洸希の告白
優介さんと、電話した日、以降。
当事者の皆と。
何度も、電話やメールにて。
やり取りを重ねたが。
皆、仕事や学業に、忙しく。
なかなか、皆の都合が、いい日はなくて。
皆が一斉に集うのが、難しければ。
集まれる人だけ、集まるように。
提案しようかな。
そう思っていたら。
ようやく。
優介さんと、電話で話した日から。
2ヵ月後の、第3土曜日の。
朝10時に。
皆が、集えるようになった。
そして、月日は流れ。
集合する日の、前日を迎えていた。
明日は、初対面の日、以来。
2回目の再会である。
僕は、洸希君を、迎えに行ってから。
2人で、初対面の時と、同じ公園に。
集合することになっている。
だから、洸希君に、最終確認するため。
昼休憩の時に、メールを送る。
『洸希君。
確認だけど。
僕は、明日の、朝7時30分に。
洸希君の、家の前まで。
迎えに行けばいいんだよね。』
返信は、17時にあった。
『はい。
それと、もう1つ、お願いがあるのですが。
母には、事実を言っていないので。
家の前に、着いたら。
チャイムは鳴らさずに。
メールをしてほしいです。
僕の嘘に、付き合わせて。
申し訳ないのですが。
よろしくおねがいします。』
なるほど。
“押さない”を、意識して。
気をつけないとな。
内容を、確認した直後に。
『了解です。
じゃあ、また明日ね。』
と、返信する。
『はい。
明日、よろしくお願いします。』
洸希君も、すぐに返信してくれた。
翌日ーー。
僕は、約束通り、朝の7時30分に。
洸希君の家の前に、到着する。
そして、メールをする。
『下に着いたよ。
降りてこられそうかな?』
『すぐに、行きます!』
返信が、すぐにきた。
2分くらい、待っていると。
洸希君が、慌ただしく。
家から、飛び出てきた。
「おはようございます。
さっそくで、すいませんが。
僕に、ついてきて、もらえませんか」
かなりの小声で、洸希君が言ながら。
早歩きで歩く。
「おはよう。
えっ。 あぁ……。 分かったよ」
僕も、そんな洸希君に、ついて行きながら。
小声で返事する。
それから。 さっき、僕が利用した駅まで。
2人共、なにも話さず。
ただ、早歩きでやって来た。
「ここまで、僕のわがままに、付き合わせて。
すいません」
駅に着いて、間もなく。
ようやく、洸希君が口を開いた。
「意味は分からなかったけど。
洸希君の家の前だったし。
今は、言う通りにしよう、と思って。
従っただけだから。 気にしなくていいんだよ。
とりあえず、切符を買おうか」
「はい」
僕らは、集合場所の、公園に行くため。
公園から、1番近い駅までの、切符を買った。
僕らが乗る予定の電車が、到着するまで。
ホームのベンチに座って、待つことにした。
「お母さんに、今日のこと。
言ってないの?」
「はい。 言いづらくて。
お母さん、すごく厳しくて。
毎日、勉強しなさいって言うんです。
今は、遊ぶよりも、勉強が大事なのよ。
大人になって、後悔しないように。
今、頑張るしかないのよ!
って言うんです。
だから僕、学校でも、家でも、塾でも。
ずっと、勉強していて。
友達と遊ぶのも、許されなくて。
だから、入学したての時に、できた友達も。
まったく遊べない、僕から。
どんどん離れていって。
気づけば、友達がいなくなってました。
それで、もう、嫌になって。
本当は、勉強もしたくないし。
もう、塾にも行きたくないんだ。
って本音を、母に言ったら。
かなりの剣幕で、怒られて。
その日から。
ただ、勉強するしかなくて。
僕に、遊ぶという、選択肢はないんだな。
と思いました。
本当は僕も、クラスの子たちと、同じように。
学校が終わったら、遊びたい。
ゲームだって、やってみたい。
と思っているのに。
僕に許されるのは、勉強することだけ。
でも、勉強すること自体。
好きじゃないんです。
むしろ、嫌いなんです。
でも、むりやり、嫌いな勉強を、押し付けられて。
嫌なことだから、集中できなくて。
低学年の頃は、成績が悪かったんです。
テストの時は、良い点が、取れなくて。
テストの結果が出る度。
お母さんにも、先生にも、怒られて。
あぁ……。 僕にはもう。 勉強しか、ないんだな。
勉強でしか、存在価値がないんだな。 そう思って。
3年生になったくらいから。
真面目に、勉強するようにして。
気づけば、周りから。
優等生だね。 って言われるように、なってました。
ふつうは、そんなこと言われたら。
嬉しいのかもしれないけど。
僕は、全然、嬉しくなくて。
周りが褒めたところで。 なにも変わらない。
お母さんが。 遊ぶ時間を、与えてくれるわけでもない。
どうせ、僕の意思は、伝わらないんだから。
褒めらても、褒められなくても。
僕は、変わらず。
勉強し続けるしかないんだ。
高揚することのない、感情とともに。
ロボットのように、自分の気持ちを、押し殺して。
ただ、勉強し続ける日々を、送らなければいけないんだ。
そう思ってました。
そんな時。
父が、帰ってきて。
2年ぶりに、両親と一緒に。
遊園地に行って。
アトラクションに乗る前に。
胸痛に襲われ、倒れて。
病院に、搬送されたんです。
家は、父が単身赴任者で。
ほとんど家にいないんです。
でも、数年ぶりに、帰ってきて。
遊園地や、動物園に、連れて行ってくれるんです。
だから、倒れる前も。
遊園地に行けると、分かった日から。
やっと、遊べる。
勉強のことなんか、忘れて。 楽しむぞー! って思って。
かなり、楽しみにしていたんですけど。
楽しむ間もなく。
病院に、行ってしまったんです。
それで、気がついてからは。
うっすらと、下に自分の姿が見えて。
寝たきりなら、勉強は、できないから。
勉強はしなくていいんだよね。
よかった。
これでやっと、勉強から、解放されるんだ。
って思って、嬉しかったんですけど。
今、自分が、幽体離脱という、状態である。
と認識して。 恐怖を感じて。
嬉しかった感情は、一瞬で、消え去りました。
そして、復活してからは。
勇大さんたちの存在を知って。
味気ない日々が。
勇大さんたちと会うことで。
なにか、変わるかもしれない。 そう思って。
あの日、公園に集合することにしたんです。
それで実際に、勇大さんたちと会って。
あの日、集合するまでは。
大人は皆、僕の意思なんか。
聞いてくれない。
受け入れてくれない。
そう思っていたんですけど。
勇大さんは。
僕の意思を、ちゃんと聞いてくれて。
受け入れてくれた。
僕に、選択する自由を、与えてくれた。
だから、僕にとって、勇大さんは。
初めて、僕を、受け入れてくれた大人、なんです。
だから、また誘われたら、絶対に行く!
そう、決めていたので。
今回も誘われて、すごく嬉しかったんです。
でも、お母さんには、本当のことを言っていないから。
バレないようにしないと。
お母さんが、勇大さんの存在を知ってしまったら。
勇大さんを、怒りかねない。
そしたら、勇大さんを、家庭の事情に、巻き込んでしまう。
そう思って。 メールにしてもらったんです。
バレていないなら。
お母さんから見たら。
僕が1人で、出かけて行ったように。
見えるだろうけど。
もし僕が、バレそうな、不審な動きを。
昨日までの、知らぬ間にしていたとして。
それに気づいた、お母さんが、警戒して。
僕が、出かける様子を。 家の中から、見ていたとしたら。
どうしよう! と思うと。
落ち着かなくて。
一刻も早く、家を離れたくて。
早歩きに、なってしまっていたんですけど。
勇大さんからしたら。
合流してきたばかりで。
小声で、早歩きなんて。
迷惑でしたよね。」
「いや、そんなことないよ。
そうだったんだね。
たしかに、驚いたけど。
なにか、事情があるんだろうな。
とは思ってた。
でも今、判明してよかった、と思ってるから。
気にしなくて、大丈夫だよ」
洸希君の気持ちも。
お母さんの気持ちも、分かるけど。
お母さんは少し、やり過ぎな気がする。
それにしても、遊園地で倒れたのは。
可哀想だな。
「それに。 今まで、辛かったんだね。
僕が、力になれているのかは。
分からないけど。
洸希君の辛さが、少しでも軽減するのなら。
なんでも話して、いいからね。
愚痴でも、なんでも聞くよ」
「“ぐち”って何ですか?」
かなり、しっかりしているから。
忘れていたけど。
洸希君はまだ、10歳だったな。
「えっとー。
まぁ。 知らなくても、いいかなー。
とにかく、なんでも話を聞くからね、ってことだけ。
理解してくれたら、いいから」
「分かりました
ありがとうございます」
洸希君が、お礼を言った直後に。
タイミングよく。
僕たちが乗る予定の、電車が到着した。
その後、僕らは、立ち上がり。
その電車に乗り込んだ。
そして前回、プチ勉強会をした駅で、降りた。




