『ピコーン!』
ニンマリ…不敵に笑みを浮かべる関西弁女子が俺の前に立ちはだかる。
…しまった。さっさとここから逃げだせゴホンッ…離れれば良かった、と俺は後悔する。後悔先に立たず、とは良く言ったものだ。
俺の『嫌な予感』スキルがビンビンに警鐘を鳴らす。…もちろん、そんなスキルは全くもって持って無いのだけれど。
いや、きっと『可能性の獣』か『刻を視る者』のどちらかが反応しているのだ。そうっ、そうに違いないっ!………多分。
そんな、いつも通りくだらないことに思考を少しだけ割きつつ、この場からどうやって逃げようかを考える。…逃げって言っちゃったよ。
『転移』を使用するのが一番簡単ではある。…あるのだけれど。
いかんせんここは国境で、周りにはそこそこの人数がいるワケだ。
そんなところで今は使い手がいないらしい『転移』魔法を使うのは如何なものかとさすがの俺も思うワケで…。
となると敏捷値任せで大逃げかますか、というような思考にもなるワケで…。
…えっ?ソレは思考を放棄している?
いやいや、考えるの面倒くさいなぁ、とか、なんなら煙幕張って逃げたろ、とか思って………いや、煙幕良いんじゃね?
煙幕を張るような道具は持っていないから極小の爆発を起こすような魔法を地面に放って砂煙を立てる。
うむ、単純で良い作戦ではなかろうか。
問題はあの関西弁女子が、それでも俺を捉えることが出来たり、なんなら捕らえることが出来ちゃうくらいの能力値だった場合だ。ひょっとしたら捕獲、捕縛に強いスキルなんかを持っていたりする可能性もあったりなかったり…。
いやいや、そんなことを言いだしたらキリがない。あらゆる可能性を考えるのは大事ではあるが、答えは一つ。
逃げれるか逃げれないか、だ。
逃げる必要あるのか、って?
そんなのあるに決まっているじゃあないか。
黒髪に黒目でチートスキル持ちであろうあの『聖なる隕石』の使用。そして関西弁!こんなの日本人の転移者か転生者で確定じゃんっ!?裏ドラ二のバンバンでほら倍満だ。親倍ツモって八千オールだ、こんちくしょいっ!!
おっとっと、また思考が逸れてしまった。一旦落ち着こう、すぅ…ふぅ。
関西弁女子はニシシ…と口角を上げて、ゆっくりと俺に近付いてくる。俺は極小の爆裂魔法を準備し、いざとなれば転移する覚悟も決め、関西弁女子の一挙手一投足を見極めるために待ち構え身構える。
さあ、どうくるっ!?
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「貴様らか、ここで暴れているというのは?」
「えっ?」
「はっ?」
意識を向けていた関西弁女子とは違う方向から野太い声が俺に、俺たちに掛かる。
視線を移すと整った装備の大男が…。
あの装備は…ここの衛兵か。見掛けた衛兵より立派な装備だから多分上の立場の人なのだろうが…。
「俺は違」「あぁ、ウチらがやったで。ただ暴れたワケやないけどな」
…被せるの止めてもらって良いですかね。あと『ウチら』って言うのも止めてね。
「…事情は後で聞こう。とりあえず詰所まで同行願おうか」
「いや、だから俺はち」「嫌や!ウチらは被害者側やで。事情ならあそこで気絶てるアイツらから聞いてんかぁ」
だから、らを付けんならをっ!なんで俺も一緒にやったみたいになっちゃってんだよっ!?あと被せんな。
「ふむ、アイツらか…。素行が良さそうには見えんな」
「せやろ?アイツらヤったんはウチらやけど悪いのは全部あっちやで?」
「アイツらにも話はちゃんと聞く、が私が今、同行を求めているのは君たちだ」
「ウチの話、聞いてた?ウチはいやや言うてんねんけど?」
「ぐぎぎ…」「ぬぐぐ…」としょうもない応酬が続く。俺はさっさと国境を通ってここを離れたいのだけれど?
………ピコーン!と俺の脳内に電球が光るイメージ。…古いか?古いな。いや、今はそこはいいや。
俺の閃いた、というよりは思い出したスキルと方法………それは『隠密』スキル使って逃げれば良いんじゃね?…である。
先ほどの騒ぎに続き、この衛兵と関西弁女子の騒ぎのせいで、この場にいる人たちはコレを見守っているような状態である。
越境の受け付け手続きも都合良く止まっていて現状は進んでいない。
絶賛舌戦中の二人はもう俺を置いてきぼりにして未だ継戦中である。
…大チャンスである。
俺はこの隙を見逃さず、ソッと『隠密』スキルを発動させた…。
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