随一の
「五つ…」
俺は神妙な面持ちから五本目の指を立てて言う…。
「元々修学旅行に参加するのも嫌だったのに父さんにお願いする前に『駄目だよ』と断わられ、しゃーない行くか…、と思っていたら聖女の護衛とかいう仕事が入り、面倒くせ…と思いながら下見に行ったら聖女のトラブルに巻き込まれ、帰ってきて聖女の依頼が無くなったと思ったらまた新しい依頼………………もう面倒なんですけどっ!?嫌なんですけどっ!?お断りなんですけどっ!?」
ハァハァハァ………おっと、俺としたことが…興が乗って思わず本音がぼろぼろ出ちまったぜ…。一旦冷静に、と…。
しかしここまで言えば依頼も取り下げてくれるだ「ぐす…」………えっ?
「そんなに私の護衛が嫌だったのですね…」
「リリー泣かすなんて良い根性してるやんけ。覚悟出来てるんやろなぁ?」
「冒険者ギル………私からの依頼も面倒だと思っていたのね。ぐす…」
い、いかんっ!リリアーナ王女とアイアリーゼさんが涙をっ!?そして聖女は何やら指をボキボキと鳴らして…。くっ、より面倒な事態になってしまった。
だが俺はこの程度で動揺なんてしていられない。えっ?さっき一旦冷静に…とか言っていただろうって?さっきのは動揺ではない。つい興が乗ってしまっただけだ。
そして、この局面を打開するには………そうっ!ゼハールト家随一のイケメン。三人の妻を同時に宥める父さんを参考にして切り抜けるっ!!
「リリアーナ王女…貴女の護衛が嫌なのではありません。貴女の護衛、という理由を付けて俺を働かせようとしている陛下に不満があるのです。貴女のことが嫌だとかはそんなことは決してありませんので」
「アイアリーゼさん…貴女からの依頼が面倒だなんて思ったことは一度もありません。貴女からの依頼ならば俺が断わらないと思ってわざわざギルドを通してくる輩が面倒なのです。俺は貴女の為ならば魔人だろうが魔王だろうが邪神だろうが秒で倒してみせます」
王女とアイアリーゼさんに優しく声を掛け、そして父さん似の優しい微笑みを炸裂させる。ふと見ると聖女が「ウチは?ウチには?」と言うような目で見ていたので…
「………………フッ」
「鼻で笑われたっ!?」
聖女にはコレで十分だ。
「殴る。あいつ絶対殴ったるっ!」
「キョーカ。ちょっと落ち着いて」
「聖女さん。ちょっと落ち着いて」
王女とアイアリーゼさんが聖女を宥める、というか王女が羽交い締めで止めている。………おや?王女はともかくアイアリーゼさんもその表情はちょっと嬉しそうにしている?いつものアイアリーゼさんならイタズラな笑顔を見せそうなもんだけれど…。
まあ良い。俺はそんな野暮なことにはツッコんだりはしない。そして俺はクールに去るぜっ!…と、今がチャンスと言わんばかりにそそくさと校長室から退出した。
『絶対もいだるからなあっ!!』
扉越しにそんな叫び声が聞こえた。…ナニをもぐ気だナニを?怖えよ…。
そして俺は教室へと向かう途中に思う。
ウチの父さんはやはりイケメンか、と…。
聖女になったらアカン奴が聖女になっちゃったんじゃないかな、と…。
国王陛下との模擬戦では手加減はしても容赦するのは止めよう、と…。
後日、王城内の武闘場でボロボロになった国王とニッコニコで城から出てくる俺が見られたらしいが、その因果関係は謎のままだとかなんとか…。
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