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秘密の声

 退院から約1ヵ月後ーー。


 僕は、新年度になってから、職場復帰した。 

 とはいっても、まだ歩行器は手放せていない。

 けど、日常生活に支障はない。

 それはきっと、杖のような形状のおかげかもしれない。


 そして歩行器生活にも慣れてきたころ。

 ようやく歩行器を手放せた。

 僕はこのタイミングで、神社に行くことにした。

 退院後からずっと、お礼参りに行きたかったのだ。



  神社に着いてから、鐘を鳴らして参拝する。


 『この度は、僕を救ってくださり、ありがとうございました。

  ご覧の通り、以前と変わらぬ生活を送れています。

  それもこれも全て、神様のおかげです』


 『われは何もしていないぞ』


 驚くことに、返答があった。

 だが、そんなことがあり得るのか?

 きっと気のせいだ。


 でも、無視するのは良くない気がする。

 だから、とりあえず返答してみることにした。


 『何もしていないってどういうことですか?』


 『おぬしが復活出来たのは、我ではなく少女のおかげなのだ』


 更に返答されたことに驚きつつ、会話を続ける。


 『少女ってまさか。

  僕の病室に来た、あの少女ですか?』


 『そうだ。

  覚えていてくれたこと、感謝するぞ』


 『でも、見ず知らずの少女が、なぜ僕の所に?』


 『それが重要なのだ。

  少女は、幼少期から心臓の病を患っていた。

  故に、激しい運動は厳禁で。

  ほぼベッド上での生活だった。


  少女の夢は思いっきり走ること。 

  だが、そんな些細ささいな願いが叶うことはなく。

  少女の病状は悪化し、会話すら出来ないほどの。

  寝たきり状態になっていた。

 


  そんなある日、 急に病状が良くなり、

  日に日に回復していった。

  そして、念願だった走ることも果たせるようになった。

  少女はとても喜び、毎日笑顔が絶えなかった。


  だが、お礼参りに行った神社で、事実を知る。

  少女が回復しだしたのが、昨年10月。

  お主が倒れた時だ。


  要するに、少女が回復した一方で、お主たちが。

  意識不明の重体となっていた、ということだ。

  そして、これが少女にも説明した事実だ』


 『それじゃあ今、少女は?』


 『回復前に戻っておる。

  それも悪化した状態でな』

 

 『そんなぁ……。

  それじゃあ、僕が少女に生命を分け与えていた。

  ということですか?』


 『いかにも。

  お主らが重体で生死を彷徨っている。

  その事実を知り、誰かの命を奪ってまで、幸せになろうとは思いません!

  と言い、お主らに鼓動を返却することにしたのだ。


  お主の病室に少女が来たのはそういうことだ。

  だから今日、お主がこの場に現れたのを見て。

  少女の願いが無事叶って良かった、と安心したところだ』


 『だったら。

  知らなかったとはいえ、僕が少女を救った意味が無いじゃないですか!』


 『お主なら、そう言うと思っておった。

  だがこうなる未来を少女は望んでいた』


 自分が回復したせいで、今度は少女が苦しんでいるなんて……。

 数分前まで、回復出来て喜んでいた自分が憎い。

 まさか、こんなことになっているなんて。


 いや、待てよ……。

 僕は、妙案を閃いた。

 少女がしたことと同じことを、僕が少女にしたら。

 もしかしたら、少女は再び回復するかもしれない。


 『あの……お願いがあるんですけど』


 『どうした? 今更。 ここはもともとそういう場所であるぞ』


 『少女に会ってみたいんです。

  会って、お礼と謝罪を……』


 『会うのは構わんが、それが目的ではないだろう』


 『え?』


 『先程から、考えていることが、全て筒抜けであるぞ!』


 そういえば、神様との会話は、参拝時と同じ様に。

 声を出さずにしていた。

 だから全ての思考が、読まれるのも無理はない。

 でもこうなったら、貫き通すしかない!


 『全て認知された状態で改めて言います。

  少女に会わせてください!』


 『そんなに必死にならんでも、我は会うこと自体は否定していないぞ。

  ただ、会いに行ったところで。

  少女が、再び回復するかは分からんがな』

 

 確かにそうかもしれない。

 でも、簡単に諦めたくはないんだ。

 それに、たとえそうだとしても、会わない選択はないし。

 さっきは、会いたい思いが強すぎて、必死になったのかもしれない。

 けど、面会したいのは事実だし、何も怯むことはないんだ。


 『そうか、そうか。 お主の思いはよく分かった。

  そんなに会いたいのなら、特別に教えてやろう!』


 そう言って神様は少女の名前と家の住所を教えてくれた。


 『分かっているとは思うが、他言無用だぞ』


 『もちろんです』


 『それと、我と会話したこともな』


 『分かりました。 約束します』


 『最後に、大事なことを、言うが。

  この神社を出る前に。

  青色のお守りを買うといい』


 『お守り、ですか?』


 『あぁ、そうだ。

  いいか? 必ず、青い色のお守りを買うのだぞ!』


 『わ、分かりました』

 

 神様の威圧感が、強すぎて。

 少し怯んでしまう。

 

 なんで、お守りを買うんだろう?

 まぁ、神社だから。

 お守りを買うこと自体は。

 変ではないけど。


 あえて、買う必要があるんだろうか?

 そもそも、どの種類のお守りを、買えばいいんだろう?


 『種類は、なんでもいい。

  特定はしていないからな。

  とにかく、青色のお守りを買うように。


  きっと、お主らを。 強力なモノから。

  守ってくれることであろう。


 『強力なモノ?

  それって、何なんですか』


 『お主の真面目さは、認めてやるが。

  知らぬほうがいいことも、あるのだぞ』


 ますます、気になるけど。

 今は、深く詮索せんさくしないでおこう。


 『ようやく、納得してくれたようだな。

  これからも、お主らを見守っているぞ』

 

 『ありがとうございます』


 『では、達者でな!』


 その一言を最後に、神様とは会話出来なくなった。


 目を閉じたまま、心の中で祈るだけで、神様と会話出来る。

 そんな夢のような話、他言しても信じてくれないよ。

 言いふらすつもりもないけど。


 そして僕は、ゆっくりと目を開けた。

 それから神社を出る。



 帰り道ーー。


 道端のベンチに座る。

 そこで、忘れないうちに、少女の名前と家の住所をメモした。

 それからメモ用紙を無くさないように鞄に入れる。


 少女の名前は“三島みしま 心音ここね”さん。

 16歳らしい。


 小柄だったから、中学生くらいかと思っていた。

 けど、教え子と同年代であることに、気づいた。

 小柄なのは、病気のせいもあるんだろうか?


 とにかく、一度会ってみよう!

 そう思い、立ち上がる。

 そして、軽快な足取りで帰路につく。



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