帰り道
朝と、同じ駅に着いて。
僕らは、それぞれ、切符を買う。
行きと違うホーム、ということもあり。
ホームの場所を探していると。
少し離れたところに。
こぢんまりとした、売店を見つけた。
あっ。 そういえば、昼ご飯まだ、だった。
洸希君も、絶対、お腹空いているよね。
「洸希君。 お腹空いたでしょ。
そこの売店で、買って来るけど。
なにがいい?」
「大丈夫です。
おそらく、家で。
母が、待っていると思いますので」
「そっか。 そうだよね」
「じゃあ、飲み物でも、買ってこようか?」
「さっきのがあるので、大丈夫です」
「そっか……」
「あっちの、ホームだよね。
合っているかな?」
予想した、ホームのほうを。
指差しながら言う。
「はい。 さっき僕が、あそこから来たので。
合っていると思います」
「なら、良かった」
気のせいかもしれないけど。
洸希君は、公園にいる時より。
なんだか、冷たくなった。
ような気がした。
もしかして、怒っている?
なにか、怒らせるようなこと、したかな。
この前は、心音さんのお母さんを。
知らぬ間に、怒らせてしまっていたし。
今回も、知らぬ間の、僕の言動が。
洸希君の気にさわってしまった。
という可能性だって、充分にある。
どうしよう。
また、後味、悪くなってしまうよ。
僕は、どれだけ、人を怒らせれば、気がすむんだ。
そんなことを考えながら。 とりあえず。
僕らは、そのホームに向かって、歩き出す。
「遅くなって、ごめんね。
お母さん、心配していないかな?」
怒らせている、原因として。
考えられるのは、これしか、思いつかなかった。
「遅くなるかもしれない。
と伝えてあるので、大丈夫だと思います」
「そうなんだ。 なら、大丈夫かな……」
本人が、そう言っているなら。
大丈夫。 ……じゃないよな。
せめて。 連絡だけでも、したほうがいい気がする。
「でもやっぱり、遅くなったし。
電話だけでも、しておいたほうが。
いいんじゃないかな。
もし、言いづらければ。
僕から、言ってもいいし」
「実は僕、母に。
本当のこと。
言ってないんですよね」
「えっ。 じゃあ、なんて言ったの?」
「図書館で、勉強してくる、と言っています」
「でも。 朝も、早かったはず、だよね
そのことについては、どう説明したの?」
「そもそも。
図書館が、家からけっこう、離れていますので。
違和感、ないかと」
「なるほど……。
でも、さすがに、遅すぎて。
お母さん、心配しているんじゃないかな?」
「大丈夫です。
これくらい、遅くなることも、ありますので」
「うすうす、気づいてはいたけど。
洸希君って、勉強熱心なんだね!」
「……ありがとうございます」
口ではそう言っているけど。
洸希君は、全然、嬉しそうではなかった。
むしろその逆で。 少し、落ち込んでいるように、見えた。
「それに、母は。 僕が、勉強すればするほど。
喜びますので」
それって、もしかして。
虐待……?
いや、考えすぎか。
「なら、いいけど……」
って、いいのかな?
「お母さん。 けっこう、厳しいんだね」
「あのっ! それより、勉強、教えてくれませんか?」
「もちろん」
駅のホームについてから。
しばらく、2人で立って、話していたが。
洸希君の一言で。
ホーム内にある、小さなベンチに座る。
図書館で、勉強してくる。
お母さんに、そうやって、嘘をついたので。
問題集を、持って来ていたようだ。
それで、分からない問題を、質問された。
本当に、分からない問題が、あるんだろうけど。
もしかして、帰ったあとで。
今日は、どこの部分を、勉強したのか、という。
報告をしないといけないから。
あえて、質問してきているのかな?
とも思ったけど。 考えすぎだよね。
僕はもともと、小学校教諭になりたかった。
でも今は、高校教諭だ。
だから、教えること自体、苦ではない。
なので、電車が来るまで。
その小さなベンチで、教えていた。
電車に乗ってから、洸希君は饒舌になっていた。
ベンチのプチ勉強会で、答えが分かり、スッキリしたのだろうか。
それとも、なにか別の理由が、あるのかもしれないが。
今はただ純粋に、そういう理由だと。
解釈しておこう。
それに、問題を、解いているうちに。
公園の時の、洸希君の印象が。
戻ってきていて。
冷たくなくなっていた。
やはり、僕の気にしすぎ、だったのかもしれない。
さっきまでは、教えることに、夢中になり。
忘れてしまっていたけど。
厳しいかもしれない、お母さんに。
遅くなったお詫びの電話を、しないといけないのかな。
と思ったが。
そもそも。 洸希君は、図書館に行ったことになっているので。
その必要はないと。 瞬時に気づき、内心ホッとしていた。
それにしても、今回、当事者として。
呼ばれたとはいえ。
僕が洸希君の立場なら。
大人だらけの場所に、子供1人なんて。
耐えられないと思う。
なぜなら、緊張するのと。
話の内容を、理解することだけで。
いっぱいいっぱい、だと思うから。
緊張したと、言っていたけど。
それでも、耐えられた洸希君は、すごいな。
そして、電車を降りてから。
しばらく歩いて。
洸希君を無事に、家の前まで送り。
また、来た道を引き返して。
さっきと同じ駅で、切符を新たに、買い。
さっきとは、違う電車に乗り、見慣れた駅で降りて。
家まで、しばらく歩いて、帰宅した。




