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57.side エクトリア王国


 第一王子であるレナルドの婚約発表の夜会に、楓が出席するという話は瞬く間に貴族の間で広がった。


 楓が大聖女となってから、公の場に出た事はない。

 さらに国王であるウォーレンから、楓を夜会や茶会などに誘う事を一切禁じられた。

 楓自身が望んでいないと言われてしまえば、誰からも文句は出ない。


 文句はないが、出来ればお会いしたい。


 それは貴族のみならず、全国民が思っている事であった。


 

 なぜか楓の額にあるブラックダイヤモンドを一目見るだけでも、幸せになれるという噂まで広がってしまっている。(それは『アリス様を見守る会』の会員達が、楓の額を見た者を羨ましがったり、見ただけで幸せ〜と喜んでいたりしたのが広まったせいだったりする)


 そんな事もあり、会える機会を逃すまいと全貴族達が夜会への出席を希望した。




 そんな中、エリザベスとアンジェリカは悶えていた。

 

 夜会への出席の参加を示すカールの書いた手紙の中に、楓から二人への手紙も入っていたのだ。


 それは挨拶、夜会への参加希望、近況報告などありふれたものだったが、二人にとっては何よりも変え難い物だった。


 


 なぜならば──



 手紙が小さいのだっ!!




 当初普通サイズで手紙を書こうとしていた楓だったが、あまりにも書き辛かったため試しに紙を切り、自分で小さな封筒や便箋を作ってみた。

 それを殊の外ディアナが気に入り、是非自分にも書いて欲しいとお願いしたのを見て、これなら喜んでくれるかも、と思い書いた手紙だった。


 普段見慣れたものが小さくなると、それだけで心躍るが、さらに楓が書いたのだ。


 二人にとって、その価値は計り知れない。

 


 「早速お返事を書かなくては!」やら「もしかしたらまたお手紙がもらえるかも?」と王族らしからぬ喜び様を示す二人を横目で見ながら、ウォーレンは「……平和だな」とぽそりと呟いた。






 一方、王宮の侍女達は覇気がなかった。



 それもその筈、楓が王宮を去ったのだ。

 最初から分かっていた事だが、実際に居なくなってしまうと思いの外、ダメージが大きかったのだ。正確には楓成分が足りなかった。


 元々楓をお世話する人数は限られていたが、楓に関する事は会員達に毎日共有されていた。

 とは言っても、今日は何を食べ、どれを気に入ったのかとか、服の色は何を好むとか、そういった普段の生活に関することのみだったが。

 それでも毎日何かしらディアナから連絡事項があり、誰もが楓に少しでも関わっていると思えたのだ。

 

 それなのに楓が居なくなり、『アリス様を見守る会』なのに見守る事も出来なくなってしまった。


 楓が来る前の元の生活に戻っただけなのに、何だかやる気が起こらなくなってしまった。

 勿論仕事はきちんとこなしてるが、全体的に元気がなかった。




 そんな侍女達を見ていたエリザベスは、王宮の一角に『アリスの間』を作った。


 エリザベスが個人的に集めていたアリスブランドの品々を一堂に集めた部屋で、会員ならば誰でも入室を許された。

 一概に王宮の侍女といっても、それほど裕福でない者もいる。そんな彼女達のために、自由に触れる事の出来るアリス人形を提供したのだ。

 その他にも、楓に関する物もそこに集めた。エリザベス的に重要なものは閲覧のみの物もあったが、それでも会員達には喜ばれた。

 それぞれが時間を見つけては、『アリスの間』に行き楓成分を補給していた。



 楓が提案した人形用の椅子が出来上がり、貴族用の肘掛け付きの椅子が贈られ『アリスの間』に設置された。

 同時に楓から、王宮の侍女さん達への手紙も添えられた。

 それに会員達は歓喜した。


 またディアナから定期的に楓に関する事を報告してもらう事になり、会員達は一様に喜んだ。


 ちなみに楓は「ああ、ファンクラブの子達の為ね」と了承し、求められれば協力している。ディアナが過度な情報を流すとも思っていないので、好きにさせている。



 活気が戻った侍女達の様子を眺めながら、エリザベスはよしよしと御満悦だった。






 

「良かったのか?」

「何がでしょう?」

「其方はアレらを大事にしておったのではないのか?」

「勿論大事ですよ。でもあれもコレクションの一部ですので」

「……そうか。まあ、好きにしなさい」

「はい。有難うございます」



 自らのコレクションを侍女達に提供したエリザベスを見て、ウォーレンは問いかけたのだが、そんな心配は無用だった。



 なぜならエリザベス専用の『アリス部屋』も作っていたから。



 そこには楓から、エリザベスに直接贈られたもの達が並ぶ。

 勿論自ら購入したものもある。


 だが楓が王宮を去ってから気付いたのだが、エリザベスに贈られたものは特別な刻印がなされていたのだ。


 首の後ろ、髪に隠れる頸に小さく『E』と掘られていたのだった。


 それに気付いた後、改めて見てみると楓から贈られたものには必ずどこかに刻印が入っていた。

 アンジェリカのも調べてみたら、贈られた数は少ないものの、それらにもちゃんと『A』が刻まれていた。


 それは自分のためだけに作られたという証拠。


 二人は楓への愛と感謝を深めた。





 それらの刻印入りのブランド品は、当初からこっそり楓がミレーに頼んでおいたものだった。

 楓はディアナやエリザベスによくしてもらっていると感謝していたので、カールにお願いしてみたのだ。

 それぞれの特注品を贈りたいと。


 楓はお金を持っていなかったので、ブランドの売り上げから出せないかと相談してみた。

 するとカールから「ええ、構いませんよ。ではわたくしの刻印は『C』でお願いしますね」と笑顔で言われてしまった。

 ミレーの所にはルーシャスと共に行っているので、「私は『L』だな」とルーシャスの分も既に決まっていたりする。


 楓はディアナとエリザベスに、としか考えていなかったが二人とも当然のように言ってきたので、まあ、いいかと了承しておいたのだった。


 

 そしてディアナにしても、エリザベスにしても、楓から贈られたもの以外にも自ら購入し、普段はそちらの方を使っていた。

 ディアナはかなり前に 刻印(それ)に気付き、楓からの特注品は殊更大事にしていたのだった。





◇◇◇




 婚約発表の行われる夜会会場では、大勢の貴族達が期待に胸を膨らませて、楓の登場を待っていた。


 名を告げられ、入場してきた二人を見て、会場中が響めいた。


 そこには見た事のない淑女を連れたルーシャスが立っていたからだ。


 ルーシャスの美しさは今日も際立っていたが、隣に立つ女性も美しかった。

 珍しい黒髪に、象牙色の肌、吊り目がちな大きな瞳は吸い込まれそうな程深い黒。背の高いルーシャスと並んでも釣り合いの取れるスラリとした体躯。

 極め付けは額に輝くブラックダイヤモンド。


 

 楓がゼフィーナ神の加護で大きくなったという噂は聞いていたが、実際に見たものは各国の王族と高位の神官のみ。あくまで噂でしかなく、殆どの者は信じていなかった。


 だが、実際に見てみれば誰もが理解する。



 まさに奇跡。


 ゼフィーナ神の愛し子、大聖女。


 

 誰もがその姿を、拝見出来た事に感謝した。 

 



 その後、王族達が入場し、ウォーレンがレナルドと公爵令嬢であるセレスティーヌの婚約と同時にレナルドの立太子が発表された。



 そしてまず主役である二人が踊る。

 その後、王族達が躍るのだが、そこに楓達も加わった。


 楓はディアナの厳しいレッスンに耐え、一曲だけなら見栄え良く踊る事が出来るようになっていた。勿論こっそりその曲を流してもらうようにお願い済みだったりする。




 王族に負けず劣らずの容姿に加え、素晴らしいステップを踏む二人に皆感嘆した。



 曲が終わりに近付くにつれ、男性陣がソワソワしだした。


 この国ではダンスは男性から申し込む。

 誰に申し込んでも良いが、断られれば必ず引かねばならないというのが一般的なマナーだった。



 もしかしたら大聖女と踊れるかもしれない。

 むしろ、声をかける事が出来れば上々、と思いはじめたのだった。



 ルーシャスの楓に対する溺愛ぶりを見てきた女性陣は、そんな男性陣を呆れ顔で見ていた。



 そしてそんな淡い願いは、あっさりと消えた。


 ダンスが終わった途端、楓はルーシャスの腕の中で小さくなってしまったのだった。


 

 それを見てまた会場中がざわめいた。


 目の前で起こった奇跡に、人々は感動したのだった。



 


 そのまま王族の横に設置された楓様の椅子に戻ってしまうと、諦めたようでそれぞれのパートナーと共に踊り出した。


 


 あまりに自分達が注目されてしまい、主役の気分を害していないかと楓は気にしたが、当の本人であるセレスティーヌはキラキラした瞳で楓を見ていた。


 ちなみにエリザベスもアンジェリカも同じ瞳だったので、大丈夫そうだと楓はほっとした。



 

 その後、楓は早々に会場から去ってしまったが、お姿を拝見出来た事、奇跡をこの目で見れた事で、全員満足だった。


 今度はいつお会い出来るだろうか。そう思いながら会場を後にしたのだった。





 だが──


 この日以降、楓が公式の場に姿を現す事は、二度となかった。





 

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