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07.side エクトリア王国


 カールとルーシャスは国王への報告のために、謁見室へと向かっていた。

 

「先程のご助力感謝します」

「いえ、わたくしは本当の事しか言っておりませんので」


 ちらりと振り向き、微笑みながら答える。

 そんなカールを見て、ルーシャスはしばらく考えた後に問いかけた。


「貴殿は神官なのですか?」

「はい。神殿に属しておりますが、わたくしが仕えるのはゼフィーナ神のみ。聖女様の神官に選ばれた事は、至上の喜びでございます」


 カールは足を止め、くるりと振り返り、真っ直ぐにルーシャスの瞳を見据えて答える。

 ルーシャスが目で問いかけると、軽く頷いた。

 そしてまた前を向き、ゆっくりと歩き出した。


「どうみる?」

「軽んじておられるかと」


 敢えて主語を入れずに問いかけても、思った通りの返事にルーシャスの口角がうっすらと上がる。

 ここは王宮内の廊下の一角。誰が聞いているか分からない所での会話としてはこれが限界だった。


「3分」

「?」

「陛下のおられた時間です」


 つまり国王が聖女と面した時間がそれだったと。

 この始終微笑みを絶やさない神官は、実はかなり憤慨しているのだと、ようやくルーシャスは気付いた。


「私はお眼鏡に適ったのかな?」

「わたくしは聖女様がお心安らかに過ごしていただけるよう、尽力する事こそが使命だと思っております」


 その言葉に確信する。

 この神官は、国よりも、神殿よりも、聖女を優先するだろうと。

 そして私は聖女側だと、判断されたらしい。


「これからもよろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 そして二人は何事もないように謁見室に向かった。



◇◇◇



 謁見室で待機していると、やがて国王が入ってきた。

 二人は頭を下げ、言葉を待つ。


「それで? 聖女様の承認は得られたのか?」

「はい。聖女様はランドール侯爵を後見人とお認めになられました。後ほど正式に書類にて提出させていただきます」

「うむ」

「陛下。奏上をお許し願います」

「……許す」

「聖女様との婚姻の許可を願います」

「……それは……前にも述べた通り、聖女様に我々が強要する事はまかりならんのだ」

「では、聖女様がお受けくださったら、許可していただけると?」

「う……む。良かろう、許可する」

「有難き幸せ」

「だが、無理強いは許さぬぞ」

「承知いたしました」


 そこで横に控えた宰相が声をあげた。


「陛下。侍女長から、聖女様のお世話に不安があるとの声が上がっております。ランドール侯爵であれば、どなたか適任者をご存知なのではないでしょうか?」

「うむ、ランドール侯爵よ。心当たりはないか?」


 ルーシャスは俯き、しばらく考えた後に答えた。


「それでしたらディアナ・ストレイス嬢を推薦させていただきます」

「確かストレイス伯爵の次女だったか。その理由は?」

「ディアナ嬢は我が領の お得意様(・・・・)でございます」

「なるほど。ではディアナ嬢をすぐに呼べ」

「畏まりました」



◇◇◇



 ディアナ・ストレイスは謁見室で控えながら、怯えていた。

 いきなり国王からの勅命で呼び出されたが、全く心当たりがない。だが拐われるように連れてこられたからには、何か重大な事があるに違いない。考えれば考える程、ぐるぐると思考がめぐり不安な想像しか思い浮かばない。

 プレッシャーで息が苦しくなる頃、ようやく国王がやってきた。


「面をあげよ」

「ディアナ・ストレイス、お呼びにより参上いたしました」

「うむ、ディアナ嬢。其方を聖女様の世話役に任ずる。とくと仕えよ」

「……畏まりました」


 それだけ告げると、国王はさっさと立ち去ってしまった。

 どうして良いか分からず、躊躇っていると国王と共に入ってきた神官が声をかけてきた。


「初めまして。わたくしは聖女担当のカール・ノートクリストと申します。ストレイス伯爵令嬢は、ランドール侯爵からの推薦でこちらに呼ばれたのです」

「……ランドール侯爵が?」


 一切面識のないランドール侯爵が、一体なぜ自分を?

 聖女様のお世話役とは?

 全く理解が出来ない。確かに浄化魔法は使えるが……そんな話ではなさそうだし……。

 

 不安そうなディアナにカールは優しく語りかける。


「聖女様にお会いすればわかりますよ。ご案内しますね」

「……よろしくお願いいたします。それと私の事はディアナとお呼びください」

「有難うございます、ディアナ嬢。では、わたくしの事はカールと」

「はい、カール様。それにしても聖女様がついにおいでになられたのですね。喜ばしい事です!でも全く知りませんでした」

「そうでしょうね。聖女様が来られたのは今日ですから」

「えっ! そうなのですかっ!?」

「はい。ですから貴女様が呼ばれたのです」


 全く意味が分かりません……とは思いつつも、そんな事は口に出せず黙ったままカールの後についていった。




 聖女の部屋の前まで着き、カールが侍女に入室の許可をとっている。


 いきなりの事で混乱していたが、自分が聖女に会えるなどとは露ほども思っていなかったディアナ。

 いざ扉の向こうに聖女がいると思うと、先程とは違った緊張が襲ってきた。




 ゆっくりと扉が開き──



 そこでディアナは運命と出会った。




 今まで私が愛していたあの子達は、一体なんだったのだろうか?

 もちろん今でも愛しているが、それとは別次元の、まさに理想とも言うべき姿が私の目の前に居る。

 しかも!動いているではないですかっ!!



 その感動に、心が震えた。いや、実際に体も震えてた。



「どうされましたか?」



 ズキューンッ!!

 

 こてんと首を傾げられ、その動作に心も撃ち抜かれた。




 ……喋った……しかも声も可愛い……。




 ぽーっとなっていたが、はっとようやく正気に戻った。


「初めまして、ディアナ・ストレイスと申します」


 今まで散々繰り返したカーテシーを、今生で最も美しく見えるように行う。

 そして素早く聖女の前まで行き、跪く。


「聖女様のお世話役に任ぜられましたディアナでございます。どうぞよろしくお願いいたします」

「お世話役?」

「はい! 明日より聖女様の身の回りの全てのお世話をさせていただきたく! どうか、私の事はディアナとお呼びください!!」

「そ、そうですか、ディアナさん……よろしくお願いしますね」

「はい! 有難うございますっ!!」


 そして改めて聖女の部屋を確認し、眉を顰めて言う。


「これでは……聖女様が大変なのでは?」

「ええ、ですからランドール侯爵が今、ご用意してくださっています」

「そうですか……では、私も明日少しお持ちいたしましょう」

「よろしくお願いします」


 そんなカールとディアナのやりとりを見ていた楓が、おずおずと言った。


「あの…良かったら窓の外を見せてもらえませんか? ちょっと気になってたんです」

「えっ!? あ…あのっあのっ! ……抱き上げてもよろしいのですか?」

「はい、私はこのなりですので……よろしくお願いします」


 思いもかけないご褒美にディアナはすでに涙目だ。


「では……失礼しますね」


 そう言って後ろから楓を持ち上げ、窓に近付く。


「わぁ〜お庭も綺麗ですね」

「落ち着かれましたら、散策に行かれてはいかがでしょう? 陛下から王宮内は自由にして良いと許可が下りてますよ」

「そうなんですか? ぜひ行ってみたいです!」


 そんな会話をし終えた楓を、ディアナは無意識にくるりと向きを変えて抱っこする。そのままソファーまで行き、そっと下ろす。


「……ディアナさんってすごいですね」

「え? 何がでしょう?」

「ものすごく安定してて、初めて抱っこされても怖くなかったです」

「そ、そうですか? 有難うございます!」


 ディアナは無意識で行なっていたことに、今更気付いた。

 ん?初めて?


「今までは怖かったのですか?」

「はい、少し……」

「ちなみに何方が?」


 言い辛いのか目線を泳がした後に、ディアナを手招きして呼んだ。

 近付いて耳を寄せると、楓がそっと告げた。


「王子様と……その……侍女さんに下ろされる時がちょっと怖くて……」

「なるほど。分かりました」


 にっこりと微笑み、「ではまた明日参りますね」と告げて下がった。



 

 ディアナは前を歩くカールに問いかけた。


「陛下はどちらに?」

「今でしたら、おそらく執務室にいらっしゃるのではないかと思います」

「では、案内をお願いいたします」

「……はい、こちらです」



 執務室に着き、許可を得て入室する。 


「ディアナ嬢? どうした?」


 俯いたディアナはツカツカと国王の元へを近付き、バンッと机を叩いて詰め寄った。


「陛下っ! どうか、私に聖女様のお世話に関する全権をお渡しくださいっ!」

「はぁ!?」


 何を言っているのだ? この小娘は?

 先程は震えていたように見えたのに、この豹変はどうした事だ?

 不敬罪と取られてもおかしくない態度なのに、全く躊躇する様子もないぞ?


 珍しく感情がだだ漏れな国王の目が語っていた。


「今の侍女達に聖女様は任せられません! どうか、私に選ばせてもらえないでしょうか?」



 ちらりと宰相を見ると、コクリと頷かれた。

 まあ、そんな事くらいどうでもいいだろうと思い了承した。

 その答えを聞き満足し、満面の笑みでディアナは去っていった。


 国王はディアナの去った扉をしばし茫然と見て、ぽつりともらした。


「何だったんだ?」

「さぁ? でもまあ、しっかりと働いてくれそうですな」

「……そうだな」


 アレに関しては、もう彼奴らに任せておけば良いだろう。


 そう判断してウォーレンは、聖女の事を頭の隅に追いやった。




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