『聖なる杖』
『聖女』や『聖者』の職業もしくは称号を持つ者には特殊なスキルを持つ者が多い。
ソレが与えられた物なのか芽生えたモノなのかは誰も理解からないし知ろうともしない。
ただ、そういうモノだと、その事実を知るだけである。
特殊なスキル、と言っても代々で同じスキルの時もあれば全く別のスキルの時もある。もちろん複数のスキルを持つ場合も…。
故に『聖女』や『聖者』だからといって決まったスキルだけを持つワケではなく、ソレは多種多様、多岐に渡る。
とりわけ『神衣』は有名なスキルで非常に優秀かつ強力なスキルである。
『神衣』の下位互換に『聖衣』と呼ばれるスキルがあるが、もちろん読み方がクロスではないのは言わずもがなである。
さて…今回『聖女』の職業か称号をもつ関西弁を話す彼女だが、もう一つ…いや実際にはそれ以上にスキルを持っているのだが…。
そしてもう一つ、『神衣』に匹敵するほどのスキルを持っていた。
それが…
「伸びろっ!ドラグロブスッ!!」
ギュオッ!…と凄まじい速さで白金の棒が伸びる。魔力で形成されていた斧槍は消えていたが、その先は刺客の一人をズドンと突く。
突いた棒は伸びるのを止めず、刺客をそのまま壁へと押し込んだ。
壁は知らない間に展開されていた金髪の彼の結界なのだろうと彼女は自然と理解していた。
棒による攻撃と結界の壁に叩き付けられ、刺客の一人は沈黙する。
『龍球』
彼女がそう名前を呼んだ白金の棒は、元は橙色で、中には赤色の星が八つ入っている。そんな『玉』である。
決して七つ集めて龍を呼び出す玉ではない、とだけ言っておこう。
その『玉』の能力は八つ…。
形状変化。つまり『棒』だったり『斧槍』だったり『伸びる』などは八つの能力の内の一つ………そう、『三つ』ではなく『一つ』の能力である。
そう、『形状変化』である以上、当然その他の形にもある程度変化可能で『剣』や『盾』にも変化する………『一つ』の能力と考えれば大分オールマイティーな能力である。
そして、この『形状変化』に属さない形………別の能力の一つ。
「モードッ!カドゥケウスッ!!」
『聖女』『聖者』が持つに相応しい『聖なる杖』が姿を現す…。
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「…へぇ、便利な道具だな」
武器の形が変わるのか。関西弁女子の白金の棒が杖に変化するのを見て思う。
当然、まだソレが実は八つの能力を持つスキルであるとは全く持って知らないワケなのだが…。
「また意識が逸れているな少年っ!」
袈裟に振り下ろしてくる刀を後ろに下がり避わし…
「…っとぉ」
振り下ろしから突きに変化した攻撃を首を曲げ避わす。
「私も少し欲しい、とは思うがね」
「………アンタも意識逸らしてんじゃねえか」
突いた刀を引きながら一回転、そのまま横に薙いでくるのを再度数歩下がり避わす。
「一応彼女が標的だからな。まあ、私の相手が君なのは変わりないのだが…」
「………………」
随分と簡単に作戦をバラしてくるな。
「簡単に作戦を漏らしてくるな。………そう思ったかね?」
一気に踏み込み、真上からの切り下ろし…と見せかけて刀の軌道が変わる。
「そりゃあ、ね」
逆袈裟の斬撃を転移で外す。
「理由は単純なことだ。私は強い者と戦い、自らの糧としたいのだ。今回の作戦で言えば私の狙いは元から君であり、作戦の情報や成否すら私にはどうでも良い話でね」
転移先の俺をすでに捉えているのか、しっかりと俺に視線を向けていた。
自分の為なら、か…。ソレはまた随分と…
「我が儘、だと思うかね?自分勝手、であると?」
「………………」
思うっちゃあ、思う。………が、ソレは…
「変わらないのだ。今の私にとっては作戦がどうなろうともね」
『今の』って言ったか。
「さあっ!もう一段、ギアを上げよう。着いてこれるかっ、少年っ!!」
鬼仮面の魔力が膨れあがり、纏う赤の粒子はさらに増える。
強者を求め、戦いを求める…。仮面を被っているのは過去に『何か』があったのは容易に想像が付く。
そして恐らく、その『何か』の為に我が儘を貫いているのだろう、とも…。
その『何か』が何なのかは分からないし知らない…別に知りたいとも思わない。
ソレが例えば俺のように大事なモノを…家族を守る為に我を…力を振るっているのだとしても。
今、俺の前にいるということは俺の『敵』であることに変わりはない。
「ぼちぼちアンタとのやり取りも飽きてきた…」
「連れないことを言うな少年」
スラリ…腰に提げた装飾はそこそこの鉄の剣を鞘から引き抜き、その切っ先を鬼仮面に向ける。
「少しだけ本気を見せてやるからアンタもさっさと本気を出せ」
そして自身の魔力を高め、放出する。
「『形態:運命』」
魔力の一部が俺の背部に翼を形成する。ソレは魔力を七色に変え輝きを放っていた。
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