異様な行動
「謝罪に行くときは。
おれも誘ってくれませんか?
面会もしたいので」
分太さんが言う。
「もちろんです。
というか、同行してくれたほうが。
ありがたいので。
ぜひとも、よろしくお願いします」
「なら、良かった。
やっぱり、1人で謝罪に行くのは、不安ですよね」
「そうなんですよ。 なので、すごく助かります!
でも、こちらから、お願いするべきなのに。
すいません」
「お願いされても、されなくても。
拒否されない限り。
同行するつもり、だったんで。
謝らないでください」
同行してもらおう、なんて。
今まで、思いもしなかったから。
すごく、心強いなぁ。
「そうですよ。 勇大さんだけじゃなくて。
皆さん、さっきから。
謝罪しすぎですよ!
そんなに、頭を下げなければ、いけないほど。
悪いこと、してないでしょ。
それに、誰も責めてませんから。
悪い人だと、思っていない相手に。
頭を下げられたら。
こっちが、罪悪感で、いっぱいになるんすよ。
だから、そこまで。
ペコペコしなくてもいいと、オレは思います」
泰樹さんに、叱られた。
なるほど。
僕は、本当に申し訳ないなと、思って。
謝っていたけど。
そんな風に、思わせていたんだな。
プルルルルル……。
突然、着信音が鳴り響く。
「すみません」
そう言いながら、優介さんが席を外す。
携帯電話が、鳴ったようだ。
優介さんは公園の隅で、電話を取っていた。
「何人くらいで面会に行くのが、ベストなんでしょうか?」
分太さんが構わず、話を続ける。
「あまり大人数で行っても、迷惑になるでしょうから。
2・3人くらいですかね?」
「やっぱりそれくらいですよね」
「どうしたんですか?」
「勇大さん以外、面会に行ったことがないから。
皆が1度は、面会したいんじゃないかな、と思ったので」
なるほど。
1度、見たことはあるとはいえ。
やっぱり、面会したいよね。
「じゃあ。 交代で、行きませんか?
あちらが、迷惑じゃなければ、ですけど」
泰樹さんが提案する。
「いいですね!
それなら、皆が必ず、1度は会えますから」
分太さんが、頷きながら、賛成する。
確かに、それなら、平等で良いかもしれない。
そこへ、電話を終えた優介さんが、戻って来た。
「すみません。
急用が入ったので。
お先に、失礼します」
「分かりました。
お忙しい中、来てくれて。
ありがとうございました」
「いえ。
お役に立てたかは、分かりませんが」
「真逆です。
優介さんの言葉で、かなり救われましたから。
本当に、ありがとうございます」
優介さんは、なにも言わずに。
頷きながら、微笑む。
その表情は、悲しそうにも見えた。
「では、失礼します」
「はい。 お気をつけて」
終始、優しそうな人だったなぁ。
優介さんに相談すれば、どんな悩みも。
解決できるような気がする。
「あぁ……。 また、会いたいなぁ」
つい、本音がもれてしまう。
そして、まだ姿が見えているのに。
もう、会いたくなっている。
せっかく会えたのに、もう会えないんだな。
あっという間だったなぁ……。
去り行く、優介さんの背中を見つめながら。
別れの余韻に浸っていた。
いや、待てよ!
なにを考えているんだ。
まだ、なにも解決していないのに。
このまま、別れていいわけがない。
それに、もう会えないなんて、嫌だ!
そう思ったら、駆け出していた。
「待ってください!
肝心なことを、忘れてました」
去り行く、優介さんの背中に向かって。
大声で叫ぶ。
優介さんは、すぐに僕の声に気づき。
立ち止まり、振り向いてくれた。
「どうしたんですか?」
そして、出口付近まで、行っていた。
にも関わらず。 驚いた顔をして。
こちらに歩いて、戻ってきてくれている。
僕も、優介さんのほうに、近づいて。
「連絡先を……教えてくれませんか?」
息を切らしながら、言う。
「もちろん、いいですよ」
急いでいるのに、呼び止めるなんて。
失礼なことをされた。
にも関わらず、優介さんは、嫌な顔ひとつせず。
快諾してくれた。
なんて、良い人なんだろう。
そして、優介さんは、自分の鞄から。
メモ帳とペンを取り出す。
本来なら、聞いた側の僕が。
メモを取らなければいけないのに。
呼び止めてしまった、申し訳なさから。
そこまで、気が回らなかったのだ。
そこで僕は、優介さんの異様な行動を見た。
1度は右手に持ったペンを、左手に持ち変えていたのだ。
そして、急いでいる割には、書くスピードがゆっくりだ。
引き止めた僕が、言えたことじゃないけど。
「すみません。 見づらくないですか?」
優介さんは、そう言いながら、
書き終えたメモ帳を。
僕のほうに向けて、見せている。
「大丈夫です! ありがとうございます」
建前で、そう返答した。
けど、上手な字とは、いえない。
でも、読めないわけでも、なかった。
それに、お願いしている立場だし。
初対面で見づらいなんて、言えるはずがない。
「良かった! まだ、慣れてないんですよね」
メモ帳を切り離しながら、優介さんが言う。
‟慣れてない”とは、どういうことだろう?
「では。 今度こそ、失礼しますね」
「あ、はい。
それと、連絡先を皆にも、教えていいですか?」
「もちろんです。
お互いが、登録するまでは。
皆さんにも、手間を取らせますが。
よろしくお願いします」
「分かりました。 では、お気をつけて」
「ありがとうございます」
会釈をしながら、言って。
優介さんは、走って。
帰って行った。




