願いと想い
ヴァーチェ領立中等学校…その校長室の隣にある応接室。俺は今、そこにいる………正座で。
うん、『SE☆I☆ZA』である。
もちろん俺の位置は応接室の下座…一番入口に近い床である。床が絨毯だったのが救い…か?
そして俺の前にちょと良さげなテーブルの右のソファーには、王都の高等学校に行っているはずのリリアーナ王女。
その隣に先日クアンタム王国で会った聖女(わ「(笑)止めてな」…聖女。
その対面。俺から見て左のソファーにはヴァーチェの冒険者ギルドマスターの愛しのアイアリーゼさん。
アイアリーゼさんが何故ここに………はっ!そうか、俺のことが心ぱ「仕事よ」…ですよねぇ。
二人が俺のモノローグにツッコんでくるとかマジで止めて欲しい。………でリリアーナ王女は何故俺を睨んでいるんですかね?
そして俺の対面…上座には光輝く大きなおでこが眩しい我が領立中等学校の校長が額に汗していた。
「リリアーナ王女殿下、ご無沙汰しております。何のお出迎えも出来ず申し訳ありません。中等学校にはご卒業以来、でしたか。本日はどのようなご用件で?」
聖女とアイアリーゼさんをチラッと見つつも、まずは…とリリアーナ王女に挨拶する校長。入口の側に正座している俺のことは無視ですか?
「校長先生、ご無沙汰しております。突然の訪問ですし非公式なので出迎えなどはもちろん必要ありません。ご迷惑をお掛けします。本日はそちらにいるソコの彼に用があ」「わかりました!すぐにお貸ししましょう!私は視察がありますのでこれで失礼を。…あ、応接室は使ってもらって構いませんのでどうぞごゆっくり。ではっ!」
校長はそう言い、俺の横をそそくさと通り応接室から出て行った。
「あ………細かい説明は必要無くなりましたね」
「話の早いオッサンやなあ」
「あらあら、あの子が校長なんてねぇ。でも私に挨拶が無いのはどういう了見かしら…」
あんの校長、俺を速やかに、鮮やかに売りやがった。俺の横を通る時は俺を一瞥もせずに…そう言えば俺とは一度も視線を合わせていないな…。ということは最初から売る気満々だったってコトか!あんにゃろうっ!!
俺が『ぐぬぬ…』していると…
「ヤリ返したりしたら駄目ですよ?」
「悪い顔しとるなぁ」
「面白そうだけれど、ほどほどにしてね」
何故、俺がやり返すのほぼ確定な前提で言うんですかね?………いや、何かしらやり返すことを考えているけれど。
しかし、コレで少し空気が和んだ気がする。今ならワンチャン逃げれるのではなかろ「………さて」…っ!?
リリアーナ王女のその一言で応接室内の空気が冷えていく。…あれ?王女って氷属性とかだったっけ?
王女は静かに笑みを浮かべ俺を見る。お、おかしいな…笑っているはずなのに目が笑っていない。視線が痛いんですけどっ!?
それはもうザックザク刺してくる。そうか、コレが受け継がれしセブンスソーげふんげふん。
「本題………に入る前に、今朝の言い訳でも聞かせてもらいましょうか、ゼハールト君?」
「せやな。まずはウチらを見て速攻で逃げた件から聞かせてもらおか?」
おかしい…『隠密』スキルと『縮地』からの『転移』という連続コンボまで使ったというのに完全にバレてるしっ!?
それに『説明』を求めずに『言い訳』を聞こうと言うのがもう怖い。何が怖いか俺もよく分かっていないがなんかもう怖い。
気が付くと王女は赤の魔力を纏い、聖女は両の拳にメリケンサッ「プラチナムナックルや!」を装備している。
い、いかん。退路………誰か俺に退路をっ!
そ、そうだ。アイアリーゼさん!アイアリーゼさんなら何か、何か俺が逃げれる一言をっ!?
アイアリーゼさんを見やるとコトリ…と紅茶のティーカップをテーブルに静かに置く。
「なかなか良い茶葉ね…。ギルドにも置いてもらおうかしら」
アイアリーゼさんっ!?
縋るような俺の願いと想いはまったく届いておらず、俺は膝を折る。………あ、もう正座させられてたわ。
こうなるといよいよもう退路が無い。うん、ごめん、みんな。俺、死んだ。
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