56.はい!コーチっ!!2
寝ているルー様のお顔を眺めて思う。
なんて美しい人なのだろうと。
宣言通りに寝ているルー様に悪戯しても、全然怒らないし、あまり起きない。
ちゃんと三つ編みにもしてみた。
ルー様の髪はハリとコシがあって、サラッサラの銀髪だ。あまりに綺麗なので光に透かして見ちゃったよ。
三つ編みにしてみたけど、手を離すとハラリと元に戻ってしまうという理不尽な目にあった。
睫毛も銀色でなっがいの。
長いけど銀色だから目立たなくて気付かなかった。彫りも深いから余計に。
近くで見ないと気付かない。
私だけが知っているルー様。
それはとても嬉しい。
睫毛も銀色。
何だか美味しそうで、はむはむと唇で食んでみる。
……ルー様と目が合った。
そのまま顔を押し付けられ、すぅーっと嗅がれる。
そしてぐりぐりされ、ぎゅうと抱き込まれてしまう。
身動きの取れなくなった私はそのまま、ルー様の鼓動を聞きながら眠りについた。
◇
私が大きくなっても、小さくてもルー様は変わらず愛してくれる。
……いや、多少は違うが。
大きくなっている時は、みんなと同じ時間を過ごせる事に気付いた。
そしてフィー様が言っていた目安。
それは目を瞑ると感じる白い 砂時計。
中には金色の砂が入っていて、常にサラサラと落ちている。
私がそれに気付いた時点で、三分の一くらいは落ちていた。
大きくなると砂が一気に落ちる。
つまりこの砂が落ち切った時が、私の寿命という事なのだろう。
ザァァァァ。
「雨が降っているみたい……」
音もそうだし、雰囲気も。
雨の音は常に聞いていても、気を向けないと気付かない。
それと同じ。
「……どうした?」
「ううん……なんでもない」
後ろから抱き締めてくれているルー様の胸に、頭を擦り付けながら答える。
この時間を得るために、命を消費しているとしても。
それでも代え難いのだ。仕方ない。
◇◇◇
ハァハァハァ……。
静かな室内に私の呼吸音だけが響く。
「アリス様、休憩なされますか?」
「……いいえ! まだまだっ!!」
「では、最初から」
「ハイっ!」
ディアナさんの鬼コーチ再び。
私は今、ダンスの練習をしている。
ルー様の変態疑惑を湧かせないためにエスコートをしてもらう事になり、改めて姿勢とかの指導をディアナさんにお願いした。
だってだって、最近ずっとみんなに抱っこされてばかりだし、小さな私の姿勢なんて誰も気にしなかったんだもん。
でも大きくなると目立つ。
周りの人は全員貴族。当然姿勢も良ければ、動作も綺麗だ。
そんな中、私だけぎこちない動きって、めっちゃ目立つハズ。
ルー様の横に立って、そんな無様な姿は見せたくない。
それでディアナさんに姿勢の指導をお願いしたのだ。
勿論快く引き受けてくれたけど、「アリス様、折角ですのでダンスもなされませんか?」と言われてしまった。
ダンス。
やった事などない。
私はどっちかというと運動は苦手。帰宅部でしたけど何か?
でも。
夢を見た。
綺麗なドレスを着て、ルー様と共にダンスをする。
そんな夢を。
地球にいた頃の私なら、やらなかっただろう。
そんな私の背中を 砂時計が推す。
自分の残された時間が分かるという事は、良し悪し。
私に残された時間は少ない。
夢を叶える時間も。
でもどうせなら、諦めたくない。
そう思った私は、気付けば「それは一人でも練習出来ますか?」と聞いてしまっていた。
ルー様の前以外で大きくなるつもりはない。
「大丈夫ですよ」と微笑むディアナさんにも推された私は、基礎から習っている。
ついでに体も引き締めるために、ダイエットも始めた。と言っても運動だけど。
夜会まで一ヶ月。私にとっては三ヶ月。
特にするべき事もない私は、昼も夜も練習した。
勿論夜は一人で自主練。
体力作りのために走り込みもしてる。私の部屋は私にとっては体育館並みの広さなので、夜中でも問題なく運動出来る。
出来得るならば、そこそこではなく、みんなに見てもらっても問題のないレベルまで。
汗だくになりながらひたすら同じステップを繰り返す私に、容赦ない指導を飛ばすディアナさん。
中々上達しない私に、丁寧に教えてくれる。有難いです。
何としても!
ルー様とダンスを踊るんだーっ!!
◇◇◇
「大分上手くなったね」
夜中に自主練していると、不意に声をかけられた。
振り向くと扉に寄りかかりながら、腕を組みこちらを見ているルー様が居た。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「ううん。それより、私も一緒に踊ろうか?」
「えっ? いえ、そんな……こんな夜に、悪いです」
「気にする事ないよ。さ、おいで」
「えっ!? いや、いいです! 私、今、汗くさいんでっ!!」
今、汗だくなんですぅ!
側に来ないでー!!
そう訴える私に、ふふと笑いながら寄ってくるルー様。
「いつも二人で汗だくになっているのに?」
!!
なんて事をーっ!
色気たっぷりで言わないでぇ〜。
「……二人でなら、良いんです」
一人だけってのが嫌なんです。
「じゃあ、これで良いだろう?」
そう言って浄化魔法をかけてくれた。
……それなら、まだ……。
タンタンタタ。
上手い。
なんて踊りやすいの。
初めて組んで踊ってみたのに、ちゃんと踊れている気がする。
「ルー様、ダンスも上手ですね」
「子供の頃から嗜んでいるからね。フォローなら任せてよ」
そう言ってウィンクしてくれるけど、腰が抜けるから止めていただきたい。
踊っているルー様も素敵だ。
横顔も好き。
私を見て、柔らかく微笑んでくれる顔も好き。
あぁ、好き過ぎる。
ぽーっとルー様の顔に見惚れてしまい、足が疎かになってしまった。
「どうしたの?」
「……ルー様に見惚れていました」
そう言うと、ふっと笑いながら組み替えて腰を抱いてくれる。
ゆらゆらとチークダンスのように寄り添って踊る。
「ルー様……私を好きになってくれて、有難うございます」
「ん? 本当にどうしたの?」
「だって……ルー様に好かれるなんて、奇跡だなぁっと思って」
「そんな事ないよ。私の方こそ、カエデに好かれているのが信じられないよ。有難う」
両手でそっと頬を包む。
「ルー様、愛してます」
「愛してるよ、カエデ」
そのまま柔らかな唇が降ってきた。
結局その日はそれ以上ダンスの練習は進まず、愛だけが深まった。




