要点だけ
「そうじゃな…あれはまだ儂が若く、現役の頃のこ」「『若く』とか『現役』とかそういうのいらないからっ。端折って端折って」「…なんじゃ、つまらないのう」
義祖父さんがまた昔話をしようとするので素早く止めておく。せっかくさっきわざわざ話の腰を折っておいたのに台無しである。
「大旦那様、要点だけかいつまんでお願いいたします」
珍しくシーバスが良いことを言っている。良いぞ、もっと言ってやれ。
そう、かいつまむ程度で良いんだから。
「まったく仕方ないのう…要点だけ、となるとどれを話せば良いか…」
やっぱり長話する気だったのか…。さすが俺、よく未然に防いだ。
おいシーバス。これは危機察知能力が高いだけであって決してツッコミスキルではない。いや、そもそもそんなスキルは存在しない。…しないよね?
「そうじゃな………薬品か暗示か魔法かはわからないが教国の人間も我国にいる信者も、その『上』にいる奴らの情報は一切持っていなかった…が、答えかのう」
「もちろん教国の暗部の連中も欲しい情報は持っていませんでしたね」
ふむ…信者なんかは知らなくてもおかしくないと思うけれど、暗部の連中からも情報が出ないってのは引っ掛かるね…。
「いろいろ試してはみたんじゃがのう…」
「本っ当に何も出てきませんでしたね…」
『いろいろ』って何したんだよ…怖ぇよ、お前ら…。
ただまあ、回復薬やら魔法やら現代日本…いや地球では考えられないような回復方法があるこのファンタジーな世界でどうやったらそんなことが可能なのか…。
………俺?俺なら『回復魔法』とか『解呪』とか…いや、多分それでも駄目なんだろう。恐らくより高位…というよりは特異なスキルとか魔導具が使われているんじゃないかな…。
でもって、だ。回復薬でってことになると恐らく完全回復薬のような伝説級の物を使用しないとどうにもならない…のかもしれないな…。
そして義祖父さんとシーバスの二人で集められないような情報なら俺には到底集められないだろう。………だって面倒くさいし。
となると、だ。やっぱり直接ぶっ叩くのは無理かな…。
「いや、ユーリならやれなくはないじゃろう…」
「ユーリウス様なら無理でもやりそうですね…」
義祖父さんもシーバスも俺を一体なんだと………いや、まあ、最悪やるけれども。ほら、もう用事なんて無いんでしょっ。本邸に帰って、どうぞ。
「なんじゃ、つれないのう…ではな」
「ではユーリウス様、失礼します」
俺は錬金部屋改め工房から二人を追い出し、別室に用意したベッドに寝転がる。
教国に関する欲しい情報はほとんど集まらない、となるとクアンタム王国でのやることはもうあまりない。残っていることは王都を出る手続きと国境での手続きくらい、か…。
王都と国境の距離的に一日で済ますワケにはいかないからな。明日と明々後日くらいに転移して手続きすればいいかな?
…で、その間は工房に籠って休暇を堪能しようじゃないか。
「見ろシーバス。あれは絶対に『転移でやることだけ済ませて工房で休もう』という顔じゃぞ」
「大旦那様、それはただのサボり…と言うのでは…」
「早く帰れ」
…まだ居た。
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