55.疑惑
しばらくベッドの上で放心していると、コンコンとノックと共に「おはようございます、アリス様」と声がかけられた。
だらんと寝たまま、ど〜ぞ〜と声を掛けると「失礼します」と入ってきたディアナさんは私を見て、血相を変え駆け寄ってきた。
「アリス様っ!! 何処かお加減でも!?」
「ううん……ちょっと疲れただけ」
「どうなされたのですか? …………はっ! ま、まさかっ!? 旦那様がアリス様にご無体な事を!?」
ディアナさんはみるみる真っ青になったかと思ったら、今度は真っ赤になって怒り出した。
…………えーっと……これは……ルー様が私を襲ったと思われてる?
えっ!? いや、ちょっと待ってっ!!
「あっ!! 違うの! 私! ちゃんと大きくなったからっ!!」
今にも殴り込みに行きそうなディアナさんを、なんとか引き止める事には成功したが、改めて言うのが恥ずかしくなった。結果真っ赤な顔で、しどろもどろになりながら説明すると、ディアナさんは何故だか嬉しそうに微笑んでくれた。
「そうだったのですか。勘違いしてしまい失礼いたしました」
それからお願いしてお風呂に入れてもらい、自分のベッドでお昼寝する。
うとうとしながら、考える。
あー……でも確かにこのまま妊娠しちゃったら、ルー様の変態疑惑が湧きそう。
なんとかせねば。
◇◇◇
お昼を食べて、午後からはルー様と一緒に執務室に行く。
と言っても私がする事など何もない。
ずーっとルー様のお膝の上にいるだけだ。
邪魔じゃないですか? と聞いても、「全然、むしろ居て」と言われてしまう。
ルー様の執務室には、カールさんの机もあって一緒にお仕事をしている。
カールさんはここと王宮を行ったり来たりしながら、聖女に関する諸々の事を処理してくれているらしい。
私がここにずっといるので、必然的にディアナさんも執務室にずっと居る。ここには私用のコーナーもあるし、ルー様のお膝から降りたければディアナさんが阿吽の呼吸でおろしてくれたりもする。
一息ついたのを見計らって、カールさんに聞いてみた。
「近々王宮で、沢山の人が集まる催し物ってありますか?」
「そうですね……確か来月、第一王子殿下の婚約発表があります」
「それに、私は出れますか?」
「ご参加を表明なされば、歓迎されると思いますよ」
「何? ……カエデは第一王子殿下が気になるの?」
ん? 何やら室温が下がった気がします。
「いいえ、別に」
「なら、どうして?」
……ルー様の変態疑惑を解消するため、とは流石に言えないので……えーっとえーっと。
「い、一度でいいから大きくなって、ルー様にエスコートされてみたいな〜なんて……」
「そうかっ!! なら出席しよう! ディアナ、すぐに新しいドレスを作ってくれ」
「畏まりました、旦那様」
ぱあ〜と嬉しそうに満面の笑みを浮かべたルー様は、すぐにディアナさんとその準備に取り掛かってしまった。
何だか大事になってしまったけど、ルー様が嬉しそうだから、まぁいいか。
私の椅子に座って紅茶を飲みながら、その光景を眺めているとふとディアナさんと目が合った。
ディアナさんは何事かを考えた後、ルー様にお願いした。
「旦那様、僭越ながらお願いがございます」
「何かな?」
「はい、アリス様の座っていらっしゃる椅子ですが、私にも作っていただけないでしょうか?」
「何故?」
「……私のアリス様にも座っていただきたく……」
どうやらディアナさんは私の人形も、こんな椅子に座らせたいらしい。
確かに人形に小物は必要かも。
リ◯ちゃんハウスとか心躍るよねー。
「じゃあ、これも販売すれば良いんじゃない? 背もたれにブランドマークの模様でもつけて」
そう言った瞬間、ディアナさんの目がキラーンと光った。
「是非っ!! 是非、お願いいたしますっ!!」
食い気味に懇願するディアナさんにルー様は「わ、わかったから」と若干引きながら答えていた。まだまだ鼻息の荒いディアナさんをカールさんが宥めている。
「人形職人だけでなく、家具職人も忙しくなりそうだな……」
ぽそりと呟いたルー様のお顔はちょっと疲れて見えた。
余計な事を言っちゃったかな?




