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使用人はいつの間にか家族公認

「あら、カイト。今、フレイアちゃんの部屋から出てこなかった?夜這い?」

「違います!」

 廊下ですれ違ったのは、フレイアの母、この屋敷の奥方様だった。

 フレイアの母だけあって年齢を感じさせない魅力あるご婦人。

 本当に、似ている。

 俺をニヤニヤ見つめて、揶揄うところは本当にそっくりだ。

「確かに呼び出されて部屋に入りましたが、ただ明日の予定を確認しただけです」

「部屋に入ったのに?何もなかった?まったくフレイアちゃんにはきっちり教えたはずなのに。

 欲しいものは早く自分のものにしないと取られちゃうわよって」

「はい?」

「あなたは見た目もいい男だから油断できないでしょう。

 放っておいたら、よそのご令嬢とか色っぽいメイドのおねえさんに、手を出したり出されたりするのが目に見えてるから。その前に既成事実の一つや二つ作っておくのよって再三教えたのだけどねぇ」

「何教えているのですか!旦那様が怒りますよ!」

「だってあなたが悪いのよ。うっかり手を出してくれれば安心なのに。意気地なしね」

 まるでダメな男だ、という話ぶりだが、俺の方がおかしいのだろうか?

 奥方様は当然のように話しているが、俺が手を出したとなれば、さすがに穏やかな旦那様も俺を殺しにかかってくるのではないだろうか。

「大丈夫よ。私達夫婦は自由恋愛主義で、放任主義なの。

 ああ、でも長男はガッチガチのお堅い貴族に育ってしまったわ。跡継ぎとしては安心だけど、息子としてはつまらないのよね」

 ずいぶんな言われようだな…長男。

「だからフレイアちゃんは自由に生きて欲しいと思っていたのに、聖女に選ばれちゃうし。

 子育てってうまくいかないものよね」

 軽い冗談ではなく、本当にそう思ってるのがこの奥方様だ。

 俺は顔が引き攣りそうなのを感じたが、とりあえず笑って濁した。


「奥方様、私はそろそろ…」

「ごめんなさい。早く寝たいわよねぇ」

「いえ、フレイア様に頼まれていた焼き菓子をお持ちしないといけないので」

「あの子はこんな時間に食べるつもりなの?…そこまでして側に置きたいなら手を出せばいいのに」

「はい?」

「いえ、こちらの話よ。

 ねえ、私からもひとつお願いしていいかしら」

「なんでしょうか」

「カイト。フレイアちゃんのこと、お願いね。あなたは、あの子の唯一のわがままだから」

 唐突に。真摯に娘を思う母親が顔を見せた。

「あなたの意思に反するならそう言ってあげて。同情とか中途半端な優しさを求めているのではないの。

 あの子はきっとあなたが思っている以上に、一途で、そして必死なのよ」

「…はい。よく知っています」

 そうだ、俺は誰よりも知っている。きっと本人以上に。

「それなら、私がいうことはないわね」

 奥方様は首を傾げて微笑んだ。ああ、フレイアの癖と同じだ。

「私は先に休ませてもらうわね。あなたたちも…これ以上言ったら野暮かしら?

 ……そうだ。一つだけ言いたいことがあったのよ」

「なんでしょうか」

「私のいない隙に部屋に出入りするのはやめて欲しいの」

「!はい。申し訳ありません。今後はフレイア様に部屋の外で用件を伺います」

 やはり、母親としは年頃の娘の部屋に自由に出入りするのはよろしくないと思っているのだろう。

「違う違う。そっちじゃなくて、旦那様の方よ」

「旦那様?」

「とっくに知っていますからね!

 あなたがあの、みにちゅあ模型?というものを旦那様に教えたのでしょう!

 すっかり虜になっているみたいで、私といてもその話ばかり。妬いてしまうわ!」

「…」

「確かに街並みを再現するのはとても面白い。鳥になったみたいに街を見下ろすのも素敵よ。

 でも私を放っておくなんで酷いと思わない?」

「申し訳ありません」

「やはりあなたが教えたのね。娘だけでなく夫まで誘惑するなんて油断できない男だわ」

 誘惑したわけではないが、確かに雑談の延長でミニチュア模型を作る楽しさをすこーし力説したことはある。興味深く頷いてくれる旦那様に甘えて、ついつい昔作った模型の話をしたのが悪かったのかもしれない。

「これ以上旦那様の心を奪わないでね。やるならフレイアちゃんの方にしなさい」

「は、はい」

 奥方様はそれでよし、と頷いて部屋に戻っていった。

 不思議な女性だ。

 旦那様も、俺みたいな使用人の趣味を楽しそうに聞いてくれくれる貴族としては変な人だ。

 そして娘があのフレイア。長男がまともに育ったの奇跡じゃないか?

 

 でも、いい家族だ。

 よかった。

 彼女は幸せに育った。

 この世界で愛されて育った。

 

 それを見届けただけでも俺の人生に意味はあった。

 もちろん、ここで終わらせるつもりもないけれど。


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