れたので。 ありがたかった。
まぁ。 本人は、本当に、高揚したんだろうけど。
「洸希君は、どうする?
心音さんの、お見舞いに行く?」
しばらくして。
落ち着いた、洸希君に。
僕が訊くと。
「いえ。歳が離れていて。
怪しまれると、悪いので。
僕も、遠慮しておきます」
いつもの、洸希君に、戻っていた。
そして、秀寿さんのほうを見ると。
「我も、同じ意見、故に。
遠慮することとしよう」
秀寿さんも、行かないらしい。
「それなら。
やっぱり、俺も……」
優介さんが、なにか言いかけたが。
「優介が行くなら。
我も、安心じゃ」
秀寿さんが、優介さんの声を、遮って。
まるで、優介さんが言うのを、阻止するように言う。
「えっ。 どうして……」
優介さんが、驚いていると。
「とにかく、いろんな意味で。
頑張るんじゃぞ!」
秀寿さんが言う。
「あっ。 はい」
驚いたまま。
優介さんが、返事をする。
そろそろ、終わらせても、いいかな。
本題も解決して、話し合いも、終わったので。
僕は、締めの一言を、言うことにした。
「では、本題も、解決しましたので。
これにて、2回目の会議は。
終わりにします!
詳しい日時などは、3人で。
連絡を、取り合いたいと、思いますので。
心音さんの、お見舞いに伺う。
2人は、よろしくお願いします。
それでは、解散します!
皆さん、お気をつけて、お帰りください」
皆に向けて、大声で言ってから。
「じゃあ、僕らも、帰ろうか」
洸希君に、声をかけて。
2人で、公園を後にした。
そしてまた、駅のホームのベンチで。
プチ勉強会をして。
本来なら、家の前まで、送るべき。
なのだろうが。
洸希君の、家の事情のことを、考えて。
姿が、見える程度の、かなり手前で、別れて。
家の中に、洸希君が、入って行くのを。
遠くから、見届けてから。
ぼくは、来た道を。
引き返して。
自分の家の近くの駅で、降りて。
そこから、歩いて、帰宅をした。




